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「……こないだ、さ。櫂斗、女の子と二ケツしてたじゃん? なんか、かなり可愛いショートカットの女の子。後ろ乗っけてるの、すごい自然だったし、あーカップルだーって、俺にはそう、見えたから」
朋樹がぽつぽつと話す。
ほんの一瞬の町の中の光景。切り取られたその絵は、当たり前だけどすごく自然で。
何かの映画のワンシーンのようなそれに、敵わないと。自分では描けないそれに、白旗しかないから。
もうどうしようもなくて。
それに対しての自分は、こんなにも醜くて。
そしたらもう、櫂斗の“トモさんは俺の”なんてセリフが全部、まるで台本のように思えてしまって。
自分自身がこんなにも独占欲の強い心の狭い人間だったんだと思い知らされたから。
不安、不信。それらを櫂斗にぶつけてしまった。
「えっと。俺、ガッコでつるんでるヤツ二人いるってこないだ話したよね?」
櫂斗は、けれども今度は全くそれに対して声を荒らげることをしない。
普通に優しく、目を見ながらゆっくりと説明を始めた。
「一人は、百八十超えてるでっけーオトコで、穂高っつーのね。こいつが陸上部。一年ン時から同じクラス」
「ん」
「で、も一人が。俺とおんなじくらいか、びっみょーにあいつんが高いかな、くらいのヤツで。女子バレー部の莉沙っつーの」
「!」
櫂斗の説明と、自分の見た光景が繋がる。
「そ。トモさんが見たの、多分莉沙ね。あいつ、ちょーモテるから、女に。くっそムカつくことに、一年女子の中にファンクラブあるらしいってくらい」
悔しさにちょっとだけ眉を寄せて。でも、きっと嫌いとかのネガティブな感情なんて全然なくて、むしろそれが誇らしいとでも言いたいような声色で。
朋樹は、それでもまだ何か含んだ目で櫂斗を見ている。
なので。
「もちょっと掘って説明すると。莉沙と穂高はなんつーか、幼馴染? 小学校から一緒にいるらしくてさ。お互い腐れ縁だっつって言いたいこと言いあってるんだけど」
「そこ二人が、彼氏彼女?」
「だといいんだけど。こいつらが超めんどくせーの。莉沙が中学上がる前に穂高にコクったらしんだけど、そん時は穂高が中学入ってからねって微妙な返事して。いざ中学入ったら莉沙の女バレが男女交際禁止だったらしくて、なんとなくうやむやになったん」
「じゃあ、高校入ったら付き合う、ってならない?」
「でしょ? も、素直に付き合っちゃえばいいじゃんって思うんだけど、もうなんか友達って感覚が強すぎるらしくて、なんだかんだ一緒にいるくせに、ラブラブにはならんのだと」
ちょおめんどくせー、と続けながら、朋樹の表情が緩んだのを感じて、櫂斗は朋樹をそっと押し倒す。
仰向けに寝転んだ朋樹を上から見下ろして。
「で、こないだは穂高が待ち合わせ場所間違えてたから、ちょい拾いに行ってくるつったら、一緒に行くから後ろ乗っけろって。あいつスカート履いてたろ? チャリじゃなくてバスで来てたし、も、しょーがねーじゃん」
「俺ん高校ね。男が後ろに女子乗っけてたら、それはイコールカップルってことだった」
「まじで? 俺、だったら何股かけてるよ? って話になるけど?」
「ええ?」
「俺のチャリ、荷台が付いてるママチャリだからさー、いろんな女子が“そこまで乗っけてって”つって乗ってくんだよ。あいつら、俺のことアシだと思ってる」
やっと、空気が緩む。
二人してくすくす笑って。朋樹の手が櫂斗の後頭部に回る。
「俺、前もゆったけど、ガッコじゃ“男”扱いされてねーからさ」
「俺は“カレシ”扱いしてるよ?」
「いちお、男ってこと、かな?」
引き寄せられて、唇を重ねた。
安心して、口腔内を味わう。
ぴちゅぴちゅと水音がして、お互いの気持ちを煽る。
キスを合図に、再び、と思った瞬間。
朋樹の携帯が鳴った。
しばらく放置するが切れる様子が、ない。
仕方なく朋樹が起き上がると。
「……やだ、無視して」
