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 杏輔の部屋に訪れる時。
 ほのかは特になんの前触れもなく突撃する。
 まだ合鍵を貰っているわけではないけれど、毎日のように杏輔は“おがた”を訪れるし、それは“後で良かったらうちにおいで”という合図のようなものになっているから。
 だからと言って毎日来てるわけじゃないし、なんて内心誰にともなく言い訳して。

「ほのか、あれからエンちゃんから連絡、あった?」
 当たり前のように冷蔵庫を開けて、当たり前のように五百の缶ビールを出して。いや、さすがに発泡酒の時もあるけれど、ほのかにはそこまでのこだわりがあるわけでもないので、はっきり言って何でもいい。
 それよりも。
 杏輔の発言に、冷静を保ちながら「なんで?」と答えた。

 二LDKという部屋はちょっとした新婚夫婦が住んでも不自然ではない広さで。
 ほのかは最初、また不倫になるのかと一瞬だけ躊躇した。
 でも杏輔の“俺半分童貞みたいなモンよ”なんて言葉は、結構本気のようで。
 部屋に入るようになっても暫くは体の関係には至らず。
 ただただ飲んで、バカみたいにゲームなんかして。ソファで二人して、ただくっついて寝るなんてまるで高校生かよ、なんてほのかが突っ込みたくなるような期間を経て。

 初めてのキスは、部屋に入るようになって五回目の夜。
 照れに照れまくる杏輔が“したい”という空気を持て余して不自然な動きばっかりするから、しびれを切らしたほのかから押し倒してやって。
 コントローラーを奪い取ると、ソファで詰め寄りのしかかるようにして口付けた。
 
「エンちゃん、俺にメモ残してくれてた。連絡先は交換してなかったからさ、最後、女将さんに俺に渡してって手紙置いてったらしくて」
 さすがに、もう最初のようなウブな可愛い杏輔を見せることはないけれど、ソファで二人並んで座ると必ず最初に頬にキスをする。お疲れ様、と。

「手紙?」
「ん。なんかね。あとよろしくって書かれてた。何のことかはさっぱりわかんなかったけど、なんとなく、ほのか見てて。したら、わかった」

 遠藤とほのかの関係。
 よりにもよってそれを杏輔が知っているなんて。
 ほのかは何も言えなかった。
 なんで? なんで?
 今自分は杏輔に甘えていて。多分……惚れていて。
 それを何で邪魔するのか? 
 仕返しなのか? あの日以降完全に無視した自分への、これは復讐?

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