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結局。ほのかと二人で“century”に入った。
怒涛のようなあの僅か十分くらいの出来事だったが、自分だけが何もわかってないような気がして。
「あの……」
「ん。わかってる。芳賀に悪気ないのは、わかってる」
「え?」
「でもさ。あんなトコ見せられたら櫂斗が冷静じゃいられなくなるの、わかるでしょ?」
「……え?」
ほのかの言葉が、やっぱり理解できなくて。
「ちょっと。なんでそんな間抜けな顔……本気で?」
「あー……えっと。ごめん、どゆこと?」
朋樹が困惑しきった顔でいるから。
ほのかは目の前に置かれたビールを、瓶から直に一気飲みした。
「あ、わ。ほのか、大丈夫?」
「飲まずにいられないって、きっとこーゆーこと、ゆんだろうなー」
「え?」
「ちょい、待って。もう一本来てから、話す」
言って瓶ビールを追加オーダーし、朋樹に向き直った。
「ちょっと、櫂斗に話があったから呼び出したんだけど。まさか、さっくんが芳賀をあんなトコで襲おうとしてるなんて思ってなかったからさ。しかもそれに気付いたの、櫂斗のが先だったから止めるヒマなく突っ込んでって」
「襲う?」
「でしょ? 完全に、さっくんが芳賀のこと押し倒そうとしてたように見えたけど。こんな人目もあるようなトコで勇気あんなーとか思ったけど、さすがに櫂斗はそんな悠長なこと言ってらんないわよね。好きな人、目の前で抱かれてりゃ」
「え、待って。櫂斗が好きなのってほのかじゃないの?」
「はあ? 何すっとぼけてんのよ? あんだけ言い寄られてて、あんたまだゆってんの?」
「だって。こないだエッグのウラで櫂斗と抱き合ってたじゃん」
朋樹の言葉に、ほのかは一瞬固まり、がっくりと項垂れた。
「あれ、見てたんだ……」
「うん。ごめん」
「いや、芳賀に謝られるようなことじゃ、ない」
目の前に届いたビールを、ほのかが再び一気に飲み干す。そして追加。
ちなみに朋樹は生ビールをグラスでまだ一口しか飲めていない。
「あー、なるほどね。芳賀の様子がおかしかったの、それが原因か。じゃあ、さっきのアレは自分にも非があるな」
ほのかが言った直後、彼女がスマホを見た。何やらメッセージが入ったらしい。
「……………」
「あ、電話? いいよ、俺飲んでるから。電話してきなよ」
「ごめん、ちょっとだけ」
言って、席を立った。
朋樹も思い出してスマホを開く。
仕事中にマナーモードにしたままだった。
“トモさん。ごめんね”
櫂斗からのメッセージがあった。
“何が?”とりあえず、返信する。
“強引なマネしたの、反省してる。俺、ちゃんとトモさんが俺を見てくれるまで待つから”
“待つって?”
“俺は、あいつみたいにケダモノじゃねーから、ちゃんと我慢するからさ。だから、お願いだから、あいつには触らせないで”
櫂斗のそのメッセージは、ストレートに朋樹の心に響いた。
そしてさっきの二人の喧嘩を、やっと理解する。
自分にはただの“ハグ”だと思った朔の腕は、きっと櫂斗には掠奪する姿に見えて。
幾度となく“俺の”と言っている自分が、朔に掠め取られるのは、多分いい気がしないだろう。
そして続く、
“トモさん、大好きだよ”と、“おやすみ”という、短いメッセージ。
いつも、櫂斗はそうやって締めくくる。
ウラも何もなく、気持ちをただ真っすぐにぶつけて来る。
それはきっと、何もかも表面しか見れないおバカな朋樹に対しての、本気の思いやり。
だから。
やっと、気付いた。というか、理解、した。
「ごめん。だからさ。あれは、芳賀の誤解だから」
「うん」
「え?」
席に戻ったほのかの言葉に素直に頷くと、今度は逆にほのかが目を丸くした。
「櫂斗……俺のこと、本気で好き、ってこと。だろ?」
信じられないけれど、でも、櫂斗のメッセージがそう言っていて。
「あ……そう。そうだよ。櫂斗、ずっとゆってんじゃん。だからさ、もういいじゃん」
「何が?」
「櫂斗にしとけば」
ほのかが、再びビールを飲んで。唇の端を少し上げて、ニヤリと笑う。
「あいつ、本気だよ? 健気に芳賀のこと想ってる。イイコだと思うよ」
「うん、イイコだと思う。でも、俺……つか、俺でいいのかな?」
「芳賀、櫂斗のこと好きじゃない?」
「好きだよお。可愛いし」
