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「あ、さっくんからライン来た」
という朋樹の言葉に、櫂斗が瞠目した。
「ちょっと待って、トモさん。あいつにライン教えたの?」
「うん。ほら、こないだ櫂斗試験でいなかったろ? そん時、女将さんがラインくらい教えたらって」
「あンのクソばばあ……」
「こらこら、クソばばあはないでしょ。あんな綺麗な人つかまえて」
水曜日。バイト上がりにちょっとだけ逢おう、と櫂斗がエッグで朋樹と待ち合わせして。
勿論既に日付が変わろうとする時間ではあるし、朋樹も帰ってレポートを書かないといけないから本当にちょっとだけ、ではあったけれど。
でも、櫂斗の試験や朋樹のゼミですれ違いが続いていたから、櫂斗の“逢いたい”に朋樹が答えてあげた。
「なんて?」
「ん? さっくん?」
「そう。何、言ってきた?」
「えー、プライバシーの侵害、じゃん」
「うるさい。恋人にたかる虫から護るためには必要なこと!」
「……もお、俺どっから突っ込んでいいかわかんねーし」
「いいから!」
恋人って、どういう意味だっけ、なんて朋樹が頭の中の辞書を開こうとする。
「なんかー、今度バイト休みっていつ? だって」
「答えなくていいから。つか、ブロックして、ブロック!」
「そんなことできないでしょ。お客さんだよ?」
「あんなヤツ、客でもなんでもないっつの。何、トモさん、あいつと会う気?」
櫂斗が膨れる。
朋樹はそれを見て「可愛いの、櫂斗の方じゃん」と呟いた。
「絶対会っちゃダメだからね。トモさん、二人で会ったらあいつに食われるから!」
「食わないって。俺男だよー。そんな簡単に食われませんって。ほんとにもー、櫂斗はいつもいつも、何言ってんだか」
ほわほわと笑っている朋樹に、
「その顔! そのふわっふわな笑顔、絶対俺以外に見せちゃ、ダメだから! トモさんは俺だけ見てればいいんだから!」
言って、頬を両手で包み込んだ。
「櫂斗?」
「あーもう! このまま箱に入れてカギかけてしまっときたい!」
言って、下から軽くキスをする。
一瞬だけ触れてすぐに離れるけれど、場所が場所なだけに朋樹は慌てて櫂斗から一歩退いた。
「櫂斗! こんなトコで何すんだよ、もう」
「誰も見てねえよ。とにかくトモさんはもう俺のって決まってるから。あいつからのラインは無視すること。も、こっから先既読も付けなくていいから!」
照れて赤くなった朋樹に、櫂斗は人差し指を突き付ける。
「今度から、トモさんがバイトに来てる時は絶対に俺も入るから。絶対、トモさんのこと一人にしないからね」
「えー。ダメだよ、試験とかちゃんと勉強しとかないと」
「勉強はする。でも、俺の中でトモさんは最優先事項だから。そう、決まってるから」
「そんなことしなくても、大丈夫だって」
「だいじょぶくない! トモさん。俺、トモさんのそーゆートコめっちゃ可愛くて好きだけど、でもそーゆートコが一番心配なんだよ。俺が護ってやんなきゃ、すーぐに誰かにヤられそうだし」
「櫂斗さん? あの、何度も言ってるけど、俺、男だよ?」
「だから何? トモさん、男だろうと女だろうと、そんでもって相手も男だろうと女だろうと、トモさんみたいに可愛い人なんて、ほんっきで誰でも抱きたくなるんだからね。ちゃんと、自覚してね」
もう、何を返していいやらわからなくて。
朋樹は苦笑するしかない。
「…………あのね、トモさん。俺、自分に自信ないんだ。だから、こんなワガママ言ってんの、わかってる。でも、トモさんが俺以外の人に靡くのを黙って見てられる程オトナになんかなれないから。だから、お願いだから、俺の傍にいてよ」
本当に、くるくると櫂斗の表情が変わるから。
目が離せない、と朋樹は思う。
自信満々に“俺のモノ”なんて発言しておきながら、次の瞬間には捨て犬みたいに泣きそうな顔で縋ってきて。
本当に“可愛い”のは、誰がどう見ても櫂斗の方じゃないか。
こんなポンコツで何もできなくて、ぬぼーっと立っているだけの冴えない男に。
なんだってこの生命力に満ち溢れたキラキラな生き物が、全力でその身を預けようとしてくれるのか。
不思議で仕方ない。
どうしたらいいだろうか。
何をしてあげられるのだろうか。
力いっぱい気持ちをぶつけてくれるこの少年に。
自分は何を答えてあげればいいのだろうか。
だって。
自分だってもう、完全に惹かれているのだ。
傍にいるのが当たり前で、逢えないことを寂しいと思うくらい。
櫂斗のことが、好きだと思っている自分がいるのを、完全に自覚しているから。
万華鏡みたいに感情をくるくると変化させて、でもその輝きだけは絶対的に揺るがない。
櫂斗はそんな黒目がちな目をうるうるさせて、朋樹の目を見つめながら両手をその手で包み込んで。
「トモさん、大好き。ね、ハグして? 心配しなくていいよって、ハグしてよ」
戸惑って、何もできない自分にちゃんと言葉で伝えてくれる。
欲しいものを欲しいと言ってくれるから。
上目遣いに迫ってくる櫂斗に、朋樹はくす、と微笑んで望み通りぎゅっと抱きしめた。
