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「いらっしゃいませー」
 櫂斗が看板息子としての可愛い笑顔で来客を迎える。

 今日は金曜日。
 “おがた”が一番忙しい日。

「生四つ。刺し盛と串盛り。あと、女将さんのポテサラと、小鉢セット」
「おけ」
 常連さんのファーストオーダーなんて、メモするまでもないから。
 櫂斗は手早くカウンターで注文を伝えると、生ビールを準備。
 ほのかが既にお通しを四つトレイに載せてくれていたから、
「さんきゅ」とジョッキ片手にそれも運ぶ。

 二人の連携プレーなんて、朋樹は見ているヒマはない。
「えっと、今日のオススメはキミ……じゃなくて、キビナゴの天ぷらです」
 女性客におかしな噛み方して苦笑する。
 イケメンにそんなことを言われてきゃぴきゃぴしている熟女二人だから、当然それはオーダーされる。

「大将、キミ……ああもう。キビナゴー」
「もういいよ、芳賀はキミナゴで」
 ほのかに言われ、へらへら笑っている朋樹に。
「トモさん! そんなことゆってトモさんが食われたら、俺怒るからね」
 女将さんからポテサラを受け取りながら、櫂斗は軽く一睨み。

 超絶多忙の金曜夜の“おがた”だって、櫂斗とほのか――と一応朋樹――がいれば大丈夫。
 女将さんは小鉢に卯の花和えを盛り付けながら、くふ、と笑う。
 今って“おがた”史上最強メンバーだといつも思う。

 勿論、今までのバイトが使えなかったことなんて一度もないけれど、こんなにノーストレスで繁忙期を過ごせるなんて、怖いくらいで。
 元々バイトなんて自分一人だけで始まった店だったし、こんなに繁盛するなんて当時は予想もしていなかったけれど。
 大将の料理が美味しいのはもう、最初から知っていたし、だからそれだけは絶対の自信を持ってお客様に提供できるから、あとのことは自分が支えようと思ってる。
 こうやって、カウンターの中で常連さんと楽しくお喋りしながらも、店内の総ての状況は把握して。
 ほのかが酔客に絡まれてないか、朋樹が店の端っこでトラブってないか、とか。

 でも。
面白いことに、今では櫂斗が自分以上にそんなことに気を回してくれているのがわかったから、最近は半分お任せ。
 カレシだから護って当然、なんて朋樹に対してナイトを気取るのも、女の子を泣かせるのは男のやることじゃねえ、なんてカッコ付けてほのかをさりげなく護っているのも。
 全部櫂斗が無意識にやっているから。
 自分の子育ても、あながち間違ってなかったんじゃないかな、なんて。

 今日も女将さんは、カウンターの中で微笑みを湛えて特製卵焼きなんて焼いている。
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