106 / 167
<4>
☆☆☆
しおりを挟む
☆☆☆
「何かあった?」
仕事中のラインも、突然ど平日に泊まりに来ると待ち伏せするのも、今までにない櫂斗の行動だったから。おまけに、部屋に帰った朋樹に飛び掛かるように抱きついてキスしてくるし。
あまりにも普通じゃない櫂斗の様子に、朋樹は真剣な目で向き合ってくれた。
「あのね。話したい事、二つあんのね」
「ん」
「まず。穂高と莉沙に、俺が付き合ってるの、トモさんだってはっきり言っちゃった」
思っていたよりも、軽い話に拍子抜けして。
でも、とりあえず櫂斗が話したいコトだから、ちゃんと聞いてやる。
「あ、そ。で、何か言われた?」
フラットな口調だから、マイナスな話ではないだろうと促すと。
「んーん。俺が好きになった人が、ちゃんと俺のこと好きになってくれて、で、その人に大事にしてもらってんならそれでいいじゃんって言ってくれた」
「そか。ま、実際あれだよな。イマドキの若い子とかって、LGBTQ関係について当たり前に教育受けてるし、そんなに気にならないんだよ、きっと」
教科書とか、授業とか、きっとそんな話はしているだろうし。
きっと知識は一昔の比じゃない。
そんな世代なら、きっとただ“好き”って想いだけを大事にしてくれそうな気がする。
「ん」
「で? も一個は? どっちかっつーと、そっちんが大事なんじゃない?」
櫂斗の口ぶりから、どうしても聞いて欲しい話はきっとこっちだろうことは明白。
朋樹が促すと。
「ん。あのね。今日ちょっと俺、レイプされかけたの」
とんでもない単語が出てくるから、耳を疑う。
「…………は?」
「莉沙がさ、襲われかけてて。それ、助けたんだけど、俺ってほら、非力じゃん? 莉沙逃がすまではカッコ良かったんだけどさ。その後そいつに……てか、そいつ、なんか、俺のこと好きだったらしくて」
「……され、かけた? かけた、だけ? 櫂斗、ヤられて、ない?」
「あ、うん、ダイジョブ。ヤられる前に穂高に助けてもらったから」
「……良かった、無事で……」
とりあえず、事実的なことに関しては一応、一安心する。でも。
「で。どこのどいつ、それ?」
自分でも、キれてる、と思う声。
怒りが突き抜けると、人間って意外と冷静になれるもんなのかもしれない。
「あー、わかんない、ウチの三年ってことしか」
「え? 捕まえて警察に突き出さなかったの?」
「しないよお。受験生だし、きっと勉強ばっかしてて頭おかしくなっちゃってただけだもん。俺、キスされただけだし」
「はあ?! キス、されたあ?」
「うん、それはごめんなさい。抵抗しきれなかった」
「櫂斗が謝ることじゃ、ない」
そうそれは櫂斗の落ち度なんかじゃ、ない。
抵抗なんか、できるわけ、ない。
レイプされそうな人間が、そんなことできるわけ、ないんだから。
「……そいつ……俺がぶっ殺す!」
思っていた以上に、やっぱりキれてる自分がいて。
朋樹が今までに出したことのない声で、そんなことを言って。
「え?」
「どこのどいつだよ。ちょ、今からでもいい。調べてとっ捕まえて、俺がコロス」
「トモさあん、怖いー。トモさんのセリフじゃないいい」
「はあ? 俺のセリフ以外ないじゃん! 俺の櫂斗だよ? 俺の大事な櫂斗、怖い目に遭わせた挙句、唇まで奪いやがって! そんなん、絶対赦せねーじゃん!」
自分以外、誰がコロスのか。そんなのもう、俺以外、いない。
朋樹は頭に血が上るのを感じた。
有り得ない。
一体全体、なんてことをしてくれてる? 俺の大事な櫂斗だぞ?
