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「まじ、かっけーな、ほのか」
「高校時代、女の子きゃあきゃあ言わしてたからね。多分キョウさんよりモテますよ、自分」
カウンターに入り、洗い物を片っ端から片付けながらニヤリと嗤う。
「くっそ、否定できん」
当然ながら、杏輔の相手はほのかに任せて、女将さんとしては完全放置。
と、思いきや。
「あ、卵焼き、食べたい。女将さん、ほのかに焼かせていい?」
杏輔が突然そんなことを言い出した。
「あら、いいわね。ほのかちゃんの為になるから、お代はあたしが持つし、ちょっとやってみよっか?」
「まじっスか? 自分、料理全くできないんですけど?」
「うそ。パパからちょいちょいコツ聞いてるでしょ? おうちで試してないとは言わせないわよ」
女将さんの何もかもお見通しな言葉に、ほのかが照れて顔を顰めた。
「失敗してもキョウさんがちゃんと食べてくれるから、ほのかちゃん、やってみよ」
女将さんの卵焼き、というのは。
実際のところ、彼女が子供の頃から慣れ親しんだ味で。
恐らくどんなお店とも違う味付けがされていて、焼き加減も絶妙な逸品。
この味付けに関しては、今のところ櫂斗にだけ伝授しているが、基本的には女将さんの目分量だから基本を教えてしまえば後は慣れだけで。
カウンターの中でその基本をほのかに伝える。
あとは普通に誰もが焼いている卵焼きと同じ要領でくるくると焼いていくだけだが、それに関してもちょっとしたコツを伝えて。
元々器用なほのかだから、女将さんがちょっとしたアドバイスをするだけで見た目はいつもの“女将さんの卵焼き”と大差ないものに仕上がった。
「すごいじゃん、ほのか。見た目は百点じゃね?」
杏輔が感心する。
「でしょお? やっぱほのかちゃんって手際がいいのよ。器用だから何でもこなしちゃう」
「女将さん、食べる前にハードル上げないでください」
でも実際のところ、杏輔が一口食べたら、
「んま。いいじゃん、女将さんのと変わんないよ」と目を丸くして。
「ま、惚れた贔屓目もあるだろうから評価は半分で受け取っとくよ」
「おまえ自分で言うか、それ」
「でも実際そうでしょ? 何度も言うけど自分、今までモテる人生送ってるんで、惚れられてるって自覚はちゃんとあるんだよ」ただし、相手は女子に限るけれど。
「くっそー、どうしてくれよう、この自信過剰」
「大丈夫。過剰な自信じゃなくて相応な自信だから」
もはやノロケとしか受け取れないやり取りになったので、夢乃はしれっとフェイドアウトする。
思い描いていた“イチャイチャ”とは多少雰囲気が違う気もするが、この二人に関してはこれがベストなのだろうから、もう何も言えない。
そして女将さんが店内を見渡すと、朋樹が女性二人組の常連さんと談笑している姿が視界に入った。
ここ数か月で頻繁に訪れるようになった、二十代後半くらいのOLさんで、朋樹と櫂斗が並んでいる姿を見てはキャッキャウフフとやっているから、きっとソウイウ趣味の方々だろう。
二人が実際に恋人同士だと信じているのかどうかはわからないが、櫂斗が“俺のトモさん”と言う度に悶えているし、かと言ってそれを変な方向に広める様子もないので傍観している。
店内で堂々と二人が恋人宣言しているわけではないし、それをさせるつもりもないけれど、でも二人が幸せそうにアイコンタクトを交わしている様子や、さりげなく櫂斗が朋樹のフォローをしている姿なんて、きっと見ている人にはわかるだろうから。
二人の関係は二人だけのモノで、夢乃としては息子が幸せならそれでいいと思う。
だって朋樹だってもう、自分にとっては息子みたいなものだし。
二人が二人がお互いにお互いを大切に思っているのなんて、目を瞑ってたって伝わってくる。
世間様の誰が二人を否定したって、親である自分が誰よりも二人の味方だから、この店の中でだけは絶対に護ってみせる。
今夜も“おがた”は女将さんの鉄壁の護りに包まれている。