「じゃ、いいじゃん」
「ほのかは?」
「はあ?」
「ほのかだって、櫂斗のこと好きだろ?」
朋樹の言葉に、ほのかは少しイラ、として。
「あのさ。いい加減、腹括れよ? 多分、さっくんはジャマしてくるから、絶対に」
「え?」
「ちょっとあいつには問題があるから。そっち片付けないことにはそうそう手出しできないとは思うけど、あいつ見てたらあんまし保障はできない、って思ってるわけ」
「なんで、ほのかは全部わかってて、それでいて俺にわかんないように話すのさ?」
「プライバシーってヤツだよ、バカだな」
ばっさり切られる。
「だからさ。櫂斗が高校生ってのは、ちょっと今は問題かなーと思うし、そこんトコはちょっとお互い冷静になって、えっちはちょっと我慢しないといけないとは、思う」
「え……」
「でも、それはなくても、お互い好きって気持ちは大事にしてればいい。朔って邪魔モノに揺るがないように」
さらっと、えらいことを言われて朋樹が固まる。
「てか、まあ一個だけ芳賀に謝っとかないとな。ごめん、櫂斗のハグはただのハグだ。ちょっと、自分、弱ってただけだから。もう二度としないから」
「ほのか?」
「これ以上は、ごめん。踏み込まれたく、ないから。ただ、まあ芳賀に誤解させたのは自分の非だから、謝るよ」
そんなほのかの言葉に、
「……ほのか。なんで“私”って言わないの?」朋樹は一番気になったことを訊いてみた。
その瞬間、ほのかの目がすっと冷ややかなものになる。
「く……っだらねーこと言ってんじゃねーよ、ばーか。いいから、おまえはとっとと櫂斗に食われちまえ!」
珍しくほのかが声を荒らげたけれど、それでも大きな声を出さない冷静さを持ち合わせている彼女のキモの太さに、完全に敗北の白旗を揚げていた。
怒涛のようなあの僅か十分くらいの出来事だったが、自分だけが何もわかってないような気がして。
「あの……」
「ん。わかってる。芳賀に悪気ないのは、わかってる」
「え?」
「でもさ。あんなトコ見せられたら櫂斗が冷静じゃいられなくなるの、わかるでしょ?」
「……え?」
ほのかの言葉が、やっぱり理解できなくて。
「ちょっと。なんでそんな間抜けな顔……本気で?」
「あー……えっと。ごめん、どゆこと?」
朋樹が困惑しきった顔でいるから。
ほのかは目の前に置かれたビールを、瓶から直に一気飲みした。
「あ、わ。ほのか、大丈夫?」
「飲まずにいられないって、きっとこーゆーこと、ゆんだろうなー」
「え?」
「ちょい、待って。もう一本来てから、話す」
言って瓶ビールを追加オーダーし、朋樹に向き直った。
「ちょっと、櫂斗に話があったから呼び出したんだけど。まさか、さっくんが芳賀をあんなトコで襲おうとしてるなんて思ってなかったからさ。しかもそれに気付いたの、櫂斗のが先だったから止めるヒマなく突っ込んでって」
「襲う?」
「でしょ? 完全に、さっくんが芳賀のこと押し倒そうとしてたように見えたけど。こんな人目もあるようなトコで勇気あんなーとか思ったけど、さすがに櫂斗はそんな悠長なこと言ってらんないわよね。好きな人、目の前で抱かれてりゃ」
「え、待って。櫂斗が好きなのってほのかじゃないの?」
「はあ? 何すっとぼけてんのよ? あんだけ言い寄られてて、あんたまだゆってんの?」
「だって。こないだエッグのウラで櫂斗と抱き合ってたじゃん」
朋樹の言葉に、ほのかは一瞬固まり、がっくりと項垂れた。
「あれ、見てたんだ……」
「うん。ごめん」
「いや、芳賀に謝られるようなことじゃ、ない」
目の前に届いたビールを、ほのかが再び一気に飲み干す。そして追加。
ちなみに朋樹は生ビールをグラスでまだ一口しか飲めていない。
「あー、なるほどね。芳賀の様子がおかしかったの、それが原因か。じゃあ、さっきのアレは自分にも非があるな」
ほのかが言った直後、彼女がスマホを見た。何やらメッセージが入ったらしい。
「……………」
「あ、電話? いいよ、俺飲んでるから。電話してきなよ」
「ごめん、ちょっとだけ」
言って、席を立った。
朋樹も思い出してスマホを開く。
仕事中にマナーモードにしたままだった。
“トモさん。ごめんね”
櫂斗からのメッセージがあった。
“何が?”とりあえず、返信する。
“強引なマネしたの、反省してる。俺、ちゃんとトモさんが俺を見てくれるまで待つから”
“待つって?”
