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「おい! 何だよ、それ。誰でもいいって、なん?」
「誰でもいいもん。周りみんな経験済みばっかんなって、私一人まだって、ちょおハズイじゃん。だから、とっととヤっちゃいたかっただけだもん」

 雫のとんでもない発言が再び櫂斗の逆鱗に触れる。

「はあ? おま、まじふざけてんなよ? ヤるヤらないってのは、気持ちがあった上でのコトじゃねえのかよ! 見栄なんかでスることじゃねーだろ? まじ、おまえの周りの女子、オカシイって!」
「オカシくないし! みんな高校入ったらとっととカレシ作ってるし! したら、そういう関係になるのって当たり前じゃん! だから私だって、カレシにシよってゆったのに! あいつ、びびって何もできないって。バカじゃないの?」

「カレシは、本気で雫ちゃんが好きだったんだと思うけど」
 今度は純也が冷静に二人の間に入る。
 少なくとも、自分が高校生の頃は“付き合う”ってのはイコール体の関係、ってわけではなかったから。

 朔と出逢う前に付き合っていた彼女とは、体の関係なんてなかった。ただただ好きで、ただただ大事に想っていて。でも、お互いの環境が違ってしまって、彼女は学生で自分は社会人になったから、気持ちがすれ違ってしまって。結局溝がどんどん深まってそれを埋めることができなくなって、彼女は自分から離れて行った。
 それは、体の関係の有無ではなくて気持ちの問題で。

 恐らく朔は自分のこんな子供みたいな感情は理解してくれないだろうから。
 雫の元カレの感情は、多分自分にしかわからない。

「本気で好きで、大事に想ってて。でも、そんな簡単にデキるようなことじゃ、ないよ。少なくとも、男としては彼女のこと大事に想うからこそ、手なんか、出せない。高校、一年だっけ? なら、まだそんなの無理だよ。女の子が思うより、男って全然子供なんだよ。手、繋ぐだけでいっぱいいっぱいなんだから」

「ジュンさん……」
 ダメだ、これは。男である櫂斗からしても、このちょっと照れてはにかんだ微笑みなんて、可愛いとしか思えない。
 そう思って朔を見ると、完全に心臓をぎゅんぎゅんに握られてる表情をしているから。
 そんな顔、雫に見せるわけにはいかないと、櫂斗は朔を睨みつける。

「雫ちゃんが元カレのこと、どう想ってたのかはわかんないけどさ、少なくともカレシは雫ちゃんのことが好きだったんだと思うよ」
「……そんなの……わかんないじゃん」
「わかるよ。だって、そういう事、したいって思うのは男だって同じだもん。でも、したいって思っても相手のこと大切だって思うからこそ、できないんだよ」
 純也が優しく諭す。
「そりゃ、大人になってさ、いろいろなこと経験してたら簡単にデキることかもしんないけどさ」
 それは、暗に朔に対する批判も含めているように、櫂斗と朔には聴こえたが。

「そんなの大人になったらいくらでもできるんだから、今はカレシの“雫ちゃんが大事”って気持ちを受け止めてる方が全然幸せだと思うよ?」
「……無理だよ」
「無理じゃねーよ、たぶん。雫にフられて腐ってるカレシに、もっかいちゃんと向き合ってやればいんじゃね?」
 雫が純也の話に耳を傾けたことがわかったから、やっと櫂斗が、普段の冷静さを取り戻す。
「雫だって、誰でもいいってわけじゃなかったろ? そいつと付き合うって決めたのも、付き合うってなってからそういう関係を迫ったのも、全部そいつのこと好きって気持ちがあるからだろ?」

 大人ぶって、早く処女なんて捨ててしまいたいなんて強がっている雫が、やっぱり櫂斗には不自然だったから。
 実際に雫がいろんな男にモテてるのはわかるし、選り取り見取りだってことはわかるけれど、だからといってそこから選ぶのはやっぱり自分の“想い”がある相手なわけで。
 モテるからって“好き”な気持ちを軽んじなくてもいいじゃないか。

「ちゃんと向き合ってきな。そいつがちゃんと雫を好きだったなら、多分まだおまえのこと諦めてなんかないからさ。人を好きなるのって、そんな簡単なことじゃないから。だから、諦めるのも簡単じゃないんだよ」
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