「ごめん、さすがに無理」
完全に不貞腐れた櫂斗が、むーと膨れた顔で朋樹の会話を見つめた。
朋樹がぽつぽつと話す。
ほんの一瞬の町の中の光景。切り取られたその絵は、当たり前だけどすごく自然で。
何かの映画のワンシーンのようなそれに、敵わないと。自分では描けないそれに、白旗しかないから。
もうどうしようもなくて。
それに対しての自分は、こんなにも醜くて。
そしたらもう、櫂斗の“トモさんは俺の”なんてセリフが全部、まるで台本のように思えてしまって。
自分自身がこんなにも独占欲の強い心の狭い人間だったんだと思い知らされたから。
不安、不信。それらを櫂斗にぶつけてしまった。
「えっと。俺、ガッコでつるんでるヤツ二人いるってこないだ話したよね?」
櫂斗は、けれども今度は全くそれに対して声を荒らげることをしない。
普通に優しく、目を見ながらゆっくりと説明を始めた。
「一人は、百八十超えてるでっけーオトコで、穂高っつーのね。こいつが陸上部。一年ン時から同じクラス」
「ん」
「で、も一人が。俺とおんなじくらいか、びっみょーにあいつんが高いかな、くらいのヤツで。女子バレー部の莉沙っつーの」
「!」
櫂斗の説明と、自分の見た光景が繋がる。
「そ。トモさんが見たの、多分莉沙ね。あいつ、ちょーモテるから、女に。くっそムカつくことに、一年女子の中にファンクラブあるらしいってくらい」
悔しさにちょっとだけ眉を寄せて。でも、きっと嫌いとかのネガティブな感情なんて全然なくて、むしろそれが誇らしいとでも言いたいような声色で。
朋樹は、それでもまだ何か含んだ目で櫂斗を見ている。
なので。
「もちょっと掘って説明すると。莉沙と穂高はなんつーか、幼馴染? 小学校から一緒にいるらしくてさ。お互い腐れ縁だっつって言いたいこと言いあってるんだけど」
「そこ二人が、彼氏彼女?」
「だといいんだけど。こいつらが超めんどくせーの。莉沙が中学上がる前に穂高にコクったらしんだけど、そん時は穂高が中学入ってからねって微妙な返事して。いざ中学入ったら莉沙の女バレが男女交際禁止だったらしくて、なんとなくうやむやになったん」
「じゃあ、高校入ったら付き合う、ってならない?」
「でしょ? も、素直に付き合っちゃえばいいじゃんって思うんだけど、もうなんか友達って感覚が強すぎるらしくて、なんだかんだ一緒にいるくせに、ラブラブにはならんのだと」
ちょおめんどくせー、と続けながら、朋樹の表情が緩んだのを感じて、櫂斗は朋樹をそっと押し倒す。
仰向けに寝転んだ朋樹を上から見下ろして。
「で、こないだは穂高が待ち合わせ場所間違えてたから、ちょい拾いに行ってくるつったら、一緒に行くから後ろ乗っけろって。あいつスカート履いてたろ? チャリじゃなくてバスで来てたし、も、しょーがねーじゃん」
「俺ん高校ね。男が後ろに女子乗っけてたら、それはイコールカップルってことだった」
「まじで? 俺、だったら何股かけてるよ? って話になるけど?」
「ええ?」
「俺のチャリ、荷台が付いてるママチャリだからさー、いろんな女子が“そこまで乗っけてって”つって乗ってくんだよ。あいつら、俺のことアシだと思ってる」
やっと、空気が緩む。
二人してくすくす笑って。朋樹の手が櫂斗の後頭部に回る。
「俺、前もゆったけど、ガッコじゃ“男”扱いされてねーからさ」
「俺は“カレシ”扱いしてるよ?」
「いちお、男ってこと、かな?」
引き寄せられて、唇を重ねた。
安心して、口腔内を味わう。
ぴちゅぴちゅと水音がして、お互いの気持ちを煽る。
キスを合図に、再び、と思った瞬間。
朋樹の携帯が鳴った。
しばらく放置するが切れる様子が、ない。
仕方なく朋樹が起き上がると。
「……やだ、無視して」
「ごめん、さすがに無理」
完全に不貞腐れた櫂斗が、むーと膨れた顔で朋樹の会話を見つめた。
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