「いやいや、いいから。も、大丈夫だから」
興奮する朋樹に対して、櫂斗が冷静に宥めようとするから。
「何が? ねえ、何が大丈夫? レイプって犯罪だよ? 櫂斗、犯罪に遭ったのに犯人逃がしていいの?」
「いいの。いんだってば。も、しょーがないから。それに未遂だから。俺、無事だから」
「無事って」
「されてないから。触られただけだから。脱がされてもないから」
「でも」
「大丈夫だから。いろいろ、あったけどもうとにかく、いんだよ。大ごとにしたく、ないから」
その声には、完全に同情心が見えて。
切なくなるくらい、櫂斗が優しく相手を護ろうとするから。
「櫂斗……」
「いんだよ、あいつのことはもう、二度と会わないし。顔も、見たくないって言った。次会ったらその時は出るトコ出るってちゃんと脅しておいたし。多分受験生だから、そこまでバカじゃないだろうから」
「でも」
「俺ね、トモさんがキれるくらい怒ってくれたから、も、それでいいんだ。あいつが思い余ってやっちゃったこと、そりゃ赦されることじゃないけどさ。でも、俺だって……男として、やっぱ男に襲われたってのはちょっと……やっぱ、人に知られたくないっつーか」
言われて、気付く。
レイプ犯罪の二次被害に。
男としてのプライドは、きっとこの事実を公にすることの方が、辛いことになる。
「ね、トモさん。だから。俺のこと、きれいにして? 触られたの全部、なかったように、トモさんで上書きして?」
櫂斗のその言葉に、
「……風呂、入ろ。おいで、櫂斗」朋樹は手を引いて、バスルームへと連れて行った。
「何かあった?」
仕事中のラインも、突然ど平日に泊まりに来ると待ち伏せするのも、今までにない櫂斗の行動だったから。おまけに、部屋に帰った朋樹に飛び掛かるように抱きついてキスしてくるし。
あまりにも普通じゃない櫂斗の様子に、朋樹は真剣な目で向き合ってくれた。
「あのね。話したい事、二つあんのね」
「ん」
「まず。穂高と莉沙に、俺が付き合ってるの、トモさんだってはっきり言っちゃった」
思っていたよりも、軽い話に拍子抜けして。
でも、とりあえず櫂斗が話したいコトだから、ちゃんと聞いてやる。
「あ、そ。で、何か言われた?」
フラットな口調だから、マイナスな話ではないだろうと促すと。
「んーん。俺が好きになった人が、ちゃんと俺のこと好きになってくれて、で、その人に大事にしてもらってんならそれでいいじゃんって言ってくれた」
「そか。ま、実際あれだよな。イマドキの若い子とかって、LGBTQ関係について当たり前に教育受けてるし、そんなに気にならないんだよ、きっと」
教科書とか、授業とか、きっとそんな話はしているだろうし。
きっと知識は一昔の比じゃない。
そんな世代なら、きっとただ“好き”って想いだけを大事にしてくれそうな気がする。
「ん」
「で? も一個は? どっちかっつーと、そっちんが大事なんじゃない?」
櫂斗の口ぶりから、どうしても聞いて欲しい話はきっとこっちだろうことは明白。
朋樹が促すと。
「ん。あのね。今日ちょっと俺、レイプされかけたの」
とんでもない単語が出てくるから、耳を疑う。
「…………は?」
「莉沙がさ、襲われかけてて。それ、助けたんだけど、俺ってほら、非力じゃん? 莉沙逃がすまではカッコ良かったんだけどさ。その後そいつに……てか、そいつ、なんか、俺のこと好きだったらしくて」
「……され、かけた? かけた、だけ? 櫂斗、ヤられて、ない?」
「あ、うん、ダイジョブ。ヤられる前に穂高に助けてもらったから」
「……良かった、無事で……」
とりあえず、事実的なことに関しては一応、一安心する。でも。
「で。どこのどいつ、それ?」
自分でも、キれてる、と思う声。
怒りが突き抜けると、人間って意外と冷静になれるもんなのかもしれない。
「あー、わかんない、ウチの三年ってことしか」
「え? 捕まえて警察に突き出さなかったの?」
「しないよお。受験生だし、きっと勉強ばっかしてて頭おかしくなっちゃってただけだもん。俺、キスされただけだし」
「はあ?! キス、されたあ?」
「うん、それはごめんなさい。抵抗しきれなかった」
「櫂斗が謝ることじゃ、ない」
そうそれは櫂斗の落ち度なんかじゃ、ない。
抵抗なんか、できるわけ、ない。
レイプされそうな人間が、そんなことできるわけ、ないんだから。
「……そいつ……俺がぶっ殺す!」
思っていた以上に、やっぱりキれてる自分がいて。
朋樹が今までに出したことのない声で、そんなことを言って。
「え?」
「どこのどいつだよ。ちょ、今からでもいい。調べてとっ捕まえて、俺がコロス」
「トモさあん、怖いー。トモさんのセリフじゃないいい」
「はあ? 俺のセリフ以外ないじゃん! 俺の櫂斗だよ? 俺の大事な櫂斗、怖い目に遭わせた挙句、唇まで奪いやがって! そんなん、絶対赦せねーじゃん!」
自分以外、誰がコロスのか。そんなのもう、俺以外、いない。
朋樹は頭に血が上るのを感じた。
有り得ない。
一体全体、なんてことをしてくれてる? 俺の大事な櫂斗だぞ?
「いやいや、いいから。も、大丈夫だから」
興奮する朋樹に対して、櫂斗が冷静に宥めようとするから。
「何が? ねえ、何が大丈夫? レイプって犯罪だよ? 櫂斗、犯罪に遭ったのに犯人逃がしていいの?」
「いいの。いんだってば。も、しょーがないから。それに未遂だから。俺、無事だから」
「無事って」
「されてないから。触られただけだから。脱がされてもないから」
「でも」
「大丈夫だから。いろいろ、あったけどもうとにかく、いんだよ。大ごとにしたく、ないから」
その声には、完全に同情心が見えて。
切なくなるくらい、櫂斗が優しく相手を護ろうとするから。
「櫂斗……」
「いんだよ、あいつのことはもう、二度と会わないし。顔も、見たくないって言った。次会ったらその時は出るトコ出るってちゃんと脅しておいたし。多分受験生だから、そこまでバカじゃないだろうから」
「でも」
「俺ね、トモさんがキれるくらい怒ってくれたから、も、それでいいんだ。あいつが思い余ってやっちゃったこと、そりゃ赦されることじゃないけどさ。でも、俺だって……男として、やっぱ男に襲われたってのはちょっと……やっぱ、人に知られたくないっつーか」
言われて、気付く。
レイプ犯罪の二次被害に。
男としてのプライドは、きっとこの事実を公にすることの方が、辛いことになる。
「ね、トモさん。だから。俺のこと、きれいにして? 触られたの全部、なかったように、トモさんで上書きして?」
櫂斗のその言葉に、
「……風呂、入ろ。おいで、櫂斗」朋樹は手を引いて、バスルームへと連れて行った。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる