居酒屋“おがた”はムテキのお城

月那

文字の大きさ
上 下
15 / 167
<1>

-6-

しおりを挟む
 カウンター席に座る常連には、当然ながら女将さん目当てという客も少なからずいる。
 女将さんは実は“おがた”の初代アルバイトで。つまり、要は大将が好みの女の子をバイトとして雇い入れた上、そのコを落として嫁にした、というのが簡単な歴史だったりするのだが。
 大将が嫁である女将――夢乃ゆめの――にベタ惚れである為、カウンターでどれだけ常連が女将さんを口説こうとも、大将の目というものが横で光っているわけで。
 そんな状況下で自分を口説く、というツワモノは実は彼女の大好物である。

「夢乃ちゃーん。今度、俺と一緒にゴルフ行かない? 俺、手取り足取り、教えるよ?」
 大将の幼馴染というこの男、中野がツワモノその一である。
 近所で自転車屋を経営しているのだが、当然妻子がある。何なら、遠方に孫もいる。
 けれどもほぼ毎日この店で瓶ビールを一本から二本飲んで、気持ちよく酔っ払って帰るのが日課となっているので、既に大将もこの男の誘いには眉一つ動かさない。

「んー。もーちょっと若かったらノってたかもー。あたし、運動神経ないんですよねー」
 別の客の注文である小鉢を大皿から盛り付けながら、女将が笑う。
「中野さん、よく大将の前で堂々と女将さん口説きますよねー」
 こちらも一人で飲んでいた杏輔が、感心して言う。
「そりゃそーよ。夢乃ちゃんはおいらの憧れだぜえ? も、何年も手を変え品を変え口説いてるさ」
 へらへら笑いながら中野が答える。
「中野さんが口説いてくれるから、あたしは若さを保ってられるのー。あ、櫂斗。小鉢、座敷に」
「おけ」
 櫂斗がコップ酒を用意し、それと一緒に女将の用意した小鉢を座敷へと運ぶ。

 今日は火曜日。
 平日だしピークを過ぎた時間だから店内はゆったりと動いていて。

「櫂ちゃん、大きくなったよなー」
 杏輔が、空いた皿を下げてカウンターの中に戻ってきた櫂斗に目を細めた。
「えー。俺でも、まだあとちょっと背、おっきくなりたい」
 シンクに溜まった洗い物の処理をしながら、櫂斗が主張する。
「いやいや、そーゆー意味じゃなくて。俺が初めて見た時の櫂ちゃんって中学生だったじゃん」
「おいらなんか、櫂ちゃんが生まれた時から知ってるぜ?」
 中野がドヤる。
「おっちゃんはもう、客と思ってねーし、俺」
「なんだよ、そりゃ」
「親戚のおっちゃんだよなー。あ、ほのかごめん、座敷の灰皿下げてきて。さっき交換したけど、置きっぱだった」

 今日は朋樹がゼミの集まりだとかでバイトは休み。ほのか一人でも大丈夫そうではあったが、ヒマだからと櫂斗がヘルプで入っているのだ。

「てかさー、そろそろ櫂ちゃん、やめよーよお。俺もう高二だよ? 櫂ちゃん、って」
 昔馴染みの常連客は、いつだって櫂斗を子供扱いする。
「櫂ちゃんは櫂ちゃんだよ。おめえはいっつも夢乃ちゃんにくっついて、ぴーぴー泣いてやがって」
「やめてえ。もお、そんな百年も昔の話してんじゃねーよ」
「ばか言え、わずか数年前じゃ。おいらんとっちゃ、一週間前だね」
「このくそじじー。朋樹いる時にそんな話したら、出す酒全部ノンアルビールにしてやるからな」
 櫂斗が睨むけれど、この場の全員がそんな表情すら“可愛い”としか思ってないから。

 杏輔がふにゃふにゃと笑いながら櫂斗を見つめる。
「いやでも、櫂ちゃんが高校生ってのがほんと、信じらんねー」
「えー何でー? キョウさん俺もう二年だし。大人だしー」
「俺んとっては、櫂ちゃんはいつまでも中一の坊主だよ」
「野球止めてからやっと髪伸ばせるようになったんだから、坊主はもうしねーよ」

「いいじゃん坊主頭。櫂斗、夢乃ちゃんに似て可愛い顔してるから、坊主頭でも全然可愛いよ」
 中野が笑いながら言う。
 昔人間だから、男の子は坊主頭、というのがデフォな世代である。

「目がもう、ほんとにヤバい。男を誘う魔性ってヤツだ」
 中野がうんうん頷きながらコップを空ける。
「おっちゃん、人をバケモンみたいに言ってんじゃねーよ」

 すると杏輔も、
「いやいや、マジな話。俺も、櫂ちゃんならイケる気がする」目を細めてニヤニヤと嗤う。
「キョウさんどっちもイケる人じゃん」
「おまえら、じじーの前でそーゆーキワドイ話すんなよお。まったく、最近の若いヤツらはじぇんだーなんとかで、男も女もねえしなー」
 中野が笑うと。
「さて、と。今日はも、二本空けたし、じじーはお暇するよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...