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「いい加減、ラインくらい教えてくれない?」
「あれ? 教えてなかったっけ?」
 朔の“下心”満々な声に反し、朋樹がのほほんと返す。
 エプロンで軽く手を拭くと、ポケットからスマホを出した。
「ふるふるする?」
「ちょい待て、芳賀。あんた、いいの? 櫂斗にバレたら怒り狂うぞ、あいつ」

 完全に“友達になったからライン交換”的な感覚でスマホを取り出した朋樹に、一応ほのかが声を掛ける。
「え? なんで?」
「櫂斗のモノになったって聞いたけど?」
「ええ? モノって……別にあれは……」
 朋樹が少し頬を赤らめた。
 櫂斗がどんなことをほのかに話したのかがわからなくて。

「ちょっと待って、ほのかちゃん。どゆこと? あいつ、朋樹のこと食ったの?」
「食ってねーわ、さっくんじゃあるまいし」
「ははは、あの子にそこまでの度胸なんかあるわけない」
 女将さんが鼻で笑う。
「でも、ヤキモチは焼くと思うわよ。櫂斗、トモくんお気に入りだから」

「女将さんって、櫂斗とさっくん、どっち派?」
 ほのかが訊くと、
「んー、別にどっちでもいいけど。さっくんがトモくん狙ってウチに来てくれると、利益にはなるのよ。だから、店のこと考えたらさっくんかなー」
 至極、合理的な答えを言って。

「いえーい。じゃあ、遠慮なく朋樹、頂きます」
 合掌、なんてする朔に、
「え、待って。俺、さっくんに食われんの?」と朋樹が一歩身を退く。

「そっか。そういう見方すればさっくんかー。でも、芳賀取られたら櫂斗、勉強しなくなるかもよ?」
 ほのかが櫂斗に一票を投じる発言をすると、
「あ、それは痛いなー。それに、トモくん餌にあの子働かせてるし。従業員減るのも問題よね」と女将さんも腕組みして。

「お、女将さん? 俺って櫂斗の餌なの?」
 どっちにしろ食われるのかよ、と朋樹が眉をへの字にして情けない表情を見せる。

「最終的に、選ぶのは芳賀だけどね。難しいよー。さっくん選んで櫂斗を納得させるのも、櫂斗選んでさっくんを客として引っ張っとくのも。これはイケメンとして、腕の見せ所ね」
 ほのかが無表情のまま言うから。
「ほのか、キツイ……」
「ここでトモくんがほのかちゃんを選ぶってゆーミラクルがあると、あたしは面白いと思うけど」
 女将さんがとんでもない第三案を出してくると、今度はほのかが明らかにイヤな表情を見せた。

「一番キツイの、女将さんよね」
 ないわー、と首を振る。

 その時「すみません」とテーブルから手が上がり、追加オーダーが入ったので逃げるようにほのかが対応に行った。

「でもさ、朋樹。とりあえずライン交換はいいだろ?」
「……櫂斗の許可、いるのかな?」
「いいわよー。ラインくらい教えてあげなさいよー。その方が面白くなるじゃない」
 完全に、混ぜ返したくて仕方ない女将さんが煽るので、二人は連絡先の交換をする。
「よっし。これで櫂斗と対等」
「残念。櫂斗はトモくんとデート済みだから、そこは櫂斗のが一歩リードしてる」
 結構な鬼親で、女将さんがニヤニヤと嗤う。

「まじか! 朋樹、週末ならいいだろ? 土曜日の夜、大人なデートだ」
「ええー。てか、大人なデートって何? 俺、酒弱いし。バイト終わったら疲れて寝るってば」
「いいよ、一緒に寝よ。ホテル行こ」
「こら。それはちょっと手が早いわよ。そこまでの許可は、あたしが出さない」
「女将さーん、ここまで来てそれはないじゃん」
「ダメよお。ちゃんと手順踏んでトモくんのことを口説きなさいな。トモくんもあたしには息子みたいなものよ。雑に扱うのは赦しません」

 当人の意思なんて、完全に無視して朔と女将さんがやり取りするから。朋樹はスマホを片手にひたすらオタオタしていて。

「ほんっと、こんなポンコツのどこがいんだか」
 生ビールをジョッキに注ぎながら、ほのかがため息を吐いた。
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