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「何でもない。トモさん今ガッコでどんなオベンキョ、してんの?」
「んー? 今はねー、自然環境の中で災害に強い街を作る為にはどうしたらいいかってのを、勉強してる」
「うわ。すっごいまじめな答えが返って来た」
「おい、訊いたのそっちだろーが」
「トモさん、そこの工業大学でしょ? あそこって、みんなそーゆー勉強してんの?」
「いろいろだよ。俺は土木系だけど、バケ学的な研究やってる連中もいるし」
 
 思っていたより真面目な会話になり、朋樹がはたと気付く。
 
「あ、そっか。櫂斗、今日はそーゆーの訊きに来た?」
「うん、ま、半分ね。いちお、理系の大学目指すつもりでいるし」

 いつだって寄ると触るとトモさんトモさんと甘えてくる櫂斗だけれど、実際の所高校生だからそろそろ進路についても考えないといけない時期だということはわかるから。
 朋樹も心持ち居住まいを正す。
 ちょっとだけ“お兄ちゃん”感なんて出しながら。

「二年、だっけ? もう文理はクラス、別れてる?」
「にゃ。ウチは三年だけ。もうすぐ進路希望調査あるし、俺はもう理系って決めてるからそこは全然迷いはないけどね」
「俺も。昔から工事現場とか好きでさ、そーゆー建設とかに関わる方向に進みたいとは思ってたし」
「わかる。俺、橋、造りたい」
「ハシ、ってあの、ブリッジの橋?」
「うん、橋。つか、箸作ってどーすんだよ」
「いや、思ったよりがっつり俺と同じ方向だったから、ちょっと驚いてる」
「小っちゃい頃さー、駅んトコって工事してたんだよ。今は立体交差してるけど、昔は開かずの踏切とかだったらしくて。で、その工事現場、かーちゃんが散歩コースで見せてたらしくて。だから多分、三つ子の魂百まで状態」
「高架橋って、いいよなー」
「うん、かっこいい。あーゆーのとか、あと普通に海に掛かってる橋も、憧れる」
「今度俺、実際の建設現場見に行くよ」
「いいなー。俺、友達に工業高校行ってるヤツいんだけどさ、そのガッコはダムの建設現場見に行くんだって。ちょー面白そうって思った」
「あ、それいいね。ダムはやっぱ、かっこいい」

 結局二人してそんな話で盛り上がり。
 色気も何もあったもんじゃない、と櫂斗は内心思ってはいたものの、でも実際目指すものが同じなんて、嬉し過ぎて。

 食事を終えると、話の流れのままに朋樹はパソコンを見せてくれた。
 課題の関係で図面を触っていたいう話に惹かれて。本物の設計図なんて見るのは初めてだから興奮する。
 そのまま一緒に建設現場の動画なんて観て、それを面白いと思う感覚が同じなことが、何より幸せで。
 お兄ちゃんぶった朋樹が膝に乗せてくれたから、密着しながらどさくさに紛れて手を握ってみた。
 うん、一個クリア。と内心ぐっとガッツポーズ。

「トモさんって、兄弟とかっていんの?」

 当たり前のように膝の上に乗せて抱くのが、すごく自然だったから訊いてみた。

「いるよー、妹が。今小学校二年生」
「うわ、そんな小っちゃいコがいんだ?」
「妹だけど、歳が離れすぎてるから半分娘みたいなもんだけどね。可愛い可愛い」
「いいなー。俺一人っコだから、そゆの憧れる」
「じゃあ俺が櫂斗のお兄ちゃんになったげよう」
 
 ぎゅ、と朋樹が抱きしめる腕に力を入れる。
 が。

「やだ」
 きっぱり拒絶。
「ええ? なんで?」
「俺、トモさんの弟はやだ。恋人がいい」

 腕を解き、櫂斗は立ち上がってくるりと反転すると、朋樹に跨るように正面から抱き着いた。
「うあ、か、櫂斗?」
「トモさん、大好き」

 言いながら、チャンスかもと思うけれど、勇気が出なくてそのまましがみつくようにくっつくことしかできなくて。
 櫂斗は朋樹の肩口に額をぐりぐりと押し当てた。
「櫂斗?」
「トモさん……俺、ほんとにトモさんのこと運命の人だと思ってる。最初逢った時から好きだって思ったし、今日、未来の話してたらもう、これは絶対に逢うべくして逢った人なんだって、そう思ったよ」

 朋樹は櫂斗が落っこちないように、背中にそっと腕を回した。
「まだ、トモさんは俺に対してそーゆー気持ち、ないかもしんない。だから、いっぱい俺のこと知って貰って好きになって貰えるように、俺、頑張る」
「櫂斗……」
「だから、時々、ご褒美ちょうだい」
 可愛い声で櫂斗が甘える。
 でも、抱き着いたまま。

「ご、ほうび……って?」
「デートとか」
「あ……うん」それくらいなら、全然。
「ハグとか」
「あ……うん」まあ、別にこうやってくっついてきても、それはそれで可愛いモンだ。

 朋樹が相槌を打っていると、櫂斗がそっと体を起こして。

「ちゅう、とか」

 真正面から見つめて、言う。

「え……」

 そのまま、驚いて目を見開き、固まった朋樹に。

 櫂斗は触れるだけのキスをした。

「トモさん、買い物行こ。俺、このままこんなことしてたら、絶対トモさんのこと押し倒すからヤバい」
「なん……え……は……?」
「ごめんね、俺も男だから。でも、ちゃんと弁えてるし、理性は持ってる」
 目を白黒させている朋樹が可愛すぎて、櫂斗はくふくふ笑って立ち上がり、朋樹の手を引いた。

「昼はね、俺の得意技、オムライス作ったげる。トモさん絶対好きなヤツ」
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