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「そいえば、びっくりした」
 さすがに一日中えっちしているわけにもいかないから、お腹が空いたとシャワーを浴びてお昼ごはん。
 櫂斗が用意していたブランチという名のおにぎりとお惣菜のお弁当。
 
「雫ちゃん、今日もまだいるの?」
「今日の昼には帰るって。昨日は夕方まで朔に遊んで貰ってたみたいだけど」
「そか。さっくんのこと、凄く気に入ったみたいだもんね、雫ちゃん。でも俺、櫂斗がこんな顔して“見ちゃダメ”って言うから、最初どうしようかと思ったよ」
 思い出し笑いしながら、おにぎりを頬張る。

 来た初日こそいなかった朋樹だったが、翌日バイトに行ったら櫂斗と同じ顔をした女の子がいるからかなり驚いて。
 店に入った直後なのに、櫂斗が朋樹の手を引いて外に出て。
 目を吊り上げて「あいつのこと見ないで」と言った。
 どういうことだよ、と説明させたら。
「だって、トモさん俺のこと好きでしょ? でも、元々女の子が好きでしょ? したら、俺の顔した女の子なんて、トモさん好きになるに決まってんじゃん。だから、雫、見ちゃダメ」
 なんて、えらく可愛いことを真顔で言うから。

「あのね、櫂斗。俺が好きなのは櫂斗でしょ? 女の子だろうと男の子だろうと、櫂斗の顔が好きで櫂斗を好きになってるわけじゃないんだから、俺は櫂斗以外好きになんないよ」
 朋樹もそんな、激アマなセリフでハグ。
 もうそれだけで、櫂斗はイっちゃいそうなくらい幸せで。
 だけど。
「トモさん、あのね。でもね。雫には、やっぱりでも、ホントのことは言えないからさ。だから、仕事中あんまり好き好き攻撃できないけど、ごめんね」
「……櫂斗、可愛すぎ」
 公道だからイチャイチャなんてできないけれど、そんなことを言われたらキスしたくなるじゃないか、と朋樹はふにゃふにゃに溶けそうになりながら、とりあえずイロイロ我慢して。

「木曜日はさ、店休みだし俺ガッコだし、誰も構ってくれないつってぶーたれるから、かーちゃんが買い物に連れ出してやったんだって。かーちゃん、娘いねーからさ、なんかすっげー楽しんでた」

 雫にはホントのことは言えない、というのはつまり、自分達の関係については言えないということで。
 だからって夕賄いとかで一緒にいれば、どこからともなく漂う“恋人感”が「おまえらバレるから離れてろ」とほのかに言われ。
 仕方がないから夕賄いも夜賄いも、なんだか二人離れてあまり話もできなくて。

 そんな金曜土曜の二日間を過ごしたから、今日は朝から激アマ上等なわけだけれど。

「雫ちゃん、じゃあ最後にさっくんとデートできて良かったじゃん」
「ん。ま、とりあえず雫の攻撃激しいしさ。朔も観念したっつーか。ちょっと面白いかもって思ってた俺も引くぐらいだったし」
 ライン交換したから、と雫から結構しっかりラインでやり取りしていたみたいで、金曜日には時間ができたからと朔が来店した。
 なんだかんだ朔も基本的には優しい人間だし、好きなタイプの顔だからまんざらでもないのか、店で雫からの「土曜日はお休みでしょ。付き合ってよ」というお誘いに、苦笑いしながらも首肯していた。

「あの人、恋人いるけどつまみ食いとか平気でする人だもんね。それに、まあ、相手は高校生だし、ちょっとした子守だと思えば全然気にしないで遊んでやるんじゃない?」
「えっと、櫂斗。そろそろさっくんの恋人、教えてくれない?」
「だから、見てればわかるってば」
「わかんないから教えてってゆってんのに」
「わかんないなら教えないってば。プライバシーってヤツだっつの。だって、俺もほのかが誰かに俺たちの関係知らないヤツにぽろっと喋ったらやっぱ、ちょっとヤだと思うし」

 櫂斗の言ってることは、正しいと朋樹も納得できるから。
 実際誰彼構わず言える関係じゃないのは、ちゃんと自分でもわかっているし。
 櫂斗の友人や瀬川は、きっと友達だから理解してくれてて。
 でもそうじゃない、全然関係ない人間が面白がってネタにするなんて、やっぱり嫌だと思うから。

 そしてそれは、自分達のような同性だから、ってだけではないと思う。
 不倫してるとか、あるいはたとえ普通に彼氏彼女の関係だったとしても、そっとしておいて欲しいカップルだってきっといるだろうから。
 恋人同士なんて、きっと当事者だけの秘めたるモノであって、他人が口出すことじゃ、ない。

「俺も、さ。雫にはなんか、言えねーの。なんとなく。わかんないけど、あいつが男女恋愛至上主義って感じすっげー出してるからさ。俺はともかく、トモさんのことイロメガネで見られるのは、絶対ヤだ」
「櫂斗……」
「ごめんね、窮屈な想いさせて。でも、今日はもうあいつ多分いないから。つーか、もう来ないと思うし」
 新幹線で約二時間の距離。――新幹線駅から“おがた”のある田舎の小さい駅までは当然乗り換えて更に少しあるわけだが――
 めちゃくちゃ遠いわけではないけれど、すぐに来れるほど近いわけじゃないから。

「別に、大丈夫だよ。櫂斗がやりたいようにやっていい。櫂斗の価値観で動いて、全然構わないと思ってるよ。雫ちゃんは櫂斗の従妹なんだし、バラしたかったらバラせばいいし、言いたくないならそれでいい。俺が櫂斗を好きな気持ちは、そんなの全然関係ないから」
 それに、人の気持ちの細やかな機微なんて自分には読めないから。そこは聡い櫂斗に任せる。
 朋樹は微笑んで、櫂斗の頭を撫でた。
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