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「俺は、止めた。ちゃんと反対意見に一票入れた!」
 不貞腐れている櫂斗に、穂高が主張する。
「でも、反対意見が殆どなかったのは、俺のせいじゃない」
「…………」
 昼休憩。
 二年校舎の屋上で、穂高と莉沙とランチタイムなわけだが、莉沙はけらけら笑っているし、櫂斗は逆に超不機嫌。そして間に立つ穂高は一生懸命櫂斗を宥めている。
 その理由は。

「猫耳カフェ、カッコ男子は女装カッコ閉じ、なんてサイコーな企画じゃん」
 莉沙が“ちょーウケるー”と言いながら、メロンパンに齧りつく。
 話題は三週間後の文化祭について。

 穂高と櫂斗は同じクラスだから、当然“男子は女装”というカッコ付の条件に引っかかるだろうと穂高に莉沙が、
「それって穂高も女装すんの?」と訊いてみた。
「しねーわ。俺がしたら化け猫カフェだわ」
「つか、こんなバカでかい女装用の衣装なんかねーだろーしな」当たり前に莉沙が笑う。

「猫耳メイド姿になるのは選抜メンバーだけ。なんか、ガチで売上トップ狙うらしくて、女子もミスコンエントリーしてるヤツばっか」
「で、男子はまあ、櫂斗はデフォとして、他に誰が着るん?」
「ちょい待て。なんで俺、絶対なわけさ?」
 途中で櫂斗が口を挟む。

「え? だってその企画ってアレだろ? 櫂斗に女装させるための企画だろ?」
「さすが莉沙、わかってるねえ」
「一年しかミスコンに紛れさせらんないもんね。でも櫂斗の女装なんて、そんなん当たり前に目の保養だから、絶対に需要はあるもん」
「俺の意思は!」
「んなもん、挟む隙なんかあるわけねっつの。櫂斗たちのクラスって、ユキマキが完全に仕切ってるじゃん。あの二人に敵うヤツ、まずいないよね」

 ユキマキ、とはこの学年の成績トップの女子二人、香川雪かがわゆき三峰茉希みつみねまきである。
 しかもこの二人、カリスマ性の塊みたいな人間なせいで、先日の生徒会改変で生徒会長アンド副会長に就任してたりする。
 押しは強いが、発言を行動で裏付けるから誰もが付いて行く。
 特に美人というわけではないが、百人が百人“賢そう”という感想を抱く理知的な目をしていて、しかもその目が教室の隅の方まで行き届く。
 
「俺が女装なんかして、誰が喜ぶんだよ?」櫂斗のため息を吐きながらのセリフに、
「全校生徒」
穂高と莉沙が二人で即答。

「いや、生徒だけじゃないね。多分、先生の中にもファンはいると見た」
 莉沙が言うと、穂高も頷く。
「……俺、そんな?」
「喜べよ、もっと。なかなかいないぜ? ミスコンエントリーなハイレベル女子に紛れて遜色ない女装できる男子なんてさ」
「遜色ないわけないだろ! 俺が女装したら、そんなん化け猫じゃん」
「それ俺のだから。櫂斗は残念だけどもう使えません」
 櫂斗がどれだけぶーたれようと、穂高だって面白がっているのは隠せない。

「可愛い系かなあ、やっぱ。でも奇を衒ってセクシー系もアリじゃね?」
 莉沙がくふくふ笑って言うと、
「そーゆー具体的なトコは、コスプレ好きオタク系メンバーに一任するらしい。腕が鳴るつって鼻息荒かったよ、その辺」

 クラス内に取りこぼしは、ない。
 そういうちょっと隅に逃げ込みがちなクラスメイトも、当たり前にスポットライトを当てる。それがユキマキ。

「楽しみだなあ。絶対遊びに行こ」
「莉沙んトコは?」
 不貞腐れたままの櫂斗はとりあえず放置して、穂高が問う。
「ザ、定番のお化け屋敷。あたしもお化け役。それこそ化け猫やろうかね」
「この際三人で猫姿になろう」
 やけくそになった櫂斗が突っ込むと。
「いや、だからマジで俺だけ化け猫になるから」と穂高がガチで拒否った。

「カレシ、来んの?」
 莉沙がふ、と笑って訊く。
「……呼ぶつもりだったけど、女装すんならやめよっかな」
「逆だよ、逆。カレシにこそ、見せてやれよ」穂高のセリフに、
「可愛い系だろうがセクシー系だろうが、一番喜ぶのはカレシじゃねーの? ちなみにあたしはセクシー系に一票だね。ノーサツしてやれよ」莉沙が乗っかる。
「いやいや、莉沙は甘い。男ってのはやっぱ、カワイイに弱いんだっつの。こう、フリフリのエプロンとか着てメイドやってたら絶対モえ死ぬね、ふつーの男は」
「えー、でも黒タイツとか履いて脚晒してたら、鼻血モンじゃねーの?」
「それも、アリ」
 二人で“セクシーかキュートか論争”が始まるから、櫂斗は完全にムクれてペットボトルのカフェラテを飲み干した。
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