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「ほのかってさ、カレシが浮気してたらどーする?」
櫂斗がいない月曜日の夕賄いで。
朋樹がおにぎりを食べながらほのかに問うと。
「櫂斗なら、浮気なんかしないと思うけど」
すぱーん、と返される。
「……問いに対する答え、違くない?」
「でも訊きたいのはそれでしょ? 何、浮気現場でも見たわけ?」
あれは、浮気だったのかどうか。
でも。
あまりにも自然な様子は、誰がどうみても“カップル”でしかなかったから。
「今の高校生って、自転車の後ろに彼女でもない女の子、乗せるものかな?」
少なくとも、自分はしなかった。
実際彼女がいた時は彼女しか乗せなかったし、いない時に女の子が後ろに乗ることなんて、当然だけどなかった。
それに、朋樹の通っていた高校では、その状況イコール“付き合っている”という証明でもあったから。
「櫂斗なら、乗っけるんじゃない? あいつ、平気で相合傘とかもしそうだし。しかも、ぜんっぜん下心とかナシで」
「ええー?」
「だって、完全に芳賀のことしかソウイウ目で見てないもん」
言われて、少し照れる。
「あー。なんなら逆に煽ってやろうか?」
「どゆこと?」
「櫂斗はホントは、かっわいい女の子と付き合ってて、お店でふざけて芳賀に言い寄ってるだけかもねー」
ほのかがニヤニヤ嗤う。
基本的に、朋樹を“年上”なんて思っていないほのかである。
櫂斗には悪いが、からかう相手として半分“おもちゃ”感覚なのは否めない。
「…………」
「おいおい、まじで落ち込むなよ?」
予想以上に朋樹の顔が曇る。
本気で“いぢめる”つもりなんて毛頭ないから、そんなまさかの反応に呆れ返るわけで。
ほのかは軽くため息を吐くと。
「あのさー。前、訊いたことあったじゃん?」飲みかけの味噌汁を置いて朋樹を見る。
「ん?」
「店で櫂斗が結構いろんなヤツに言い寄られてんの、どんな気持ちで見てんだって」
「ん」
「そん時は結構冷静に答えてたじゃん。櫂斗はみんなのモンだって」
「それは、だって。当たり前じゃん。櫂斗はココの看板みたいなモンだし、店でそーゆー相手をしれーってあしらってるのいつも見てるわけだし」
「だったらわかんじゃん、あいつの気持ちなんか」
「違うでしょ、それは。店の櫂斗は、なんてゆーかアイドル的な存在で。でも、ガッコの櫂斗って、そうじゃないでしょ。ふっつーに女子高生が回りにいて、そーゆー中で普通にあいつ可愛いしさ。俺なんかより普通のJKのが全然、いいだろうしさ」
朋樹は言いながら自分でどんどん、気持ちが沈んでいくのがわかる。
トモさんは俺の、なんて言っているのはやっぱり、店の……“おがた”の櫂斗で。
本来の緒方櫂斗は当たり前に男子高校生で、学校に行けばそれなりに女の子に人気のある可愛い系男子だから。
だったら普通に彼女がいて、普通に彼氏彼女でいるのが自然なわけで。
「うっわ。超おもしれー。芳賀にもヤキモチ焼く、なんて感情あったんだ?」
「……怒るよ?」
ほのかが鼻で笑う。
「フラフラ、フラフラ。あんたは一時期さっくんに言い寄られてへらへらしてたじゃん。挙句、櫂斗がブチ切れても全然平気な顔してへらへらしてるし」
「あの時は、だって……」
「こっちから見たら、あんたの方がよっぽど信じらんねーよ。櫂斗が心配してたの、わかるし。あいつは芯が通ってるから、少なくとも本気であんたにぶつかってるってのは誰が見ても明らかだけどね」
ほのかが、冷たい。
という事実に漸く朋樹が気付く。
「ほのか、俺のこと嫌いなの?」
まさかそんなこと、ないよなーと恐る恐る訊くと。
「あー、大丈夫。好きとか嫌い、以前の問題だから」
「は?」
「どうでもいい、ってのが答えだな、うん」
予想外の答えが返ってくる。
「ええー」
「ただのバイト仲間。それ以上でも以下でもない。少なくとも、櫂斗とあんたはお似合いだと思ってるし、櫂斗が悲しむのを見るのは可哀想って思うくらいはあいつの味方だよ、自分は」
「それは、ほのかは櫂斗のことは好きだけど俺のことは好きじゃないってこと?」
「お、うまいこと解釈したな。芳賀にしては上出来。だから、ご褒美に言ってやるよ」
ほのかは珍しく優しく微笑むと。
