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「トモさん、一人暮らししてて寂しくないの?」
 朋樹の真っ暗な部屋に灯りを点けた瞬間櫂斗が訊いてきた。

 土曜日の夜。
 バイトが終わった後、櫂斗が「トモさんち、泊まりに行きたい」と言い出した。
「トモくんがいいなら、いいわよ。櫂斗、ついでに勉強も教えて貰っておいで」
 という女将さんの笑顔に、朋樹は頷くしかできなくて。

「んー、最初は寂しかったかなー。今はもう慣れたけど」

 第一志望をこの大学に決めた時から、実家からは出ないといけないことはわかっていた。
 女の子なわけでもないし、親は二人共当たり前に送り出してくれたし、今も学費と家賃と生活費、なんていう大金を負担してくれているわけで。
 寂しいなんて言っていられる状況ではない。

「彼女連れ込むから、寂しいとかゆってる暇ない?」
「櫂斗さん、ちょいちょい嫌味言ってくれるよね。この部屋のどこに、女の子要素がある?」
「ないけど。でも、トモさん絶対モテてるハズだもん」
「……あのさ。正直に白状していい?」
 櫂斗の腕組みしての主張に、もうカッコ付けてなんていられないから。
 朋樹が軽く手を上げながら言うと。

「あ! やっぱ浮気してんだ!」
 まるで鬼の首を取ったかのように櫂斗が突っ込む。

「違う! 逆だっつの」
「逆って?」
「俺さ、実を言うとさ……恥ずかしい話、今まで彼女って一人しかいたことないわけ。高校二年の時から付き合って、結局俺がこっち来て遠恋になった途端フラれたからさ。も、櫂斗がいっつも俺が“モテる”って言う意味が、まじ全然わかんないわけ」

 朋樹って、最後まで私のこと見てくれなかったよね。
 と、彼女から電話で言われた最後の言葉が、脳裏にまだ残っている。
 近くにいる時は、ただ一緒にいるだけで良かった。
 受験生という立場も同級生だったから同じで、一緒に勉強していればそれだけで上手く行っていた。
 けれど、物理的な距離ができた途端、会話がかみ合わなくなって。

 見る物が違う。見る景色が違う。
 同じ物を見ている時には感じなかった違和感を、遠距離になった途端に意識するようになり。
 それぞれの新しい生活に流されているうちに、心の距離がどんどん離れて行った。

 切り出したのは彼女の方だったけれど、恐らく自分の気持ちも半分冷めていたのはわかっていたから。
 失恋した、という状況に酔ってグダグダしていた時もあったけれど、案外それは短期間で。

 幸いなことに気が合う仲間を大学に入ってから見つけたので、一緒に過ごす相手には困らなかった。
 恋愛に関しては別だが。

 元々恋愛体質ではないから、彼女がいないならいないなりに生活は楽しんでいたし、そうこうしているうちに“おがた”でバイトの楽しさにハマるわ、“櫂斗”という想定外の“カレシ”なんてものができるわ。
 今は完全に“寂しい”なんて感覚はない。
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