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「朔、逢いたいってゆっても逢えないし。話、したいってゆっても電話も出てくれない。一回、こっそり後をつけたら“おがた”に通ってて」
「純、くん?」
「キョウさんにカマかけたら、様子がおかしくて。だから俺……キョウさんのこと、誘った」
「……抱かれたの?」

 朔の問いには返事をしなかった。
 杏輔が純也を抱けるかなんて、朔は考えたこともなくて。
 純也を落としたくて必死になっている時に相談相手として杏輔にカムアウトして。
 態度も何も変わらず、普通に恋愛相談として乗ってくれた杏輔が、けれども自分と同じゲイだとは思えなくて。
 ただ、実際“おがた”で櫂斗を可愛い可愛いと言っているのは確かだけれど、それは女将さんに対しても同じだと思っていたから。

 まさか。
 この大切な、可愛くて仕方ない大事な恋人を、あの杏輔が。なんて、信じたく、ないから。

「純くん? キョウさんに、抱かれた?」
「朔。一度、距離、置こうよ。俺、やっぱり今は朔のこと、信じられない」
「純!」
「俺のこと、何だと思ってる? 一度手に入れたから、もう餌なんていらないって。いつだって自分が思う時に抱ける抱き枕だとでも思ってる?」
 涙に濡れた顔を上げ、純也が睨むように朔を見た。
「ずるいよ、朔。俺を、朔無しで生きてけない体にしたのは、朔だろ? なのに、朔、俺のこと見てないじゃん」
「見てるよ! 俺は純のこと、ちゃんと見てる」
「見てない! 誰かのことを追っかけてる朔なんて、嫌だ。そんな朔になんか、俺、抱かれたくない」
「純」
「ちゃんと……ちゃんと、俺だけ見てくれるまで……俺、朔とは逢わない」

 す、と立ち上がると、純也はカバンを持って朔の家を出て行った。


 朔は、純也の去ったベッドルームで茫然と立ち尽くした。
 一か月ぶりにやっと抱けると思った恋人に、いざ、という時に逃げられのだ。
 この喪失感は一体どうすればいい?

 確かに、朋樹を追いかけているのは事実で。
 櫂斗のばかに邪魔されさえしなければ、恐らくきっと、既に一回くらいは抱いているだろうけど。
 でもそれは。
 ちょっとした浮気心というか。

 だって。
 セクシーなのとキュートなのは選べないのがオトコってもんだろ。
 どこか抜けててぽやんとしてて、そのくせ“大学生です”なんて澄ました顔して賢そうなフリしてる朋樹は、はっきり言って可愛い以外の何物でもなくて。

 そして純也は。
 一目惚れしたあの日から、とにかく自分のモノにしたくて。
 根っからのストレートな純也が、彼女にフラれて落ち込んでるって知った瞬間、これは絶対にどんな手を使っても落としてやると意気込んで。
 そんな必死な想いで手に入れた、大切な存在で。

 透き通るような白い肌が、自分が愛撫を施すと花が開くように赤く染まる様は、この世のモノとは思えないくらいセクシーで。きっとそんなことは、自分しか知らない。
 
 純也という存在が、絶対的に傍にあるからこそ、少しだけキュートな朋樹を味わいたいと思っているだけで。

「まだ、口説いてるだけで、手なんか出してねーのに」
 なんだって、こんなとっかかりもイイトコ、な状況なのにバレるかな。

 しかも、その対象が櫂斗なんて、とんでもない誤解をしてくれてるから、余計に腹が立つ。

「あのクソガキめえ。こうなったら、絶対朋樹食ってやる。ついでに櫂斗も食ってやろうか」
 朔は、イラつきながらスマホを取り出した。

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