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「いらっしゃいま……え?」
朋樹が来客を迎え、入口を振り返った瞬間固まった。
「やほー。来ちゃったー」
「職場拝見」
「俺は止めたけどな」
由依、徹、瀬川。という朋樹のゼミ仲間。である。
カップルだから由依に徹が常にくっついているのはもう、ゼミどころか恐らく学部内全員が知っている事実なわけだけれど、恐らく瀬川は巻き込まれ事故。
「あ、テーブルでいい?」
一応、お仕事。と、朋樹は我に返って空いている席に案内した。
平日の六時半。オープンしてまだそんなに時間が経っていないから比較的店は空いているので、そのまま三人の席に付いて行く。
「瀬川が、トモのバイト先行ったことないって言うから、じゃあ行っちゃおっかって」
由依が楽しそうに言う。
「知り合いに見られんの、嫌くないかなーと思ってたから、俺は止めたんだけどさ」
瀬川が“ごめん”と手を合わせながら言うから、
「いや、別に嫌じゃないけど。びっくりしただけで」朋樹が首を振って笑った。
瀬川のバイト先に自分が乗り込んだことも、まだない。
なんとなくその辺りの感覚が、瀬川と朋樹は似ているのだ。
「ここ、ほんとゆーとお昼は来たことあるんだよ。徹と出かける時とか、エッグに待ち合わせしてここでお昼食べてから電車乗るし」
徹と由依が女将さんを見ると、頷いている。
「夜はー、なんかオトナな感じがするから来たことなかったんだけど。よく考えたら私たちだってオトナじゃんって。だから、ね」
「トモが迷惑かけてないか、確認しに来た」
徹の言葉に、瀬川も頷く。
“迷惑”という単語が“謙遜”なんてものを纏っていない辺り、朋樹のポンコツぶりは仲間にもわかっているようである。
「生、三つでいい?」
「ん。予算は一人コレで、トモのオススメ出してよ」
瀬川が数字を提示する。
由依が“オトナ”と表現するだけあって、“おがた”は居酒屋というよりは“小料理屋”という雰囲気で、貧乏学生としては最初に手の内を見せておきたい。
そしてそれは同じ大学生の朋樹としても十分わかっているから、そのままカウンターに戻り、正直に女将さんに伝えた。
「諒解。じゃあトモくんがお世話になってるから、気持ちサービスさせてもらうね」
朋樹が生ビールを用意している間に、女将さんが大将と打ち合わせして。
「じゃ、今日はトモさんテーブル席よろしく。俺座敷メインね」
ホールは、二人体制の時はおおまかにテーブル席と座敷卓の担当を分ける。勿論流動的ではあるが、基本的に担当の持ち場を決める方が目が行き届き易い為、カウンターは女将さんに任せて担当を割り振る。
今日はほのかがいないので、櫂斗がさらっと言って座敷卓の客の追加オーダーを採りに行った。
「はい、生三つね。あと、これだけは絶対外せないヤツってことで、女将さんのポテサラ」
朋樹が“オススメ”として出したくて。いや、だからってコレだけじゃないけれど。
大将の料理は、だってどれも選べない。
もう予算と相談して女将さんに選んでもらう方が手っ取り早いと思ったから。
「もちょっとしたら忙しくなるからさ、俺、構ってらんなくなるけどゆっくりしてって」
「わかってる。今日は参観日だと思って頑張んなよ」
瀬川の言葉に、
「無駄に緊張するから、やめてー。も、とにかく俺のことはほっといて」
朋樹が少し照れながら笑った。
朋樹が来客を迎え、入口を振り返った瞬間固まった。
「やほー。来ちゃったー」
「職場拝見」
「俺は止めたけどな」
由依、徹、瀬川。という朋樹のゼミ仲間。である。
カップルだから由依に徹が常にくっついているのはもう、ゼミどころか恐らく学部内全員が知っている事実なわけだけれど、恐らく瀬川は巻き込まれ事故。
「あ、テーブルでいい?」
一応、お仕事。と、朋樹は我に返って空いている席に案内した。
平日の六時半。オープンしてまだそんなに時間が経っていないから比較的店は空いているので、そのまま三人の席に付いて行く。
「瀬川が、トモのバイト先行ったことないって言うから、じゃあ行っちゃおっかって」
由依が楽しそうに言う。
「知り合いに見られんの、嫌くないかなーと思ってたから、俺は止めたんだけどさ」
瀬川が“ごめん”と手を合わせながら言うから、
「いや、別に嫌じゃないけど。びっくりしただけで」朋樹が首を振って笑った。
瀬川のバイト先に自分が乗り込んだことも、まだない。
なんとなくその辺りの感覚が、瀬川と朋樹は似ているのだ。
「ここ、ほんとゆーとお昼は来たことあるんだよ。徹と出かける時とか、エッグに待ち合わせしてここでお昼食べてから電車乗るし」
徹と由依が女将さんを見ると、頷いている。
「夜はー、なんかオトナな感じがするから来たことなかったんだけど。よく考えたら私たちだってオトナじゃんって。だから、ね」
「トモが迷惑かけてないか、確認しに来た」
徹の言葉に、瀬川も頷く。
“迷惑”という単語が“謙遜”なんてものを纏っていない辺り、朋樹のポンコツぶりは仲間にもわかっているようである。
「生、三つでいい?」
「ん。予算は一人コレで、トモのオススメ出してよ」
瀬川が数字を提示する。
由依が“オトナ”と表現するだけあって、“おがた”は居酒屋というよりは“小料理屋”という雰囲気で、貧乏学生としては最初に手の内を見せておきたい。
そしてそれは同じ大学生の朋樹としても十分わかっているから、そのままカウンターに戻り、正直に女将さんに伝えた。
「諒解。じゃあトモくんがお世話になってるから、気持ちサービスさせてもらうね」
朋樹が生ビールを用意している間に、女将さんが大将と打ち合わせして。
「じゃ、今日はトモさんテーブル席よろしく。俺座敷メインね」
ホールは、二人体制の時はおおまかにテーブル席と座敷卓の担当を分ける。勿論流動的ではあるが、基本的に担当の持ち場を決める方が目が行き届き易い為、カウンターは女将さんに任せて担当を割り振る。
今日はほのかがいないので、櫂斗がさらっと言って座敷卓の客の追加オーダーを採りに行った。
「はい、生三つね。あと、これだけは絶対外せないヤツってことで、女将さんのポテサラ」
朋樹が“オススメ”として出したくて。いや、だからってコレだけじゃないけれど。
大将の料理は、だってどれも選べない。
もう予算と相談して女将さんに選んでもらう方が手っ取り早いと思ったから。
「もちょっとしたら忙しくなるからさ、俺、構ってらんなくなるけどゆっくりしてって」
「わかってる。今日は参観日だと思って頑張んなよ」
瀬川の言葉に、
「無駄に緊張するから、やめてー。も、とにかく俺のことはほっといて」
朋樹が少し照れながら笑った。
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