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「ほのか」
 欲情した声が、耳に流れ込む。

 遠藤の一人暮らしている部屋は“おがた”から徒歩五分の場所にあるワンルームマンションで。
 店を出る時にほのかに“待ってる”とラインが入ったから、夜賄いを断ってそのままマンションまで歩いた。
 それが逢瀬のサイン。
 ほのかはその合図を、ただ待つことしか、できない。

 朋樹と違い、実家暮らしをしているほのかの家は店のある駅から三駅離れた場所にある。
 既に成人しているし、バイトだとわかっているから特に門限があるわけでもないので、遠藤に誘われた日はそのまま泊まるのが恒例で。

 泊まる。つまり、当然そこにはセックスが伴う。
というよりはもはや、その行為のために遠藤はほのかを誘うのだろうが。
 そんな、体だけしか求められていないことなんて、わかっているのに。
 それでも、この繋がりを切れないでいるのは。

 片想いでもいい。ただ傍にいたい。……そう、ただ、彼のことが好きなだけ。

「ほのか、愛してる」
 嘘だとわかっているのに、その言葉が嬉しくて。
 遠藤のキスに応える。

 素肌を辿る彼の指が、ほのかの熱を煽る。
 重なった唇から、彼の欲情した吐息と共に熱い舌が入ってくる。

 もう、何度交わっただろうか。
 半年程前、カウンターにスマホを置き忘れていた遠藤に、気付いたほのかが届けた、なんてベタな話がきっかけで。
 なんてことのない会話を交わし、何度かバイトの後で軽く一緒に飲むようになり、部屋に入ることになったのはもう、体の関係を結ぶことが前提だったから。

 遠藤のどこに惚れたかなんて、ほのかにもわからない。
 誰からも冷たいコだと言われ続けていたほのかに笑顔を与えたのが遠藤だった。
 くだらないことで笑わせて、笑ったという事実に照れて黙ってしまうほのかを“可愛い”と言ってくれた。

 きっと。多分、それだけ。
 だって、“可愛い”なんて言って貰えるのはいつだって妹の方で。
 感情豊かにワガママ放題に生きているほのかの妹は、誰が見てもただただ“可愛い”くて。
 だから。

 遠藤の“可愛い”が嬉し過ぎた。
 それだけで、抱かれるには十分だった。

 高校時代のカレシに初めて抱かれた時はもう、ただただ“痛い”という思いしかなくて。セックスなんて二度とするもんかと思っていたのに、遠藤のそれは有り得ないくらい快感を教えてくれて。
 自分の声とは思えない声を彼は引き出し、まるで異世界を漂うかのような陶酔をもたらす。
 遠藤に惚れたのは、その行為に溺れているのも多分一つの理由だろうとほのかは思う。

「あっ……」
 遠藤の太く硬いモノが自分のグズグズに解けたナカを掻き分けて入ってくる。
 舌と指で既に何度もイっているから、ソコはぐちゅぐちゅに濡れていて。軽く腰を進めるだけで、ぬるりと遠藤は侵入する。
 早く挿れて欲しいと願っていたその熱い猛りがナカにずっぽりと収まると、今度は緩急をつけて暴れる。
 自分から溢れ出す体液のせいで、ぬちゅぬちゅと水音がしてほのかの羞恥心を刺激する。それはより一層の快感を生むから、遠藤が指でコリコリと突起を弄りながら奥を突き上げ、何度も何度もほのかを絶頂へと誘う。

 そうしてゆっくりと確実にほのかに快感をもたらすソレは、段々と激しさを増し、ぱちゅぱちゅと勢いよく最奥を突いて最終的には何も考えられなくする。

「ほのか……可愛い……愛してる」
 表面だけのそのセリフさえ、ほのかの逸楽を美しく仮装させて。
 もっと、感じたいと。より深い快感を求めさせる。
 まるで媚薬のような、綺麗な“愛”は、ほのかが完全に毒されていることを忘れさせ、悦楽を求めることを最善のものと認識させる。

「んんっ……はあっ……」
「イイだろ。ほら、声出せよ。もっと、欲しいって。感じてる声、聴かせて」
「ああっ……イイっ……そこ……もっと……もっといっぱいぐちゅぐちゅして」
 促されるままに喘ぎ、腰を振って何度もイって。
 そうして何もかもわからなくなるまで享楽に溺れて、ほのかは遠藤の腕の中に眠る。

 朝、罪悪感と共に部屋を出ることは、目覚めてからの話。
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