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「も一杯飲む?」
「奢ってくれるなら、いくらでも飲みますけど」
「お、可愛いことゆうじゃん」
「自分、強いっすよ?」
つまり、酔い潰れるつもりはない、と。
「だから、も、ほんとオトコマエだねえ。同じのでいい?」
ほのかが頷くと、杏輔は自分の二杯目はハイボールをオーダーした。
思っていた以上に、気持ちが軽くなっているから。目の前のふざけまくっている男に、少し感謝する。
「どんだけ飲ませたらほのかちゃん、抱けるかなあ?」
「まだ言ってんスか。なんだってこんな鶏ガラみたいなの抱きたがるかな。よっぽど櫂斗のが抱き心地いいと思うけど」
どちらかというと、自分が女子にしては細すぎるというのはほのかにはコンプレックスだ。
周りのふわふわした女子にそんなことを言うと嫌味だと怒られるから言わないけれど、男が抱いて気持ちイイと思うのは、ガリガリよりふわふわだろう。
「ほのかちゃん。男はね、見た目で抱くんじゃないんだよ、気持ちで抱くんだよ」
「…………クサい」
「ええー、俺今イイコト言ったと思ったのに」
「じゃあグラビアでヌくのは何なん?」
「そりゃ、ただの排泄」
思った以上にはっきりした返答に、ほのかも納得。
「俺、ほのかちゃんだと、久々に抱けると思ったんだけどな」
「え、失礼過ぎん? そんな尻軽に見えんの?」
「そーゆー意味じゃなくて。俺、当分好きな人とヤってないの」
「いや、別にこんなトコでしょーもない嘘、いらない」
「ほんとだよー。だって、死んじゃった人とはヤれないじゃん?」
また、真意の掴めない発言をする。
「何年になるかなー。も、半分童貞みたいなモンよ、俺」
「…………」
「初めてのコがー、ホントに好きだったんだよ、俺。こう見えて一途だから。で、その相手がなんか、わけわかんないけど突然死しちゃったの。だってさ、ほんと意味、わかんなくね? 自殺とか事故ならさ、まだなんか意味わかるけど。何なんだよね、突然死って」
杏輔の言っている話が、真実なのか否か。
ほのかは目を見る。
顔はどう見ても笑顔。
なのに、深い悲しみがその目の奥に見えた瞬間、ほのかは息を呑んだ。
「という過去をね。使って、ほのかちゃんを口説いてみました」
「…………」
「どお? 今晩、俺に抱かれてみない?」
どうしてこの男は、こんなにふざけるのだろうか。
絶対にほのかが“否”の答えを出すことを前提としているから。
逆に、抱かれてみたいと、思ってしまう。
「…………何時?」
ほのかが、何とか声を出したのは、そんな問いかけ。
「へ? あー……十二時半」
「そろそろ最終なんで、帰る」
危ない危ない。
杏輔の望みが本当はどちらか、なのかはさすがにわからなくて。
簡単にナンパされて靡いて体を委ねるなんて、あり得ないから。
今、現状、遠藤に刺された傷を杏輔に癒されたのは事実で。
でもだからと言って、こんな状況で杏輔に抱かれるなんて、まじでありえない、とほのかは頭を振って冷静さを取り戻した。
「そっか。ほのかちゃん、実家暮らしだったね」
「いちお、箱入り娘なんで」
スカスカの薄っぺらい紙でできた透明な箱だけど。
「じゃあ、また一緒に飲もう。店から出たらナンパしてもいいでしょ?」
「飲み放題ならいつでも付き合いますよ」
「ん。次、店で会ったら、その夜ここで待ってるね」
随分と爽やかな笑顔で、ストーカー的発言。
……でも、嫌じゃない。
から。
「…………だめだ、うまい返しが浮かばない」
少し悩んで正直に白状すると、杏輔は笑って。
「待っててね、でいんだってば」
至極簡単な単語を口にした。
そして。
「じゃあね、おやすみ。気を付けて帰んなよ」
