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「この辺に住んでるわけじゃない、ってことだよね?」
「新幹線使って二時間かかった。あれだよね、電車って一時間以上乗ってるとお尻痛くなる」
「あーわかる。しかも立ったら誰かに席取られそうだから、無駄に我慢してじっとしてるしかないのが辛い」
朔の言葉に雫が笑った。
「学校、休みなの?」
「ほんとゆーと、今日は文化祭だった。でも出席取らないし、バックレた。明日から三日間は中学生相手のオープンキャンパスだし、その後土日だし。あとのことはまだ決めてない」
「不良がいるよお」
ふざけた朔を雫が睨んだ。
「文化祭はカップルが堂々とカップルってのを見せつける場なの! そこに、カレシと別れたばっかの状態で参加なんかしたくなかったんだもん、悪い?」
拗ねて言った雫は、でもちょっと目が潤んでいて。
確かに、お祭り騒ぎの中、失恋したての心境で混じる学校イベってのはキツイだろう。
「見る目、なかったんだろ。そんなオトコ、忘れちゃいなよ」
高校生の恋愛なんて、可愛いモンだと朔が鼻で笑う。
ちょっといいな、と思った相手なら誰彼構わずくっついちゃー離れ、なんて子供の遊びだ。
朔にしてみればそんな軽いものにしか思えない。
けれども雫はふ、と動きを止めると朔を見据え、
「じゃあ、忘れさてよ」
櫂斗と同じ目をして言った。……小悪魔的な瞳。こいつもこの魔法を使えるというのか。
「え?」
「私、ここには新しい男捕まえる為に来たの」
くふ、と笑う。その表情には“幼さ”なんて、ない。
朔を見つめる目は確実に“獲物”を見る目。
しかも、櫂斗と違って“女の子”だから。
自分をどう見せたら一番効果的か、なんてことまで熟知している。
まるで時間が止まったかのように、朔が固まっていると。
「やめとけよ、雫」
空いた皿を持ってきた櫂斗が、雫の“魔力”を封じる。
朔がふう、と息を吐いた。
「何でよ? 私、この人結構好みのタイプなんだけど?」
「だめだよ。決まった相手がいんだから」
邪魔するな、と首を振る。でも、その相手が誰か、は口にしない。それはマナー。
櫂斗としては既に朋樹を争ったライバルというよりは、純也の大事な相手という認識しかない。
「あら、私結構略奪愛って好きなパターンなんだけど?」
「鬼かよ」
「不倫ならともかく、ただの彼氏彼女なら盗ってもいいでしょ」
「盗れるもんなら盗ってみれば?」
鬼なのは櫂斗も同じである。
……いや、そうではなく櫂斗としては“あの純也から盗れるものなら”と言いたいだけだが。
「名前は?」
櫂斗に鼻であしらわれ、カチンときたらしい雫は再び朔へと向き直る。
「え? 俺? 朔」
思わず反射的に答えてしまい。
「答えるんだ?」櫂斗が冷ややかな目を向ける。
「いや、いやいやいや、別に、名前くらい」
「いいけど別に。俺としてはちょっとした仕返しになるし、雫に口説かれてれば?」
愛しの朋樹に言い寄った事実は、やっぱり櫂斗の中にちゃんと恨みとして残っているようである。
「櫂斗、応援してくれるんだ。らっきー。じゃあ、朔、よろしくね」
雫は二人の水面下のバトルには目もくれず、朔ににっこり微笑みかけた。
「えっと……あ、いや、だから俺、相手いるから」
「だから、そんなの関係ないっつの」
くふくふ、笑う。そう、櫂斗と同じ目で。
雫がある意味“ハンター”であることは、櫂斗も知っている。
年が近いから小さい頃はよく一緒に遊んでいたし、お互いに携帯を持つようになってからはSNSで繋がっている。時々雫がインスタにカレシとの写真を上げてるのは見ていたし、だけじゃなくイロイロと怖い話も聞いているから。
とは言え。
朋樹が今ここにいないことに安堵。
雫が朋樹ではなく朔をタゲにしてくれたことに拍手を送りたい。
イケメン朋樹に雫がどう反応するか、考えただけで恐ろしい。
しかも朔と違って押しに弱いのは熟知している。
――おっぱいデカい俺なんか、完全にトモさんの好物じゃん。
「ライン教えて」
「ええー」
「ラインくらい教えてあげれば?」
完全に、櫂斗はおもしろがっている。
いつぞやの夢乃のごとく、傍観者として楽しむらしい。
その様子を見ていた杏輔が、ぼそ、と呟いた。
