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「あのさ。自分、櫂斗のこと大事だと思ってるわけ。で、まあ状況的に櫂斗が大ごとにしたくないってのも、わかるし。ま、こうやって詫び入れるってのも、反省してるってことだとは、わかるのね」
 ほのかが、ぽつぽつと、言う。

 朋樹としては、拳を握りしめていたりも、する。
 当たり前だ。
 ここで会ったが百年目、じゃないけれど、ボコボコに殴り倒したい。
 でもその手を櫂斗はそっと包み込んだ。そして首を振る。
「トモさん、殴っちゃ、ダメ」

「ああ、芳賀が殴るとやっぱ、ちょっとマズい気がするよ」
 ほのかが鼻で笑うと、首をコキコキと軽く鳴らした。

「ほのか?」
「でもさ。ごめんけど、黙っていられるほど、自分オトナじゃねーんで」

 そう言うと、困り顔で立ち尽くしていたレイプ犯につかつかと歩み寄り。

 ほのかが力いっぱい拳でその頬を殴りつけた。

「ほのか!」
「ごめん、一発殴ってやんないと、どうしても気が済まなかった。芳賀が殴ると多分、ケガさすかもしんないけど、自分なら一発ぐらい平気だろ?」

 そう言って、ほのかが手を見る。
 所詮女の子だし、人なんて殴ったことないから、見事に赤くなっているわけで。
 慌てて櫂斗がその手を撫でるように握った。
「もお……ほのかがケガしちゃダメじゃん……」
 朋樹は、さすがに女子が拳で男――それも自分よりかなり大きい――を殴りつけるシーンに唖然としていて。

「……殴られて当然のこと、したってわかってます」
 男がぼそりと言った。
 物理的なダメージはそんなに受けていないらしく、ほのかに殴られた跡を掌でさすっているが、それよりももっと、精神的にキツそうな様子である。

「受験勉強してて……卒業したらもう、櫂斗に会えなくなると思ったらもう……思い出が欲しくて。男なら、その……妊娠とかもないだろうし、一回くらいならって」
「おいおい、ふざけてんなよ?」
 櫂斗が呆れ返った声で言うと、
「ダメだ。もう一発殴りたい」ほのかが額に怒りマークを浮かばせていて。

「俺が殴りたいんだけど?」
「トモさんは、ダメ。その筋肉、見せかけだけじゃないでしょ? 殺しちゃうよ?」
「殺したいけど?」
「キャラじゃねーから、やめとけ」
 ほのかが言って、つかつかと男に歩み寄る。

「未遂だったし、おまえが将来ある人間だと思ったし、いろいろ櫂斗が汲んでやってるっての、わかれよ? だから、本気でもう二度とこいつの前に現れんな。いいな?」
 胸倉をつかんで、言う。
 ほのかの方が全然小さい。
 でも、威圧感は確実にほのかの方が上で。

 男は頷いた。

「わかってます。……あなたが、櫂斗の傍にいて、櫂斗が大事な人って言うのがあなたなら、もう……もう、いいです。ただ、謝りたかっただけだから」

 男のセリフに誤解を知ったが、ほのかも櫂斗も否定はしなかった。実際、ほんとうの“大事な人”も一緒にいるから、いいだろう。

「本当に、すみませんでした」
 そう言って、男が再び土下座したので。

「行こ。も、ほっとこ」
 ほのかが櫂斗と朋樹を促した。

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