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朔は思わず二度見した。
「いらっしゃいませ」の櫂斗の声の後、目に入ったのは“おっぱいのある櫂斗”という、なんの“間違い探し”だよ、ってヤツで。
女将さんの横で何やらレクチャーを受けている“女の子版櫂斗”を杏輔と二人でガン見していたら。
「テーブルがいい、カウンターがいい?」
通常版櫂斗が、問う。
「あ……うん」
勿論カウンターである。だって、何者なのか知りたい。
「生と小鉢とポテサラでおけ?」
いつもの注文を確認すると、二人が頷く。ので、そのままカウンターへ。
櫂斗が“女の子版”について何も触れてくれないから、二人はただただぼんやりとカウンターで佇んでいるしかできなくて。
「説明、しよっか?」
三人の様子を見ていたほのかが見かねて声をかけてきた。
「ぜひ」
「あれは、櫂斗の従妹。しばらく女将さんが預かるらしくて、皿洗いとかの手伝いさせるんだって」
☆☆☆
朝、開店準備をしていたパートの裕子が店の前にいた彼女に「どうした、櫂斗。ガッコは?」と思わず訊いてしまったらしく。
「私、櫂斗じゃない」なんて、当たり前に女の子声で返されて。
そりゃそうだ、よく見ればパンツ姿ではあるけれど当たり前に“女の子”で。
女将さんには妹がいる。
島崎愛羅という、女将さんによく似た気風のイイ女だそうで、県を跨いだちょっとだけ離れたところに住んでいる彼女には、娘と息子がいる。
つまり、ど平日の朝から“おがた”にやってきたのは、その愛羅の娘である島崎雫、高校一年生女子。
裕子も、かなり幼い彼女には会ったことがあったものの、女子高生なんて子供の頃とは当然何もかも変わっているから、記憶の中の雫とは咄嗟に結びつかなかったようで。
しかも。
第二の母とも言える裕子をして“櫂斗”と一瞬見間違えるくらい、顔立ちは櫂斗そっくりに育っていた。
とりあえず、開店準備は裕子に任せ、慌てて女将さんは妹と連絡を取り、どうやら暫く学校はイベントやらなにやらで休みとなるらしく、そのまま預かることになったのだ。
「何で、うちに来たの?」
交流がないわけではないが、女将さん――夢乃の実家ならともかく、その嫁ぎ先に一人で来るなんて考えられなかったから、とりあえず、訊いてみた。
開店間もないからまだ店内には来客もなく、カウンターの端に座った雫は。
「ここなら、イイ男捕まえられるかなーと思って」
などと、本当におまえは高校一年生か、という発言をするから。
夢乃は苦笑して。
「……えっと。愛羅から、カレシがいるって話は聞いてるけど?」
お盆の連休、夢乃は夫婦二人で実家に顔を出した。
櫂斗がいなかったことも、実際高校生にもなれば自分の予定があるから親の帰省に付き合うこともないから、あえて誰も気に留めなかったし、顔を合わせた愛羅も「雫はカレシと遊ぶんだって」と雫の弟の匠だけを連れて帰っていて。
「ムカつくから別れたの。だから、クリスマスまでに新しいイイ男捕まえたかったんだもん」
グロスのせいでつやつやの唇をぷ、と尖らせて言う。
薄く化粧している辺り、よく見れば櫂斗とは全然違うということはわかる。
髪も、結んでキャップの中に入れているだけで、どうやら長いらしいし。
けれど、すっと通った鼻筋やつるつるの頬、しゅっとした輪郭の小さな顔は櫂斗そっくりで。
何より同じなのが、キャラメル色の大きな瞳をしているのに切れ長の奥二重というその目。
少年ぽい格好ならば、櫂斗と見間違えるのも無理はない。
「……うちにいるのは全然構わないわよ。でも、イイ男捕まえるって目的がある以上、ただ店にいるだけじゃ、ジャマになるから、しっかり働いてもらうからね」
夢乃はそう言って、雫をバイト見習いとして扱うことにした。