「……そろいも揃って、なんて押しの強い……」
「新幹線使って二時間かかった。あれだよね、電車って一時間以上乗ってるとお尻痛くなる」
「あーわかる。しかも立ったら誰かに席取られそうだから、無駄に我慢してじっとしてるしかないのが辛い」
朔の言葉に雫が笑った。
「学校、休みなの?」
「ほんとゆーと、今日は文化祭だった。でも出席取らないし、バックレた。明日から三日間は中学生相手のオープンキャンパスだし、その後土日だし。あとのことはまだ決めてない」
「不良がいるよお」
ふざけた朔を雫が睨んだ。
「文化祭はカップルが堂々とカップルってのを見せつける場なの! そこに、カレシと別れたばっかの状態で参加なんかしたくなかったんだもん、悪い?」
拗ねて言った雫は、でもちょっと目が潤んでいて。
確かに、お祭り騒ぎの中、失恋したての心境で混じる学校イベってのはキツイだろう。
「見る目、なかったんだろ。そんなオトコ、忘れちゃいなよ」
高校生の恋愛なんて、可愛いモンだと朔が鼻で笑う。
ちょっといいな、と思った相手なら誰彼構わずくっついちゃー離れ、なんて子供の遊びだ。
朔にしてみればそんな軽いものにしか思えない。
けれども雫はふ、と動きを止めると朔を見据え、
「じゃあ、忘れさてよ」
櫂斗と同じ目をして言った。……小悪魔的な瞳。こいつもこの魔法を使えるというのか。
「え?」
「私、ここには新しい男捕まえる為に来たの」
くふ、と笑う。その表情には“幼さ”なんて、ない。
朔を見つめる目は確実に“獲物”を見る目。
しかも、櫂斗と違って“女の子”だから。
自分をどう見せたら一番効果的か、なんてことまで熟知している。
まるで時間が止まったかのように、朔が固まっていると。
「やめとけよ、雫」
空いた皿を持ってきた櫂斗が、雫の“魔力”を封じる。
朔がふう、と息を吐いた。
「何でよ? 私、この人結構好みのタイプなんだけど?」
「だめだよ。決まった相手がいんだから」
邪魔するな、と首を振る。でも、その相手が誰か、は口にしない。それはマナー。
櫂斗としては既に朋樹を争ったライバルというよりは、純也の大事な相手という認識しかない。
「あら、私結構略奪愛って好きなパターンなんだけど?」
「鬼かよ」
「不倫ならともかく、ただの彼氏彼女なら盗ってもいいでしょ」
「盗れるもんなら盗ってみれば?」
鬼なのは櫂斗も同じである。
……いや、そうではなく櫂斗としては“あの純也から盗れるものなら”と言いたいだけだが。
「名前は?」
櫂斗に鼻であしらわれ、カチンときたらしい雫は再び朔へと向き直る。
「え? 俺? 朔」
思わず反射的に答えてしまい。
「答えるんだ?」櫂斗が冷ややかな目を向ける。
「いや、いやいやいや、別に、名前くらい」
「いいけど別に。俺としてはちょっとした仕返しになるし、雫に口説かれてれば?」
愛しの朋樹に言い寄った事実は、やっぱり櫂斗の中にちゃんと恨みとして残っているようである。
「櫂斗、応援してくれるんだ。らっきー。じゃあ、朔、よろしくね」
雫は二人の水面下のバトルには目もくれず、朔ににっこり微笑みかけた。
「えっと……あ、いや、だから俺、相手いるから」
「だから、そんなの関係ないっつの」
くふくふ、笑う。そう、櫂斗と同じ目で。
雫がある意味“ハンター”であることは、櫂斗も知っている。
年が近いから小さい頃はよく一緒に遊んでいたし、お互いに携帯を持つようになってからはSNSで繋がっている。時々雫がインスタにカレシとの写真を上げてるのは見ていたし、だけじゃなくイロイロと怖い話も聞いているから。
とは言え。
朋樹が今ここにいないことに安堵。
雫が朋樹ではなく朔をタゲにしてくれたことに拍手を送りたい。
イケメン朋樹に雫がどう反応するか、考えただけで恐ろしい。
しかも朔と違って押しに弱いのは熟知している。
――おっぱいデカい俺なんか、完全にトモさんの好物じゃん。
「ライン教えて」
「ええー」
「ラインくらい教えてあげれば?」
完全に、櫂斗はおもしろがっている。
いつぞやの夢乃のごとく、傍観者として楽しむらしい。
その様子を見ていた杏輔が、ぼそ、と呟いた。
「……そろいも揃って、なんて押しの強い……」
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