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「朔! ちょっと、どーゆーことか説明しろよな!」
 と、朔の部屋に乗り込んできたのは、恋人の純也で。
 今夜はお互い仕事があるから会えないと思っていただけに、かなり驚いた。
 お互い、部屋の合鍵は持っているから当たり前に扉を開られるわけだが、いつもならちゃんと「今から行くね」と可愛くラインが入るから。突然扉が開くと、それはやっぱり驚くわけで。

「えっと、どした? いや、逢えないと思ってたから、来てくれてめっちゃ嬉しいけど」
「今日、久しぶりに島村印刷の山田さんトコ行ったら、朔が高校生とデートしてんの見たってめっちゃ嬉しそうにゆってた!」
 島村印刷と言えば、二人で組んでいた時によく顔を出していたお得意先で、今は純也が跡を引き継いでいる。
「朔の周りで高校生、つったら櫂斗しかいないじゃん! 朔、やっぱり俺にナイショで櫂斗に手、出してんだろ!」

 ああもう、めんどくさい。
 朔は内心ため息を吐く。
 まさかの目撃情報リークに、完全に参ってしまう。
「あのさ、純くん。ちょっと、落ち着こうか」
「朔! 何、誤魔化す気?」
 彫が深い整った顔立ちの純也は、怒ると結構キツい。

「誤魔化さない、誤魔化さない。ちゃんと全部説明するから、ね?」
 とりあえず、ジャケットを脱がせてハンガーに掛ける。ソファに座らせると、缶ビールを出した。

「あのね、山田さんがデートしてたって言ったんでしょ? その場合、普通は俺の横に並んでるのは女の子、ってことになんない?」
「櫂斗は、可愛いから女の子に間違われるだろ」
「いやいや、ありゃーどっからどう見ても男の子だよ。じゃなくて、誰が見てもデートしてるって思われるってことは普通、女の子でしょーが」
「でも朔の周りで高校生つったら櫂斗しかいないじゃん」
 しかも“可愛い高校生と並んでデートしてるの見たのよお”なんて言われたら、そんなの、櫂斗以外にいるわけがない。

「じゃなくて。あれは、櫂斗じゃなくて櫂斗の従妹。女将さんの妹の娘ちゃんで、雫ちゃん」
 言っても言わなくても構わないと思っていたから、とりあえず暴露する。純也を怒らせてまでナイショにしておくような相手ではない。

「こっちに遊びに来てて、でもほら、土曜日ってあの家忙しいだろ? 相手できないから俺が子守してただけ」
 杏輔にはほのかがいるし、一応表向きは“フリー”という立場をとっているから、と。普通に説明して。
「俺が女の子相手に何もできないっての、純くんだって知ってるでしょ? ほら、ね? 浮気なんてできっこない」
「でも……」
「あー、二人きりで会ってたってのが気に入らない? でもそこはも、ごめんけど俺のこと信じてとしか言えない。だって、わかるだろ?」
「…………」
「俺、純くんとしかもう、何もないって。ちゃんと約束したじゃん。ましてや相手、女の子だよ? 俺が女の子相手に営業スマイルしかしてないの、知ってるでしょ?」

 鼻息荒く殺気立っていた純也が、少しずつ落ち着いて。
 朔はまだ口を尖らせている純也に微笑むと。

「俺が心から笑えるのは、純くんだけだよ」
 頬にそっと触れる。
 夜はもう冷えるから、興奮しているけれど夜風に当たってきた純也の頬は少し冷たくて。

「ヤキモチ、嬉しいよ。でも、そんなに怒ってたらしんどいでしょ?」
「……ごめん、早トチリしてた」
「ん。大丈夫。純くんが謝ることじゃないし、誤解させたことはこっちがごめんだから」
 しゅん、としてしまった純也が。可愛くて仕方ないから。

「ゆったじゃん、逢えないって思ってたから、逢いに来てくれて嬉しいって。ね、泊ってくだろ? 明日、うちから一緒に出勤しよ?」
 ぎゅっと、抱きしめて。
 とりあえず、ほっとする。
 誤解させることをしてしまったのは申し訳ないけれど、でも相手が相手なだけに完全に問題なんてないから。
 やましい気持ちだってないし。いや、むしろ相手からの好意に困惑しているわけだけれど。

「朔……」
 上目遣いの、この大きな黒い瞳が。
 本当に可愛いと思う。
 白い肌も少し上気してほんのり赤くなって、ちょっと薄い唇が、でもうるうるして半開きになっているから。
 そのまま、キスをする。
 だって、食べてって言ってる。

 最初はそっと。でも、迎え入れるように開いているその間から舌を入れて、中を味わう頃にはもう、熱は高まっていて。
 キスだけで、お互いの欲望に火は灯っている。
 朔は唇の間に隙間を作ると。
「ベッド、行こ」と言って、促した。
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