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「おっはよー、おーきてー」
もはや、合鍵を持っている櫂斗に怖いもんなんてない。
勝手に扉を開けて、当たり前に爆睡している朋樹のベッドにダイブすると、当たり前のようにキスをして。
「…………苦しい」
「トモさん、あそぼ?」これ、昔妹にやられたな。
「…………幼児か、おまえは」
うっすらと目を開けて。
元気全開、という櫂斗と目が合う。
「トモさん、起きないと食っちゃうよ?」
「……もお、なんだって櫂斗はいつもいつも、そんな朝早いかな」
「早くない。もお朝九時。俺、起きて三時間経ってる」
「俺、寝たのが五時なの。逆に四時間しか寝てないの。お願い、寝させて」
一週間分の溜まったレポートを片付けて、ついでにちょっとだけお気に入りマンガの新刊が出ていたから読んで寝ようと思ったら、夜が明けていた。
わかっていたんだけど。櫂斗が来るということは。
もう既に、約束なんてしないままに櫂斗は朝から部屋を襲撃してくるから。
「わかった。じゃあ俺、トモさんち、探検してる」
「……探検?」
「エロ本とかえっちビデオ、探す」
「……ないよ、そんなの」
「えー、ないのお? ほんとにい?」
「……前ゆったじゃん、電子派だって」
「じゃあ、PC見るよ?」
「勝手にどおぞ」
「……つまんない」
「なんで?」
「見ちゃやだ、恥ずかしいってゆって欲しかった」
ぷ、と膨れる。自分が可愛いとわかっているからこその、……このあざとさ。
だめだ。
寝てらんねえ。
だって、可愛すぎる。
朋樹は仕方なく起き上がると、
「とりあえず、シャワー浴びて来る」とバスルームに向かった。
合鍵を渡した時点で、わかっていたことで。
というよりは、まあそれも赦しているわけで。
朋樹としては、朝の爆睡タイムも大事なのは大事だけれど、元カノにフラれて以降ずっとこの部屋に来る“恋人”なんていなかったから、櫂斗が来てくれるのはやっぱり嬉しい。
何をするでもないけれど、部屋で一緒に過ごす時間はこの上なく幸せだと思うし、キスやもっとそれ以上のイロイロだって、初めての“男同士”なんてことを差し引いても、やっぱり気持ちイイから。
櫂斗を可愛いと思っている自分が、もうこの時間を大事なものだと位置づけているから、放置して寝ていることなんてできないのだ。
「トモさん、どんなエロ本見てる?」
濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながらリビングに戻る。
すると目が合った瞬間、いつものように朝御飯をテーブルに広げて待っていた櫂斗が、開口一番訊いてくる。
「朝っぱらから何の話だよ」
「だって、俺見ようと思っても十八歳未満でアクセスできねーもん」
「見なくていいから」
「見たいし。健全なオトコノコだもん、興味シンシン」
「……じゃあ、何見て一人えっちしてるわけ?」
ちょっとだけ意地悪。いつもいつも翻弄されているから、たまには照れやがれ、とばかりに朋樹がニヤニヤしながら訊くと。
「トモさんの裸、もーそーしながらヌいてる」
しゃあしゃあと答える。
から、こっちが赤面してしまう。
「……………おまえはっ」
くふくふ、ふざけて笑っているのが小憎らしい。
「なーんつって。うそうそ。雑誌とかなら俺だって持ってるし」
「結構素直に白状するねえ、櫂斗」
「俺、トモさんと一緒にエロビデオ見ながらえっちしたら、ちゃんと最後までヤれるかなーとか思ったんだけど」
「だから! 朝っぱらから何つー話をしてんだっつの」
こっちが照れてしまうのを、本当に楽しそうに仰け反って笑う。
「いいから。朝飯、食うよ」
「ん。どおぞ。かーちゃんが、残り物だけどトモさん卯の花和え好きだから持って行きなって。だから、今日はそれと卵焼き。かーちゃんの卵焼き、真似してみた」
おにぎり、味噌汁、そして昨夜の小鉢の残り物。それらの惣菜が朋樹の家にある不揃いの皿に盛りつけられていて。
完全に目が覚めたからは、当然空腹を感じているから。
どうやら完全に胃袋は、拘束されているみたいだ。
「後でさ、買い物行かない?」
一緒におにぎりを食べて。卵焼きを口に入れて「悪くないじゃん、俺天才」なんて呟いた櫂斗が提案する。
「何買いに行きたい?」
「おソロの食器、買いたい。高くなくて、百均でいいから。俺、このバラバラなのちょっとやだ」
実家からとりあえずと持ってきた皿は基本的に一枚ずつ。
しかも、母の何十年前の引き出物だよ、って代物だから。
「トモさんちで、夫婦茶碗とか、ちょお憧れる」
そんな些細なことを望んで喜んでいる櫂斗が可愛くて、
「じゃあ、これ食べたら出掛けようね」と頭をぐりぐり撫でてやる。
すると櫂斗は目を細めてふわふわの笑顔を見せてくれた。
「トモさん、大好き」
いつも、そうやって言葉にする。
素直に真っすぐに育った櫂斗は、ストレートに感情を口にして朋樹を翻弄する。
この悪魔なんだか天使なんだかわからないけれど、ふわふわな生き物が自分のモノだなんてまだ信じられないけれど、体当たりでぶつかってくるのを受け止めるのは、自分の責任だと思う。
なんだかんだゆったって、もうこんなにも惚れてしまっているわけだから。