という朋樹の言葉に、櫂斗が瞠目した。
「ちょっと待って、トモさん。あいつにライン教えたの?」
「うん。ほら、こないだ櫂斗試験でいなかったろ? そん時、女将さんがラインくらい教えたらって」
「あンのクソばばあ……」
「こらこら、クソばばあはないでしょ。あんな綺麗な人つかまえて」
水曜日。バイト上がりにちょっとだけ逢おう、と櫂斗がエッグで朋樹と待ち合わせして。
勿論既に日付が変わろうとする時間ではあるし、朋樹も帰ってレポートを書かないといけないから本当にちょっとだけ、ではあったけれど。
でも、櫂斗の試験や朋樹のゼミですれ違いが続いていたから、櫂斗の“逢いたい”に朋樹が答えてあげた。
「なんて?」
「ん? さっくん?」
「そう。何、言ってきた?」
「えー、プライバシーの侵害、じゃん」
「うるさい。恋人にたかる虫から護るためには必要なこと!」
「……もお、俺どっから突っ込んでいいかわかんねーし」
「いいから!」
恋人って、どういう意味だっけ、なんて朋樹が頭の中の辞書を開こうとする。
「なんかー、今度バイト休みっていつ? だって」
「答えなくていいから。つか、ブロックして、ブロック!」
「そんなことできないでしょ。お客さんだよ?」
「あんなヤツ、客でもなんでもないっつの。何、トモさん、あいつと会う気?」
櫂斗が膨れる。
朋樹はそれを見て「可愛いの、櫂斗の方じゃん」と呟いた。
「絶対会っちゃダメだからね。トモさん、二人で会ったらあいつに食われるから!」
「食わないって。俺男だよー。そんな簡単に食われませんって。ほんとにもー、櫂斗はいつもいつも、何言ってんだか」
ほわほわと笑っている朋樹に、
「その顔! そのふわっふわな笑顔、絶対俺以外に見せちゃ、ダメだから! トモさんは俺だけ見てればいいんだから!」
言って、頬を両手で包み込んだ。
「櫂斗?」
「あーもう! このまま箱に入れてカギかけてしまっときたい!」
言って、下から軽くキスをする。
一瞬だけ触れてすぐに離れるけれど、場所が場所なだけに朋樹は慌てて櫂斗から一歩退いた。
「櫂斗! こんなトコで何すんだよ、もう」
「誰も見てねえよ。とにかくトモさんはもう俺のって決まってるから。あいつからのラインは無視すること。も、こっから先既読も付けなくていいから!」
照れて赤くなった朋樹に、櫂斗は人差し指を突き付ける。
「今度から、トモさんがバイトに来てる時は絶対に俺も入るから。絶対、トモさんのこと一人にしないからね」
「えー。ダメだよ、試験とかちゃんと勉強しとかないと」
「勉強はする。でも、俺の中でトモさんは最優先事項だから。そう、決まってるから」
「そんなことしなくても、大丈夫だって」
「だいじょぶくない! トモさん。俺、トモさんのそーゆートコめっちゃ可愛くて好きだけど、でもそーゆートコが一番心配なんだよ。俺が護ってやんなきゃ、すーぐに誰かにヤられそうだし」
「櫂斗さん? あの、何度も言ってるけど、俺、男だよ?」
「だから何? トモさん、男だろうと女だろうと、そんでもって相手も男だろうと女だろうと、トモさんみたいに可愛い人なんて、ほんっきで誰でも抱きたくなるんだからね。ちゃんと、自覚してね」
もう、何を返していいやらわからなくて。
朋樹は苦笑するしかない。
「…………あのね、トモさん。俺、自分に自信ないんだ。だから、こんなワガママ言ってんの、わかってる。でも、トモさんが俺以外の人に靡くのを黙って見てられる程オトナになんかなれないから。だから、お願いだから、俺の傍にいてよ」
本当に、くるくると櫂斗の表情が変わるから。
目が離せない、と朋樹は思う。
自信満々に“俺のモノ”なんて発言しておきながら、次の瞬間には捨て犬みたいに泣きそうな顔で縋ってきて。
本当に“可愛い”のは、誰がどう見ても櫂斗の方じゃないか。
こんなポンコツで何もできなくて、ぬぼーっと立っているだけの冴えない男に。
なんだってこの生命力に満ち溢れたキラキラな生き物が、全力でその身を預けようとしてくれるのか。
不思議で仕方ない。
どうしたらいいだろうか。
何をしてあげられるのだろうか。
力いっぱい気持ちをぶつけてくれるこの少年に。
自分は何を答えてあげればいいのだろうか。
だって。
自分だってもう、完全に惹かれているのだ。
傍にいるのが当たり前で、逢えないことを寂しいと思うくらい。
櫂斗のことが、好きだと思っている自分がいるのを、完全に自覚しているから。
万華鏡みたいに感情をくるくると変化させて、でもその輝きだけは絶対的に揺るがない。
櫂斗はそんな黒目がちな目をうるうるさせて、朋樹の目を見つめながら両手をその手で包み込んで。
「トモさん、大好き。ね、ハグして? 心配しなくていいよって、ハグしてよ」
戸惑って、何もできない自分にちゃんと言葉で伝えてくれる。
欲しいものを欲しいと言ってくれるから。
上目遣いに迫ってくる櫂斗に、朋樹はくす、と微笑んで望み通りぎゅっと抱きしめた。
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