決して連絡先を求めることなく、そう言ってほのかに手を振った。
「奢ってくれるなら、いくらでも飲みますけど」
「お、可愛いことゆうじゃん」
「自分、強いっすよ?」
つまり、酔い潰れるつもりはない、と。
「だから、も、ほんとオトコマエだねえ。同じのでいい?」
ほのかが頷くと、杏輔は自分の二杯目はハイボールをオーダーした。
思っていた以上に、気持ちが軽くなっているから。目の前のふざけまくっている男に、少し感謝する。
「どんだけ飲ませたらほのかちゃん、抱けるかなあ?」
「まだ言ってんスか。なんだってこんな鶏ガラみたいなの抱きたがるかな。よっぽど櫂斗のが抱き心地いいと思うけど」
どちらかというと、自分が女子にしては細すぎるというのはほのかにはコンプレックスだ。
周りのふわふわした女子にそんなことを言うと嫌味だと怒られるから言わないけれど、男が抱いて気持ちイイと思うのは、ガリガリよりふわふわだろう。
「ほのかちゃん。男はね、見た目で抱くんじゃないんだよ、気持ちで抱くんだよ」
「…………クサい」
「ええー、俺今イイコト言ったと思ったのに」
「じゃあグラビアでヌくのは何なん?」
「そりゃ、ただの排泄」
思った以上にはっきりした返答に、ほのかも納得。
「俺、ほのかちゃんだと、久々に抱けると思ったんだけどな」
「え、失礼過ぎん? そんな尻軽に見えんの?」
「そーゆー意味じゃなくて。俺、当分好きな人とヤってないの」
「いや、別にこんなトコでしょーもない嘘、いらない」
「ほんとだよー。だって、死んじゃった人とはヤれないじゃん?」
また、真意の掴めない発言をする。
「何年になるかなー。も、半分童貞みたいなモンよ、俺」
「…………」
「初めてのコがー、ホントに好きだったんだよ、俺。こう見えて一途だから。で、その相手がなんか、わけわかんないけど突然死しちゃったの。だってさ、ほんと意味、わかんなくね? 自殺とか事故ならさ、まだなんか意味わかるけど。何なんだよね、突然死って」
杏輔の言っている話が、真実なのか否か。
ほのかは目を見る。
顔はどう見ても笑顔。
なのに、深い悲しみがその目の奥に見えた瞬間、ほのかは息を呑んだ。
「という過去をね。使って、ほのかちゃんを口説いてみました」
「…………」
「どお? 今晩、俺に抱かれてみない?」
どうしてこの男は、こんなにふざけるのだろうか。
絶対にほのかが“否”の答えを出すことを前提としているから。
逆に、抱かれてみたいと、思ってしまう。
「…………何時?」
ほのかが、何とか声を出したのは、そんな問いかけ。
「へ? あー……十二時半」
「そろそろ最終なんで、帰る」
危ない危ない。
杏輔の望みが本当はどちらか、なのかはさすがにわからなくて。
簡単にナンパされて靡いて体を委ねるなんて、あり得ないから。
今、現状、遠藤に刺された傷を杏輔に癒されたのは事実で。
でもだからと言って、こんな状況で杏輔に抱かれるなんて、まじでありえない、とほのかは頭を振って冷静さを取り戻した。
「そっか。ほのかちゃん、実家暮らしだったね」
「いちお、箱入り娘なんで」
スカスカの薄っぺらい紙でできた透明な箱だけど。
「じゃあ、また一緒に飲もう。店から出たらナンパしてもいいでしょ?」
「飲み放題ならいつでも付き合いますよ」
「ん。次、店で会ったら、その夜ここで待ってるね」
随分と爽やかな笑顔で、ストーカー的発言。
……でも、嫌じゃない。
から。
「…………だめだ、うまい返しが浮かばない」
少し悩んで正直に白状すると、杏輔は笑って。
「待っててね、でいんだってば」
至極簡単な単語を口にした。
そして。
「じゃあね、おやすみ。気を付けて帰んなよ」
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