「いらっしゃいませ」の櫂斗の声の後、目に入ったのは“おっぱいのある櫂斗”という、なんの“間違い探し”だよ、ってヤツで。
女将さんの横で何やらレクチャーを受けている“女の子版櫂斗”を杏輔と二人でガン見していたら。
「テーブルがいい、カウンターがいい?」
通常版櫂斗が、問う。
「あ……うん」
勿論カウンターである。だって、何者なのか知りたい。
「生と小鉢とポテサラでおけ?」
いつもの注文を確認すると、二人が頷く。ので、そのままカウンターへ。
櫂斗が“女の子版”について何も触れてくれないから、二人はただただぼんやりとカウンターで佇んでいるしかできなくて。
「説明、しよっか?」
三人の様子を見ていたほのかが見かねて声をかけてきた。
「ぜひ」
「あれは、櫂斗の従妹。しばらく女将さんが預かるらしくて、皿洗いとかの手伝いさせるんだって」
☆☆☆
朝、開店準備をしていたパートの裕子が店の前にいた彼女に「どうした、櫂斗。ガッコは?」と思わず訊いてしまったらしく。
「私、櫂斗じゃない」なんて、当たり前に女の子声で返されて。
そりゃそうだ、よく見ればパンツ姿ではあるけれど当たり前に“女の子”で。
女将さんには妹がいる。
島崎愛羅という、女将さんによく似た気風のイイ女だそうで、県を跨いだちょっとだけ離れたところに住んでいる彼女には、娘と息子がいる。
つまり、ど平日の朝から“おがた”にやってきたのは、その愛羅の娘である島崎雫、高校一年生女子。
裕子も、かなり幼い彼女には会ったことがあったものの、女子高生なんて子供の頃とは当然何もかも変わっているから、記憶の中の雫とは咄嗟に結びつかなかったようで。
しかも。
第二の母とも言える裕子をして“櫂斗”と一瞬見間違えるくらい、顔立ちは櫂斗そっくりに育っていた。
とりあえず、開店準備は裕子に任せ、慌てて女将さんは妹と連絡を取り、どうやら暫く学校はイベントやらなにやらで休みとなるらしく、そのまま預かることになったのだ。
「何で、うちに来たの?」
交流がないわけではないが、女将さん――夢乃の実家ならともかく、その嫁ぎ先に一人で来るなんて考えられなかったから、とりあえず、訊いてみた。
開店間もないからまだ店内には来客もなく、カウンターの端に座った雫は。
「ここなら、イイ男捕まえられるかなーと思って」
などと、本当におまえは高校一年生か、という発言をするから。
夢乃は苦笑して。
「……えっと。愛羅から、カレシがいるって話は聞いてるけど?」
お盆の連休、夢乃は夫婦二人で実家に顔を出した。
櫂斗がいなかったことも、実際高校生にもなれば自分の予定があるから親の帰省に付き合うこともないから、あえて誰も気に留めなかったし、顔を合わせた愛羅も「雫はカレシと遊ぶんだって」と雫の弟の匠だけを連れて帰っていて。
「ムカつくから別れたの。だから、クリスマスまでに新しいイイ男捕まえたかったんだもん」
グロスのせいでつやつやの唇をぷ、と尖らせて言う。
薄く化粧している辺り、よく見れば櫂斗とは全然違うということはわかる。
髪も、結んでキャップの中に入れているだけで、どうやら長いらしいし。
けれど、すっと通った鼻筋やつるつるの頬、しゅっとした輪郭の小さな顔は櫂斗そっくりで。
何より同じなのが、キャラメル色の大きな瞳をしているのに切れ長の奥二重というその目。
少年ぽい格好ならば、櫂斗と見間違えるのも無理はない。
「……うちにいるのは全然構わないわよ。でも、イイ男捕まえるって目的がある以上、ただ店にいるだけじゃ、ジャマになるから、しっかり働いてもらうからね」
夢乃はそう言って、雫をバイト見習いとして扱うことにした。
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