居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那

文字の大きさ
上 下
55 / 167
<2>

☆☆☆

しおりを挟む
「も一杯飲む?」
「奢ってくれるなら、いくらでも飲みますけど」
「お、可愛いことゆうじゃん」
「自分、強いっすよ?」
 つまり、酔い潰れるつもりはない、と。

「だから、も、ほんとオトコマエだねえ。同じのでいい?」
 ほのかが頷くと、杏輔は自分の二杯目はハイボールをオーダーした。

 思っていた以上に、気持ちが軽くなっているから。目の前のふざけまくっている男に、少し感謝する。

「どんだけ飲ませたらほのかちゃん、抱けるかなあ?」
「まだ言ってんスか。なんだってこんな鶏ガラみたいなの抱きたがるかな。よっぽど櫂斗のが抱き心地いいと思うけど」
 どちらかというと、自分が女子にしては細すぎるというのはほのかにはコンプレックスだ。
 周りのふわふわした女子にそんなことを言うと嫌味だと怒られるから言わないけれど、男が抱いて気持ちイイと思うのは、ガリガリよりふわふわだろう。

「ほのかちゃん。男はね、見た目で抱くんじゃないんだよ、気持ちで抱くんだよ」
「…………クサい」
「ええー、俺今イイコト言ったと思ったのに」
「じゃあグラビアでヌくのは何なん?」
「そりゃ、ただの排泄」
 思った以上にはっきりした返答に、ほのかも納得。

「俺、ほのかちゃんだと、久々に抱けると思ったんだけどな」
「え、失礼過ぎん? そんな尻軽に見えんの?」
「そーゆー意味じゃなくて。俺、当分好きな人とヤってないの」
「いや、別にこんなトコでしょーもない嘘、いらない」
「ほんとだよー。だって、死んじゃった人とはヤれないじゃん?」

 また、真意の掴めない発言をする。

「何年になるかなー。も、半分童貞みたいなモンよ、俺」
「…………」
「初めてのコがー、ホントに好きだったんだよ、俺。こう見えて一途だから。で、その相手がなんか、わけわかんないけど突然死しちゃったの。だってさ、ほんと意味、わかんなくね? 自殺とか事故ならさ、まだなんか意味わかるけど。何なんだよね、突然死って」

 杏輔の言っている話が、真実なのか否か。
 ほのかは目を見る。
 顔はどう見ても笑顔。
 なのに、深い悲しみがその目の奥に見えた瞬間、ほのかは息を呑んだ。

「という過去をね。使って、ほのかちゃんを口説いてみました」
「…………」
「どお? 今晩、俺に抱かれてみない?」

 どうしてこの男は、こんなにふざけるのだろうか。
 絶対にほのかが“否”の答えを出すことを前提としているから。

 逆に、抱かれてみたいと、思ってしまう。

「…………何時?」
 ほのかが、何とか声を出したのは、そんな問いかけ。
「へ? あー……十二時半」
「そろそろ最終なんで、帰る」

 危ない危ない。
 杏輔の望みが本当はどちらか、なのかはさすがにわからなくて。
 簡単にナンパされて靡いて体を委ねるなんて、あり得ないから。
 今、現状、遠藤に刺された傷を杏輔に癒されたのは事実で。
 でもだからと言って、こんな状況で杏輔に抱かれるなんて、まじでありえない、とほのかは頭を振って冷静さを取り戻した。

「そっか。ほのかちゃん、実家暮らしだったね」
「いちお、箱入り娘なんで」
 スカスカの薄っぺらい紙でできた透明な箱だけど。

「じゃあ、また一緒に飲もう。店から出たらナンパしてもいいでしょ?」
「飲み放題ならいつでも付き合いますよ」
「ん。次、店で会ったら、その夜ここで待ってるね」
 随分と爽やかな笑顔で、ストーカー的発言。
 ……でも、嫌じゃない。
 から。

「…………だめだ、うまい返しが浮かばない」
 少し悩んで正直に白状すると、杏輔は笑って。
「待っててね、でいんだってば」
 至極簡単な単語を口にした。
 
 そして。
「じゃあね、おやすみ。気を付けて帰んなよ」
 決して連絡先を求めることなく、そう言ってほのかに手を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...