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 十二月に入ると、“おがた”のレジ横にはクリスマスツリーが出現する。
 高さは一メートルくらいの、そんなに大きなものではないが、ちゃんと鉢植えの物である。この時期しか置かないのでレンタルだが。

「朔も、櫂ちゃんにプレゼントあげよう」
 わけのわからないことを言い出したのは杏輔である。
 何年も“常連”である杏輔から、新しく常連になった朔への助言らしいが。

「どゆこと?」
 首を傾げる朔と純也に杏輔が説明する。
「このツリーはね、俺たち客からの櫂ちゃんへのクリスマスプレゼントを贈るツリーなんだよ。小さくて夜一人でお留守番してる櫂ちゃんに俺たち常連がサンタさんになってやんの」

「……いや、あいつ今、働いてっけど?」
 朔が眉を顰める。
「今はねー。でも、小っちゃいころはさ、基本的に家で櫂ちゃんはお留守番してたわけさ。毎晩女将さんも大将も店に出てるから。で、そんな櫂ちゃんによく頑張ったねーって、クリスマスプレゼントをこのツリーにぶら下げてやんの」

「いや、俺別に一人で留守番とかしてねーし。ばーちゃんいたし」
 横から櫂斗が突っ込みを入れる。
 ――つーか、キョウさん常連なった時既に俺は中学生だったけど? 中野のおっちゃんから伝わったのかな。

「でもとーちゃんかーちゃんいないだろ? 寂しい思いしてんの知ってるしさ、そんな大したもんじゃないけど、ちょっとしたプレゼントをこのツリーに下げてやって、クリスマスの日に櫂ちゃんが喜んでくれるといいなー、みたいな感じで」
「俺にプレゼントしたら、誰か願い事でも叶ったのかなあ? なんか、いつの間にかそんな習慣ができてたよねー」
 生ビールを三人に渡しながら櫂斗が笑う。

「までも、ここ数年はさ、さすがに俺に、ってゆーより家族連れで来てるお客さんに小さい子がいたら、好きなようにオーナメントとかぶら下がってるヤツ持ってっていいよってことになってるけど」
 キャンディの入った小さなブーツや、キラキラしたオーナメント。あとは百均で買えるオモチャなんてのがぶら下がっているわけだが、そういうものを何故か常連客がぶら下げていくのである。

「あ。でも去年俺宛てにユニクロのパンツがぶら下がってたのはありがたかった。あれはイイ感じで使えた」
「そりゃー、私だよ。もうそろそろ文房具って歳じゃないだろうねって思ったからさ」
 横から金本のおばちゃんが口を挟んで来た。
 今日は友達のおばちゃんと二人連れだ。

「今年は櫂ちゃんだけじゃなくて、トモちゃんにもあげないとねえ」
「おばちゃん、トモさんにもパンツ?」
「いいねえ。私が選んだパンツをトモちゃんが履いてるなんて、なんかエロくていいじゃんか」
 金本のおばちゃんがニマニマしていると、横から「いいねえ、それ」と同じく朋樹ファンのお友達も言うから、
「じゃあ明日一緒に買いに行こう」なんて話になる。

「俺も、じゃあ櫂斗たちに何かプレゼント考えよっかな」
 純也が可愛く笑う。
「ジュンさん、俺その笑顔だけで全然おけ、だよお」
「櫂斗、浮気してると朋樹にチクるぞ?」
「あんだよ、朔、ケチケチしてんじゃねーよ。ジュンさんの笑顔はみんなのモンだろが」
「ばっかやろ。コレは俺の。おまえにはやらん」
 朋樹に対してのやり取りと同じようなことをやって櫂斗がくふくふ笑う。

「クリスマスかー。今年ってイブが木曜日だから店休日なんだよな。俺、トモさんち行こっかな」
「家族でパーティとかしないわけ?」
 朔が突っ込むと、
「櫂斗が小さい頃は店が休みの日にちょっとしたことはやってたけど、もうそんなトシじゃないからね」
女将さんが笑って答える。
「去年は仕事してたよ、俺も。広香と二人で。トモさんガッコの連れとクリパするからってイブ休んでたしさ」

 まだ想いを伝えられなくて。
 くすぶっている気持ちを悶々と抱えて櫂斗が“トモさん誰とクリスマス過ごしてんだよ”と、腐りながら仕事をしていた去年。
 堂々と口説けるようになったのは年が明けて暫くしてからだったから。

「ここんトコトモさん忙しいから店にも出れない日がちょいちょいあるし、なかなか逢えてなくてさ」
「店はデートの場所じゃないし、櫂斗もそろそろ仕事戻りなさい」
 杏輔たちと喋っていた櫂斗に女将さんがそう促すと、
「座敷の忘年会、まだお客さん来ないじゃん」
櫂斗が反論。
「すき焼きだから、コンロ用意しといて」
「してるし! ガスもちゃんと確認済だし!」
 母と子で睨み合う。

「女将さんに張り合うなんて十年早い。櫂斗、ヒマならシンクの食器洗っておいて」
 結局ほのかにお尻を叩かれ、櫂斗がふくれっ面で洗い物にかかった。
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