「あいつはおまえしか好きじゃねーよ、ばーか」
櫂斗がいない月曜日の夕賄いで。
朋樹がおにぎりを食べながらほのかに問うと。
「櫂斗なら、浮気なんかしないと思うけど」
すぱーん、と返される。
「……問いに対する答え、違くない?」
「でも訊きたいのはそれでしょ? 何、浮気現場でも見たわけ?」
あれは、浮気だったのかどうか。
でも。
あまりにも自然な様子は、誰がどうみても“カップル”でしかなかったから。
「今の高校生って、自転車の後ろに彼女でもない女の子、乗せるものかな?」
少なくとも、自分はしなかった。
実際彼女がいた時は彼女しか乗せなかったし、いない時に女の子が後ろに乗ることなんて、当然だけどなかった。
それに、朋樹の通っていた高校では、その状況イコール“付き合っている”という証明でもあったから。
「櫂斗なら、乗っけるんじゃない? あいつ、平気で相合傘とかもしそうだし。しかも、ぜんっぜん下心とかナシで」
「ええー?」
「だって、完全に芳賀のことしかソウイウ目で見てないもん」
言われて、少し照れる。
「あー。なんなら逆に煽ってやろうか?」
「どゆこと?」
「櫂斗はホントは、かっわいい女の子と付き合ってて、お店でふざけて芳賀に言い寄ってるだけかもねー」
ほのかがニヤニヤ嗤う。
基本的に、朋樹を“年上”なんて思っていないほのかである。
櫂斗には悪いが、からかう相手として半分“おもちゃ”感覚なのは否めない。
「…………」
「おいおい、まじで落ち込むなよ?」
予想以上に朋樹の顔が曇る。
本気で“いぢめる”つもりなんて毛頭ないから、そんなまさかの反応に呆れ返るわけで。
ほのかは軽くため息を吐くと。
「あのさー。前、訊いたことあったじゃん?」飲みかけの味噌汁を置いて朋樹を見る。
「ん?」
「店で櫂斗が結構いろんなヤツに言い寄られてんの、どんな気持ちで見てんだって」
「ん」
「そん時は結構冷静に答えてたじゃん。櫂斗はみんなのモンだって」
「それは、だって。当たり前じゃん。櫂斗はココの看板みたいなモンだし、店でそーゆー相手をしれーってあしらってるのいつも見てるわけだし」
「だったらわかんじゃん、あいつの気持ちなんか」
「違うでしょ、それは。店の櫂斗は、なんてゆーかアイドル的な存在で。でも、ガッコの櫂斗って、そうじゃないでしょ。ふっつーに女子高生が回りにいて、そーゆー中で普通にあいつ可愛いしさ。俺なんかより普通のJKのが全然、いいだろうしさ」
朋樹は言いながら自分でどんどん、気持ちが沈んでいくのがわかる。
トモさんは俺の、なんて言っているのはやっぱり、店の……“おがた”の櫂斗で。
本来の緒方櫂斗は当たり前に男子高校生で、学校に行けばそれなりに女の子に人気のある可愛い系男子だから。
だったら普通に彼女がいて、普通に彼氏彼女でいるのが自然なわけで。
「うっわ。超おもしれー。芳賀にもヤキモチ焼く、なんて感情あったんだ?」
「……怒るよ?」
ほのかが鼻で笑う。
「フラフラ、フラフラ。あんたは一時期さっくんに言い寄られてへらへらしてたじゃん。挙句、櫂斗がブチ切れても全然平気な顔してへらへらしてるし」
「あの時は、だって……」
「こっちから見たら、あんたの方がよっぽど信じらんねーよ。櫂斗が心配してたの、わかるし。あいつは芯が通ってるから、少なくとも本気であんたにぶつかってるってのは誰が見ても明らかだけどね」
ほのかが、冷たい。
という事実に漸く朋樹が気付く。
「ほのか、俺のこと嫌いなの?」
まさかそんなこと、ないよなーと恐る恐る訊くと。
「あー、大丈夫。好きとか嫌い、以前の問題だから」
「は?」
「どうでもいい、ってのが答えだな、うん」
予想外の答えが返ってくる。
「ええー」
「ただのバイト仲間。それ以上でも以下でもない。少なくとも、櫂斗とあんたはお似合いだと思ってるし、櫂斗が悲しむのを見るのは可哀想って思うくらいはあいつの味方だよ、自分は」
「それは、ほのかは櫂斗のことは好きだけど俺のことは好きじゃないってこと?」
「お、うまいこと解釈したな。芳賀にしては上出来。だから、ご褒美に言ってやるよ」
ほのかは珍しく優しく微笑むと。
「あいつはおまえしか好きじゃねーよ、ばーか」
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