居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那

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「あ、“タッチ”がある。さすが元野球少年だねえ」
 櫂斗の部屋に入った朋樹の第一声はそれだった。

 緒方家の自宅は、店の奥にある階段を上がって二階にある。
 ちなみに三、四階はワンルームの賃貸アパートになっているので、裏側には外階段があり、店子はそちらから出入りしている。このアパートの住民にも常連客はいるので、不動産に関しては他の会社に任せているが、一応ご近所付き合い程度の繋がりは、ある。

 ワンフロアにLDKと櫂斗の部屋、女将さんたちの主寝室、水回りやウォークインクローゼットなどの部屋があり、LDKは広いけれど、店で過ごす時間の方が長いせいかあまり物がなく、すっきりとした雰囲気で。
 
 一人ずつ風呂に入るのは時間がかかるから、と二人一緒に入浴。
 だからといって、音の響く浴室でナニができるってわけでもないから、普通にあったまって。
 リビングでアイスを食べて寛いでから、櫂斗の部屋に向かった。
 ちなみに櫂斗の部屋からトイレを隔てた隣の部屋が、女将さんと大将の寝室である。

「いやそれはかーちゃんの。俺は普通に“ワンピース”と“キメツ”」
 櫂斗のTシャツに短パン、という姿でお風呂上りに櫂斗の部屋に入ると、櫂斗は中学校の体操服姿でベッドに寝転がる。
「トモさんも、一緒にゴロゴロしよー」
 言われて、櫂斗の横に転がって。

「トモさんは? 家にマンガなかったけど、読まない人?」
「読んでるよ。こっち来てからはずっと電子。本は実家に置いてる」
 片付けや掃除が下手なことは自覚しているから、極力物を増やさないよう努力している。

「今日、ほんとに帰んなくても大丈夫だった?」
 半分強引に誘ったことを気にして、櫂斗が訊いてみた。
「まあ、こないだデカい課題は終わったし。実際帰っても寝るだけだったからね」
 外の雨は降り続いていて、時々ゴオという音と共にシャワーのような雨が窓に当たる。
「自転車で無理して帰ること考えたら、ありがたいよ」
 朋樹が優しく言って、櫂斗を腕の中に包み込んだ。

「トモさん」名前を呼んで目を閉じる。キス待ち顔をして。

「櫂斗は宿題、ないの?」
 期待に反して朋樹が言うから、
「もお。そんなんどおでもいいじゃん。ちゅう、してよ」
 ぷ、と膨れる。

「どおでもいいわけ、ないじゃん。ガッコ帰ってすぐバイトでしょ? いつもなら宿題してんじゃないの?」
「……してるけど」
「見てあげよっか?」
「やだ。せっかくトモさんとイチャイチャできるのに、ベンキョなんかどおでもいいし」

 ダメだよ、と朋樹は櫂斗を抱き起した。
「まだそんな遅い時間じゃないし、数学なら俺もみてやれるし」
「数学ならみてもらわなくても自分でできるし」
「お、言うねえ」
 机の前に無理矢理座らされた櫂斗は、しぶしぶ教科書とノートを取り出した。

「でも俺宿題する間、トモさんヒマでしょ?」
「櫂斗がサボらないように、見張ってる」
「ええー……あ、じゃあココ、座って」
 櫂斗が自分の椅子に朋樹を座らせた。
「へ?」
「後ろから、見張ってて」
 そして無理矢理その膝の間に座り込む。

 体勢こそそんな状態ではあったが、基本的に根っこは真面目なA型櫂斗だから。
 朋樹に見守られながら数学のプリントを一枚と、英語の課題をノート一ページ終わらせるまでには大して時間はかからなかった。
 シャーペンを置くとくるりと反転して。
「はい、ご褒美のちゅう」
 初めてのキスと同じ体勢で朋樹と唇を重ねた。

「さ、じゃあ寝よっか」唇が離れると、朋樹が冷静に言う。
 が。
「寝かせないよ?」
 櫂斗がくふくふ笑って朋樹に抱き着いて離れない。
「櫂斗さん、朝早いんでしょ?」
「早いねえ」
「じゃあ、もう日付も超えたし、そろそろ寝ないと」
「だいじょぶ。俺、朝強いから」
「何時起き?」
「五時半」
「……まじで?」
「には、起きてトモさんとえっちして、そっから朝ごはん作る」
「しませんって」
「じゃあ、今からえっちする」
「だから、しませんって」

 言葉遊びだとわかっているけれど、櫂斗の目が欲情しているのは朋樹にもわかる。
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