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“おがた”に顔を出すようになって瀬川にもわかった。朋樹がバイトにハマって、とにかく毎日楽しそうに通っているという理由が。
店自体の雰囲気がとにかく優しくて。
酒を飲んで暴れる、なんてバカな客は全然いないのだ。
勿論、金のない学生が毎日通えるような店ではないけれど、だからと言って高級料亭なわけじゃない。
酔っ払いだって普通にいるし、中には騒いでいる客だって全然いるのに、それでもそれが全然下品じゃなくて。
「女将さんそっくりだね、あのコ。あれはあれで、人気ありそう」
「うん。モテるんだろうねー。でも、本人はモテねーつって拗ねてるけど」
「そりゃないだろ。あーゆー可愛い系男子って今、流行ってるし。俺らみたいなモッさい男からして見りゃ、選り取り見取りじゃねーか、って僻みたくなるよなー」
瀬川が少し悔しそうな顔をした。
モッさいなんて言うけれど、瀬川は実直そうな雰囲気が前面に出ている誠実なヤツで、イケメンかどうかは意見が分かれるところだが、今の彼女はきっとそんな真面目な中身に惚れているのだろうことは、朋樹にはわかる。
「でもトモはお気に入りなんだろ?」
「……ん。今、一番一緒にいたいと思うコ、かな」
思わず出てしまった本音に、自分でも驚く。
“彼女がいる”なんて当然誰にも、瀬川にすら言ってないけれど。
最近常に休みの日には誰かと出かけていることも、家には誰か他の人間の気配があることも、朋樹は隠してなんかいなくて。
隠せるとも思っていないし。
だからと言って、櫂斗との関係をはっきりと伝える勇気はないから。
瀬川に彼女ができて、必然的に別々の時間が増えたわけだから誰とどんな過ごし方をしているかなんて、特に言葉にする必要もなく。
薄ぼんやりと、誰かと一緒にいることだけを伝えているだけだった。
ただ、それを今、ふと具体化してしまったことに、自分でも驚いたのだ。
「あー……付き合ってる?」
瀬川が、小さい声で、言った。
「え!?」
「いや、何となく、かなーと。いや、別にいいんだけど」
思っていた以上に、朋樹が固まってしまったことに。
瀬川は確信してしまうわけで。
誰かと一緒にいる、ということは知っていたけれど、その相手が櫂斗だということは“おがた”に通うようになって、もしかしたら、とは思っていた。
が、朋樹の“一緒にいたい”という言葉があまりにも温かくて。
その甘みを帯びた声に、二人の関係を知った。
空になっている二つのコップを持って、瀬川がお冷を追加に行く。
戻って朋樹の分を「ほい」と渡して。
「会ったばっかの頃、おまえ失恋したじゃん? そんで結構がっつり沈んでて」
「あ……うん」
「遠恋でダメになって、もう人間不信になりそうとかゆってたしさ。その後も合コン誘っても誰ともうまく行く感じないし、おまえ見た目の割りに全然モテねーから結構心配してた」
整った顔立ちと柔和な雰囲気。背が高くて清潔感あって。
合コンでそんな朋樹を“いい”と思う女の子がいたことは瀬川も知っている。ムカつくけど。
でも、ちょっと一緒にいたらわかるポンコツっぷりと、優しいという単語の裏側にある“優柔不断”という真実に気付いた女子は大抵逃げていくわけで。
店自体の雰囲気がとにかく優しくて。
酒を飲んで暴れる、なんてバカな客は全然いないのだ。
勿論、金のない学生が毎日通えるような店ではないけれど、だからと言って高級料亭なわけじゃない。
酔っ払いだって普通にいるし、中には騒いでいる客だって全然いるのに、それでもそれが全然下品じゃなくて。
「女将さんそっくりだね、あのコ。あれはあれで、人気ありそう」
「うん。モテるんだろうねー。でも、本人はモテねーつって拗ねてるけど」
「そりゃないだろ。あーゆー可愛い系男子って今、流行ってるし。俺らみたいなモッさい男からして見りゃ、選り取り見取りじゃねーか、って僻みたくなるよなー」
瀬川が少し悔しそうな顔をした。
モッさいなんて言うけれど、瀬川は実直そうな雰囲気が前面に出ている誠実なヤツで、イケメンかどうかは意見が分かれるところだが、今の彼女はきっとそんな真面目な中身に惚れているのだろうことは、朋樹にはわかる。
「でもトモはお気に入りなんだろ?」
「……ん。今、一番一緒にいたいと思うコ、かな」
思わず出てしまった本音に、自分でも驚く。
“彼女がいる”なんて当然誰にも、瀬川にすら言ってないけれど。
最近常に休みの日には誰かと出かけていることも、家には誰か他の人間の気配があることも、朋樹は隠してなんかいなくて。
隠せるとも思っていないし。
だからと言って、櫂斗との関係をはっきりと伝える勇気はないから。
瀬川に彼女ができて、必然的に別々の時間が増えたわけだから誰とどんな過ごし方をしているかなんて、特に言葉にする必要もなく。
薄ぼんやりと、誰かと一緒にいることだけを伝えているだけだった。
ただ、それを今、ふと具体化してしまったことに、自分でも驚いたのだ。
「あー……付き合ってる?」
瀬川が、小さい声で、言った。
「え!?」
「いや、何となく、かなーと。いや、別にいいんだけど」
思っていた以上に、朋樹が固まってしまったことに。
瀬川は確信してしまうわけで。
誰かと一緒にいる、ということは知っていたけれど、その相手が櫂斗だということは“おがた”に通うようになって、もしかしたら、とは思っていた。
が、朋樹の“一緒にいたい”という言葉があまりにも温かくて。
その甘みを帯びた声に、二人の関係を知った。
空になっている二つのコップを持って、瀬川がお冷を追加に行く。
戻って朋樹の分を「ほい」と渡して。
「会ったばっかの頃、おまえ失恋したじゃん? そんで結構がっつり沈んでて」
「あ……うん」
「遠恋でダメになって、もう人間不信になりそうとかゆってたしさ。その後も合コン誘っても誰ともうまく行く感じないし、おまえ見た目の割りに全然モテねーから結構心配してた」
整った顔立ちと柔和な雰囲気。背が高くて清潔感あって。
合コンでそんな朋樹を“いい”と思う女の子がいたことは瀬川も知っている。ムカつくけど。
でも、ちょっと一緒にいたらわかるポンコツっぷりと、優しいという単語の裏側にある“優柔不断”という真実に気付いた女子は大抵逃げていくわけで。
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