上 下
143 / 167
<6>

☆☆☆

しおりを挟む
 二人がそうやってじゃれているのを、朋樹はただ茫然と見ていることしかできなくて。
 だって毎度のことながら、意味が、わからない。
 
 基本的に人の言葉の表面しか捉えられない自分だってことはちゃんとわかっている。
 逆にこの二人が、言葉の裏側ばかりを読み合って、肝心な部分だけボかして会話して、こっちを翻弄して楽しんでいることだって、勿論わかっているけれど。

「えと……ほのかはさっくんの彼女じゃなくて、キョウさんの、彼女?」
「そ。だからキョウさんは最近俺のいない時間にウチに来ては、ほのか口説いて帰ってくの」
「口説いてねーっつの」
「あーごめんごめん、デートの約束して帰ってくの」
「それもしてない。いい加減なこと言ってんなよな」
「ほんとのことゆってるもーん」
 再びじゃれ合って。
 姉と弟、な二人の関係は可愛いけれど、朋樹にはやっぱりちょっとジェラ。

「じゃあさ、さっくんは? 誰と付き合ってんの? 俺、ちゃんとフったよ?」
「うん、フったねえ。えらかったよ、トモさん。トモさんが朔に応えてたら確実に泣いてる人がいたわけだから。あ、まあ俺もだけどさ」
「だってさっくん、俺に対してちゃんと本気で向き合ってるわけじゃなかったじゃん。俺口説いてるフリして櫂斗とじゃれるのを楽しんでるっぽかったし」

 朋樹の意外な目線に、ほのかが笑う。
「ほほー、それはまた斬新な見方だな」
 櫂斗は眉を顰めて不快な表情を浮かべているが。

「さっくん、だって櫂斗のこと絶対好きだろーなーって思ってた。多分、スキなコイジメて自分に構って欲しいって感じで。だから俺のことダシにしてんだろなって。ね、俺だってちゃんとそーゆー読み、できてるだろ?」
 二人ばっかで楽しんでるのはずるい、とばかりにドヤってみせると。

「ま、あながち間違っちゃーいないと思うよ。だいたいこの店の常連はみんな、櫂斗のこと大好きだからね」
 ほのかがフン、と鼻で笑う。
「それほのかの勘違いだからね、ゆっとくけど。うちの客、基本的にほのか狙いで来てんの。雫ですら、それ気付いてたぜ? いい加減認めろっつの」
「はいはい、勝手に言ってなさいって。看板息子って肩書が重いんだろーけど、それはもうあんたの持って生まれた宿命だと思ってちゃんと背負っときな」
 この件に関しては、二人の意見は絶対にすれ違う。
 お互いに一歩も譲らないから、お互いに“まーたゆってるし”と内心鼻で笑って争いを避ける。

 仕方がないから女将さんが、レジの前で“あなたたちは三人共看板です”とだけ内心主張しておく。

「櫂斗、今日どーすんの? トモくんち?」
 レジ締め作業を終えた母から問われ、
「うん、トモさんちー。明日のバイトまで帰んない」
と答えると、朋樹が「いつもすみません」と頭を下げた。

「あそ。じゃあ二人共店の戸締り確認して、ウチから出てねー。あたし、もう家帰るから後は任せた」
 基本的に休前日は朋樹の家に櫂斗が泊まりに行くのが当たり前になっているので、慣れたものである。
 塾があればちゃんと行っているし、なくても宿題や自学自習は一応やっているのは母もその成績で認めているから、二人の関係に口を出すこともない。

「あれから、連絡あった?」
 ほのかの問に、
「ないねー」すぱん、と答える。
 当然、櫂斗はほのかが何を訊いているのかわかっているし、朋樹にはさっぱりわかっていないわけだが。

「だから多分、上手くいってんだろ」
「あー、ねえ」
「……そーゆーのがムカつくんだってば!」
 朋樹が口を尖らせて、二人で笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...