もはや、合鍵を持っている櫂斗に怖いもんなんてない。
勝手に扉を開けて、当たり前に爆睡している朋樹のベッドにダイブすると、当たり前のようにキスをして。
「…………苦しい」
「トモさん、あそぼ?」これ、昔妹にやられたな。
「…………幼児か、おまえは」
うっすらと目を開けて。
元気全開、という櫂斗と目が合う。
「トモさん、起きないと食っちゃうよ?」
「……もお、なんだって櫂斗はいつもいつも、そんな朝早いかな」
「早くない。もお朝九時。俺、起きて三時間経ってる」
「俺、寝たのが五時なの。逆に四時間しか寝てないの。お願い、寝させて」
一週間分の溜まったレポートを片付けて、ついでにちょっとだけお気に入りマンガの新刊が出ていたから読んで寝ようと思ったら、夜が明けていた。
わかっていたんだけど。櫂斗が来るということは。
もう既に、約束なんてしないままに櫂斗は朝から部屋を襲撃してくるから。
「わかった。じゃあ俺、トモさんち、探検してる」
「……探検?」
「エロ本とかえっちビデオ、探す」
「……ないよ、そんなの」
「えー、ないのお? ほんとにい?」
「……前ゆったじゃん、電子派だって」
「じゃあ、PC見るよ?」
「勝手にどおぞ」
「……つまんない」
「なんで?」
「見ちゃやだ、恥ずかしいってゆって欲しかった」
ぷ、と膨れる。自分が可愛いとわかっているからこその、……このあざとさ。
だめだ。
寝てらんねえ。
だって、可愛すぎる。
朋樹は仕方なく起き上がると、
「とりあえず、シャワー浴びて来る」とバスルームに向かった。
合鍵を渡した時点で、わかっていたことで。
というよりは、まあそれも赦しているわけで。
朋樹としては、朝の爆睡タイムも大事なのは大事だけれど、元カノにフラれて以降ずっとこの部屋に来る“恋人”なんていなかったから、櫂斗が来てくれるのはやっぱり嬉しい。
何をするでもないけれど、部屋で一緒に過ごす時間はこの上なく幸せだと思うし、キスやもっとそれ以上のイロイロだって、初めての“男同士”なんてことを差し引いても、やっぱり気持ちイイから。
櫂斗を可愛いと思っている自分が、もうこの時間を大事なものだと位置づけているから、放置して寝ていることなんてできないのだ。
「トモさん、どんなエロ本見てる?」
濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながらリビングに戻る。
すると目が合った瞬間、いつものように朝御飯をテーブルに広げて待っていた櫂斗が、開口一番訊いてくる。
「朝っぱらから何の話だよ」
「だって、俺見ようと思っても十八歳未満でアクセスできねーもん」
「見なくていいから」
「見たいし。健全なオトコノコだもん、興味シンシン」
「……じゃあ、何見て一人えっちしてるわけ?」
ちょっとだけ意地悪。いつもいつも翻弄されているから、たまには照れやがれ、とばかりに朋樹がニヤニヤしながら訊くと。
「トモさんの裸、もーそーしながらヌいてる」
しゃあしゃあと答える。
から、こっちが赤面してしまう。
「……………おまえはっ」
くふくふ、ふざけて笑っているのが小憎らしい。
「なーんつって。うそうそ。雑誌とかなら俺だって持ってるし」
「結構素直に白状するねえ、櫂斗」
「俺、トモさんと一緒にエロビデオ見ながらえっちしたら、ちゃんと最後までヤれるかなーとか思ったんだけど」
「だから! 朝っぱらから何つー話をしてんだっつの」
こっちが照れてしまうのを、本当に楽しそうに仰け反って笑う。
「いいから。朝飯、食うよ」
「ん。どおぞ。かーちゃんが、残り物だけどトモさん卯の花和え好きだから持って行きなって。だから、今日はそれと卵焼き。かーちゃんの卵焼き、真似してみた」
おにぎり、味噌汁、そして昨夜の小鉢の残り物。それらの惣菜が朋樹の家にある不揃いの皿に盛りつけられていて。
完全に目が覚めたからは、当然空腹を感じているから。
どうやら完全に胃袋は、拘束されているみたいだ。
「後でさ、買い物行かない?」
一緒におにぎりを食べて。卵焼きを口に入れて「悪くないじゃん、俺天才」なんて呟いた櫂斗が提案する。
「何買いに行きたい?」
「おソロの食器、買いたい。高くなくて、百均でいいから。俺、このバラバラなのちょっとやだ」
実家からとりあえずと持ってきた皿は基本的に一枚ずつ。
しかも、母の何十年前の引き出物だよ、って代物だから。
「トモさんちで、夫婦茶碗とか、ちょお憧れる」
そんな些細なことを望んで喜んでいる櫂斗が可愛くて、
「じゃあ、これ食べたら出掛けようね」と頭をぐりぐり撫でてやる。
すると櫂斗は目を細めてふわふわの笑顔を見せてくれた。
「トモさん、大好き」
いつも、そうやって言葉にする。
素直に真っすぐに育った櫂斗は、ストレートに感情を口にして朋樹を翻弄する。
この悪魔なんだか天使なんだかわからないけれど、ふわふわな生き物が自分のモノだなんてまだ信じられないけれど、体当たりでぶつかってくるのを受け止めるのは、自分の責任だと思う。
なんだかんだゆったって、もうこんなにも惚れてしまっているわけだから。
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