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「こないだ、キョウさんと二人で“おがた”行った」
 朔がキスをしたその唇の間で、純也がぽつりと言った。

 やっとタイミングが合って、朔の部屋に純也が訪れたのは一か月ぶりで。
 ずっとペアで仕事を回っていた頃は毎日のように一緒にいれたけど、純也が独立してからはなかなか都合が付かなくて。
 だからこうして二人きりで朔の部屋で過ごせる夜が久しぶり過ぎて。

 一緒に夕食を終え、朔の部屋でコトを始めようとベッドに純也を押し倒した瞬間、そんなことを言われたから。
「え? あ、そおなん?」
「あの子、可愛いね」
 甘い空気が流れるハズのその空間に、純也が冷静な声で朔に組み敷かれた下から言う。
 朔はその言葉の真意が掴めなくて。

「初めて逢った頃の、俺に似てる感じ。朔の、腕の中にすっぽり包まれる感じ。した」
 純也が、少し目を細める。
「朔のタイプのコ、だよね?」
 下唇を、噛む。
「まだ、手に入んないから、だから、俺と寝るの?」
 自虐して、目を閉じた。
 悔しくて。切なくて。涙が溢れてくる。

「え? ちょ、待って。純くん?」
「知ってるよ、俺。最近ずっと朔、あの子のこと追っかけてるって……俺のこと、見てないって」
 朔の下で、顔を両手で隠しながら泣き始めた純也に、朔は狼狽した。

「キョウさんも可愛い可愛いって。ずっと、中学生の頃から可愛がってるって言ってた。あんな可愛い子……俺、かなわないじゃん」
「待て待て待て。違う。純くん、違うって」

 バレているようでバレていない事実に、朔は体を起こして純也も起こして、正面から向き直る。

「純くん、誤解してる。言ってるコって、櫂斗だろ? “おがた”の看板息子」
「…………」
 純也が泣きながら頷いた。
「だから、違うって。俺、櫂斗のことなんざ、何とも思っちゃいねーよ」
「嘘。毎日のように通ってるの、俺知ってるし」
「いやいや、誤解誤解。俺、あの店でメシ食ってるだけだってば」
「違うでしょ。いいんだよ、もう。朔が俺のこと飽きてるの、わかってる」

「純くん?」
「最初の頃は、俺のことすごい大事にしてくれた。ずっと傍にいてくれるって言った。だから……だから、俺、男と寝るのなんて初めてだったけど、朔ならって思った。なのに……」

 言いながらさめざめと泣く純也を、朔は抱きしめた。
 が、
「やだ、放して」身を捩って抵抗する。
「放さない。純くん、誤解してるだけだから」

 これは、絶対に誤魔化しきらなければいけない。
 と朔は心に決める。

「櫂斗を可愛がってるのはキョウさんだけだよ。あの店に通ってるのは、ほら、前にも言ったじゃん、女将さんの料理が旨いだけだってば」
「…………」
 純也は黙ったまま小さく首を横に振る。
 そんなの、信じない、と。

「純くんのこと、大事に想ってるのは今もずっと同じだよ?」
 肩を掴んで、純也の目を覗き込む。
「俺、必死で純くんのこと、落としたんじゃん。ここんトコ仕事でタイミング合わないからなかなか逢えなかったのは、謝るよ。でも、ほんとに、純くんのこと、好きなんだよ」
 これだけは、事実、だから。
 朔は心を込めて、愛を語る。
 腕の中のこの愛しい存在は、本当に大切なものだから。
 手放したくないと、心の底から想っている。

「ごめんね、構ってやれなくて。でも、ほんとに純くんのことは大好きだから。それだけは、信じて欲しい」
「…………」
 ぎゅっと抱きしめる。でも、純也はそれに応えてくれない。

「純くん?」
「俺んち、キョウさん、泊ったよ」

 ぽつ、ととんでもないことを純也が言って。
 朔はがば、とその体を引き剥がし、純也の目を見た。
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