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 カウンターで一人、早い時間から食事をしていたのは瀬川だ。
 今日はバイト代が入ったということで、大将の料理を楽しむ日。
「トモくんって、学校でもあんな感じ?」
 女将さんが問いかける。
 一人で来ているお客様の話し相手になるのも、女将さんのお仕事。
 勿論、一人にしておいて欲しい相手なら、さりげなく放置するけれど。

「あいつはどこ行っても同じですよ。イケメンのくせにどっか抜けてるから。ほわほわしてるし、人から嫌われるようなことはないけど、あんまり何かに執着する感じもないかな」
 瀬川から見た朋樹は、そんな感じだ。
「そっか。じゃあ、うちのバイトを続けてくれてるっていうのは、すごく嬉しいことかな」
「ああ、それはもう。ココ、来始めてからはすごいドハマりしてるみたいですね。インターンシップある日に、終わってからもココ来てたでしょ? も、どんだけ好きなんだよって」
「普通はお休みするよねー。お仕事してきてるんだもん」

 一社だけ、どうしても泊まりで行かないといけなかったから、その日だけはバイトも休んだけれど。
 他の会社は基本的に電車で夕方六時にはこっちに帰って来れる場所にあったから。
 朋樹は当たり前のように、会社帰りにバイトに顔を出してくれた。
 そんなの全然普通じゃないだろうから、女将さんも申し訳なくて。

「ココ来るのが、仕事って言うよりは癒しだって言ってたし。ま、猫の手よりは使えるでしょ? 遠慮なく使ってやって下さいよ」
 瀬川が笑うと、女将さんが安心したように綺麗な微笑みを見せた。

「……いや、まじで……」
「え?」
「いや、何でもないっす」
 思わず呟いて、生ビールを煽った。

 いやほんと、まじでこの綺麗な女将さんはヤバイだろう、と思う。
 朋樹が櫂斗と付き合っていることに、違和感を感じないのはそのせいもある。
 だって、この綺麗な女将さんそっくりな櫂斗だから。そりゃ、ちょっとしたJKになんか負けてない可愛さなわけで。

 チラリと座敷で接客している櫂斗を見る。
 うん。
 確かに可愛い。

 何というか、顔面偏差値の高い店である。
 女将さんを筆頭に、ほのかという女子大生なんて、背が小さいからモデルとは言わないけれど、ちょっとしたアイドルにならなれそうな感じの美人さんだし。

 本音を言えば、居酒屋としてはお高めの料金設定だと、自分みたいな貧乏学生は思うわけだけれど。
 でも、この目の保養というオプションがあると思えば、決して高くはないんじゃないだろうか。

 女性客から見ても、朋樹はボケボケしているけれど見た目はちゃんとイケメンなわけで。
 可愛い櫂斗は当然女子にも受けるだろうから。
 その上大将が、超絶イイ声で時々ぼそ、と締めてくれるから。
 そんなの女子なら絶対好きになる。

 ああ、とは言え。
 これ以上の贅沢は貧乏学生のしていいレベルを超えてしまうから。
「女将さん、お会計お願いします」
 いつかきっと。
 がっつり稼げる男になって。
 ここに彼女を連れてきて、思う存分大将の料理を楽しむ。
 それを目標に、これから始まる就活に気合を入れた瀬川だった。
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