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杏輔は、というか杏輔だけは知っていた。
朔と純也の関係を。
朔の一年後輩である純也が入社した時、朔本人からカミングアウトされたのがその性癖で。
自分はゲイで、純也に惚れていると相談されたのだ。
その頃の純也はまだ高卒で入社したてだったから、幼いただの少年で。
思えば今の櫂斗と殆ど変わらないわけで。
実際、幼い純也は女の子のようだった。
彫の深い顔立ちは整っていたし、黒髪は天然パーマのせいでふわふわしているのが、凛々しい顔立ちを柔和な雰囲気にしていて。
今は朔と殆ど変わらない身長だが、当時はまだ今の櫂斗くらい。
人見知りするから営業としては大丈夫かな、と少し不安ではあったが、そこは朔が上手くフォローして。
そんな、朔のフォローがきいたのか、純也が人見知りという殻をどんどん壊して行くのが杏輔にもはっきりとわかったから、この二人が仕事だけでなくプライベートでもいい関係を築いているのだと確信していた。
だからこそ。
さっき、店で櫂斗が“俺の朋樹に声をかけてくる”と言った瞬間、嫌な予感はしていたのだ。
猪突猛進な朔が、気に入った相手に対して周りを無視して突っ走ることなんて明白で。
純也に対しても、とにかく本人が猛アタックして落としたことは知っていたから、それを再び朋樹に対してやっているというなら。
きっと今、純也は蔑ろにされているのだろう。
「キョウさん?」
「ああ、うん」
「俺、朔のこと相談できるのってキョウさんしかいないんです。キョウさんだけは、俺たちのこと普通に見てくれるし……俺、朔以外にオトコ好きになったことなんか、ないし」
泣きそうな声で、純也が言う。
確かに、ストレートな純也を朔が無理矢理そっちに引っ張り込んだことも杏輔は知っている。
勿論それは朔が本気で純也に惚れて、その想いを真剣に伝えた結果のものだとわかっているし。
何より杏輔は純也と朔が同性であることに何の偏見もない。
言ってしまえば、半分自分もそういう気持ちがあるのは確かで。
櫂斗が“どっちもイケる人”と揶揄していたが、否定できないだけの自覚はある。
ほのかや女将さんのことを“可愛い”と思う感情と、同じレベルで櫂斗が“可愛い”と思う自分は、きっとそうなんだろう。
「純也。今から、会うか?」
とりあえず、面と向かってグチを聞いてやる方がいいのかもしれない。
朔は今朋樹という新しいオモチャに夢中になっているだけだろう。
朋樹にそれに応える気配は感じられないし、何より朋樹には櫂斗がついているから。
あんなにも真剣な櫂斗の想いに、他の誰かが敵うとは思えない。
それは今まで櫂斗を見守ってきている杏輔にはわかる。
それに今、朔がちょっと熱に浮かされているのだとしても、きっと最後に帰る場所は純也の元。
だって朋樹は今までの朔の趣味とは違う。
ほわほわした性格なのはわかるし、そんなところはきっと朔の好きなトコだろうとは思うけれど、ぱっと見の印象が確実に朔の趣味からは離れている。
朔にとっての朋樹への想いは一過性のものだろう。
杏輔にはそう思えた。
きっと純也も朔の性格なんて知っているのだから、酒でも飲んで思う存分吐き出してしまえば、多少気は紛れるはず。
「……はい」
と小さく返事があり、杏輔は一人で暮らす純也の部屋へと向かった。
朔と純也の関係を。
朔の一年後輩である純也が入社した時、朔本人からカミングアウトされたのがその性癖で。
自分はゲイで、純也に惚れていると相談されたのだ。
その頃の純也はまだ高卒で入社したてだったから、幼いただの少年で。
思えば今の櫂斗と殆ど変わらないわけで。
実際、幼い純也は女の子のようだった。
彫の深い顔立ちは整っていたし、黒髪は天然パーマのせいでふわふわしているのが、凛々しい顔立ちを柔和な雰囲気にしていて。
今は朔と殆ど変わらない身長だが、当時はまだ今の櫂斗くらい。
人見知りするから営業としては大丈夫かな、と少し不安ではあったが、そこは朔が上手くフォローして。
そんな、朔のフォローがきいたのか、純也が人見知りという殻をどんどん壊して行くのが杏輔にもはっきりとわかったから、この二人が仕事だけでなくプライベートでもいい関係を築いているのだと確信していた。
だからこそ。
さっき、店で櫂斗が“俺の朋樹に声をかけてくる”と言った瞬間、嫌な予感はしていたのだ。
猪突猛進な朔が、気に入った相手に対して周りを無視して突っ走ることなんて明白で。
純也に対しても、とにかく本人が猛アタックして落としたことは知っていたから、それを再び朋樹に対してやっているというなら。
きっと今、純也は蔑ろにされているのだろう。
「キョウさん?」
「ああ、うん」
「俺、朔のこと相談できるのってキョウさんしかいないんです。キョウさんだけは、俺たちのこと普通に見てくれるし……俺、朔以外にオトコ好きになったことなんか、ないし」
泣きそうな声で、純也が言う。
確かに、ストレートな純也を朔が無理矢理そっちに引っ張り込んだことも杏輔は知っている。
勿論それは朔が本気で純也に惚れて、その想いを真剣に伝えた結果のものだとわかっているし。
何より杏輔は純也と朔が同性であることに何の偏見もない。
言ってしまえば、半分自分もそういう気持ちがあるのは確かで。
櫂斗が“どっちもイケる人”と揶揄していたが、否定できないだけの自覚はある。
ほのかや女将さんのことを“可愛い”と思う感情と、同じレベルで櫂斗が“可愛い”と思う自分は、きっとそうなんだろう。
「純也。今から、会うか?」
とりあえず、面と向かってグチを聞いてやる方がいいのかもしれない。
朔は今朋樹という新しいオモチャに夢中になっているだけだろう。
朋樹にそれに応える気配は感じられないし、何より朋樹には櫂斗がついているから。
あんなにも真剣な櫂斗の想いに、他の誰かが敵うとは思えない。
それは今まで櫂斗を見守ってきている杏輔にはわかる。
それに今、朔がちょっと熱に浮かされているのだとしても、きっと最後に帰る場所は純也の元。
だって朋樹は今までの朔の趣味とは違う。
ほわほわした性格なのはわかるし、そんなところはきっと朔の好きなトコだろうとは思うけれど、ぱっと見の印象が確実に朔の趣味からは離れている。
朔にとっての朋樹への想いは一過性のものだろう。
杏輔にはそう思えた。
きっと純也も朔の性格なんて知っているのだから、酒でも飲んで思う存分吐き出してしまえば、多少気は紛れるはず。
「……はい」
と小さく返事があり、杏輔は一人で暮らす純也の部屋へと向かった。
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