“俺は、あいつみたいにケダモノじゃねーから、ちゃんと我慢するからさ。だから、お願いだから、あいつには触らせないで”
櫂斗のそのメッセージは、ストレートに朋樹の心に響いた。
そしてさっきの二人の喧嘩を、やっと理解する。
自分にはただの“ハグ”だと思った朔の腕は、きっと櫂斗には掠奪する姿に見えて。
幾度となく“俺の”と言っている自分が、朔に掠め取られるのは、多分いい気がしないだろう。
そして続く、
“トモさん、大好きだよ”と、“おやすみ”という、短いメッセージ。
いつも、櫂斗はそうやって締めくくる。
ウラも何もなく、気持ちをただ真っすぐにぶつけて来る。
それはきっと、何もかも表面しか見れないおバカな朋樹に対しての、本気の思いやり。
だから。
やっと、気付いた。というか、理解、した。
「ごめん。だからさ。あれは、芳賀の誤解だから」
「うん」
「え?」
席に戻ったほのかの言葉に素直に頷くと、今度は逆にほのかが目を丸くした。
「櫂斗……俺のこと、本気で好き、ってこと。だろ?」
信じられないけれど、でも、櫂斗のメッセージがそう言っていて。
「あ……そう。そうだよ。櫂斗、ずっとゆってんじゃん。だからさ、もういいじゃん」
「何が?」
「櫂斗にしとけば」
ほのかが、再びビールを飲んで。唇の端を少し上げて、ニヤリと笑う。
「あいつ、本気だよ? 健気に芳賀のこと想ってる。イイコだと思うよ」
「うん、イイコだと思う。でも、俺……つか、俺でいいのかな?」
「芳賀、櫂斗のこと好きじゃない?」
「好きだよお。可愛いし」
「じゃ、いいじゃん」
「ほのかは?」
「はあ?」
「ほのかだって、櫂斗のこと好きだろ?」
朋樹の言葉に、ほのかは少しイラ、として。
「あのさ。いい加減、腹括れよ? 多分、さっくんはジャマしてくるから、絶対に」
「え?」
「ちょっとあいつには問題があるから。そっち片付けないことにはそうそう手出しできないとは思うけど、あいつ見てたらあんまし保障はできない、って思ってるわけ」
「なんで、ほのかは全部わかってて、それでいて俺にわかんないように話すのさ?」
「プライバシーってヤツだよ、バカだな」
ばっさり切られる。
「だからさ。櫂斗が高校生ってのは、ちょっと今は問題かなーと思うし、そこんトコはちょっとお互い冷静になって、えっちはちょっと我慢しないといけないとは、思う」
「え……」
「でも、それはなくても、お互い好きって気持ちは大事にしてればいい。朔って邪魔モノに揺るがないように」
さらっと、えらいことを言われて朋樹が固まる。
「てか、まあ一個だけ芳賀に謝っとかないとな。ごめん、櫂斗のハグはただのハグだ。ちょっと、自分、弱ってただけだから。もう二度としないから」
「ほのか?」
「これ以上は、ごめん。踏み込まれたく、ないから。ただ、まあ芳賀に誤解させたのは自分の非だから、謝るよ」
そんなほのかの言葉に、
「……ほのか。なんで“私”って言わないの?」朋樹は一番気になったことを訊いてみた。
その瞬間、ほのかの目がすっと冷ややかなものになる。
「く……っだらねーこと言ってんじゃねーよ、ばーか。いいから、おまえはとっとと櫂斗に食われちまえ!」
珍しくほのかが声を荒らげたけれど、それでも大きな声を出さない冷静さを持ち合わせている彼女のキモの太さに、完全に敗北の白旗を揚げていた。
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