「高校時代、女の子きゃあきゃあ言わしてたからね。多分キョウさんよりモテますよ、自分」
カウンターに入り、洗い物を片っ端から片付けながらニヤリと嗤う。
「くっそ、否定できん」
当然ながら、杏輔の相手はほのかに任せて、女将さんとしては完全放置。
と、思いきや。
「あ、卵焼き、食べたい。女将さん、ほのかに焼かせていい?」
杏輔が突然そんなことを言い出した。
「あら、いいわね。ほのかちゃんの為になるから、お代はあたしが持つし、ちょっとやってみよっか?」
「まじっスか? 自分、料理全くできないんですけど?」
「うそ。パパからちょいちょいコツ聞いてるでしょ? おうちで試してないとは言わせないわよ」
女将さんの何もかもお見通しな言葉に、ほのかが照れて顔を顰めた。
「失敗してもキョウさんがちゃんと食べてくれるから、ほのかちゃん、やってみよ」
女将さんの卵焼き、というのは。
実際のところ、彼女が子供の頃から慣れ親しんだ味で。
恐らくどんなお店とも違う味付けがされていて、焼き加減も絶妙な逸品。
この味付けに関しては、今のところ櫂斗にだけ伝授しているが、基本的には女将さんの目分量だから基本を教えてしまえば後は慣れだけで。
カウンターの中でその基本をほのかに伝える。
あとは普通に誰もが焼いている卵焼きと同じ要領でくるくると焼いていくだけだが、それに関してもちょっとしたコツを伝えて。
元々器用なほのかだから、女将さんがちょっとしたアドバイスをするだけで見た目はいつもの“女将さんの卵焼き”と大差ないものに仕上がった。
「すごいじゃん、ほのか。見た目は百点じゃね?」
杏輔が感心する。
「でしょお? やっぱほのかちゃんって手際がいいのよ。器用だから何でもこなしちゃう」
「女将さん、食べる前にハードル上げないでください」
でも実際のところ、杏輔が一口食べたら、
「んま。いいじゃん、女将さんのと変わんないよ」と目を丸くして。
「ま、惚れた贔屓目もあるだろうから評価は半分で受け取っとくよ」
「おまえ自分で言うか、それ」
「でも実際そうでしょ? 何度も言うけど自分、今までモテる人生送ってるんで、惚れられてるって自覚はちゃんとあるんだよ」ただし、相手は女子に限るけれど。
「くっそー、どうしてくれよう、この自信過剰」
「大丈夫。過剰な自信じゃなくて相応な自信だから」
もはやノロケとしか受け取れないやり取りになったので、夢乃はしれっとフェイドアウトする。
思い描いていた“イチャイチャ”とは多少雰囲気が違う気もするが、この二人に関してはこれがベストなのだろうから、もう何も言えない。
そして女将さんが店内を見渡すと、朋樹が女性二人組の常連さんと談笑している姿が視界に入った。
ここ数か月で頻繁に訪れるようになった、二十代後半くらいのOLさんで、朋樹と櫂斗が並んでいる姿を見てはキャッキャウフフとやっているから、きっとソウイウ趣味の方々だろう。
二人が実際に恋人同士だと信じているのかどうかはわからないが、櫂斗が“俺のトモさん”と言う度に悶えているし、かと言ってそれを変な方向に広める様子もないので傍観している。
店内で堂々と二人が恋人宣言しているわけではないし、それをさせるつもりもないけれど、でも二人が幸せそうにアイコンタクトを交わしている様子や、さりげなく櫂斗が朋樹のフォローをしている姿なんて、きっと見ている人にはわかるだろうから。
二人の関係は二人だけのモノで、夢乃としては息子が幸せならそれでいいと思う。
だって朋樹だってもう、自分にとっては息子みたいなものだし。
二人が二人がお互いにお互いを大切に思っているのなんて、目を瞑ってたって伝わってくる。
世間様の誰が二人を否定したって、親である自分が誰よりも二人の味方だから、この店の中でだけは絶対に護ってみせる。
今夜も“おがた”は女将さんの鉄壁の護りに包まれている。
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