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「良かった。来てくれて」
夜賄いの後、という時間。
店が閉まってから三十分以上経っているわけで。
閉店まで飲んでいたようだが、まさか本当にいるとは思っていなかった朋樹は、自分を見てタバコを消して近付いてきた朔に驚いていた。
「何か、用があった?」
わざわざこうやって呼び出されるのは、初めてだから。
朋樹が首を傾げる。
「今日、話せなかったから」
朔は微笑んで、オブジェの近くにあるベンチへと誘った。
「何か今日、朋樹元気がない気がしたけど、何かあったかなーって」
言われて、驚く。
自分でもそんな自覚なんて全然なくて。
でも、実際櫂斗とほのかの関係が気になっていたのは確かで。
「いや、別に、何もない、けど」
「なんもない、ってのは嘘でしょ? ま、言えないんだったら無理して言う必要もないけど」
言われて、ふ、と肩の力が抜けた。
「……さっくん、優しいねえ」
肩の力が抜けたせいか、えらく腑抜けた声で言ってしまう。
すると、朔が眉根を寄せ、両手の掌をわきわきさせていて。
「さっくん?」奇妙な動きに首を傾げると。
「…………抱きたい」
「へ?」
「朋樹、おまえそりゃないぜえ? 俺、これでも結構いろいろ自制してんだけど?」
朔は、わきわきしていた手をぐっと組み合わせると、自分の額をトストス叩きながら言った。
「さっくんが何言ってんのかわかんないけど。とりあえず、さっくんの優しさは、魅力的だねえ。俺、結構いろいろ考えたらすぐ頭、いっぱいいっぱいになるしさ。考えてもしょーがないこと、ぐるぐる考えるし」
朔の横で、朋樹は自嘲した。
櫂斗とほのかのこと。
勿論プライバシーに関わることだし、確証を得ているわけではないからここで朔に話すことはできないけれど、自分がはっきりと“おめでとう”と喜べていない、という事実に直面して、そんな自分がちょっと嫌になっていたから。
自分のそんなもやもやに気付いてくれて、しかもその内容だって気になってるハズなのに、はっきりと言葉にしなくてもいいから、と笑ってくれる包容力に。
朋樹は朔が“オトナ”だなーと、思ってしまう。
「朋樹……」
朔の腕が自分を包み込んだ。
「え?」
驚いた。けど。
なんだか、あったかくて。
あー、グダグダやってる自分のことを、朔がハグしてくれてんだな、と気付いて。
その温かさに、また、肩の力が抜ける。
たまには、こういうのって、いいもんだな、と思う。
ハグ、なんてもう長いことしていないし。
彼女がいる頃は、まあ当然そういうコトもしていたから、ハグもしたりされたりなんてあったけれど。
こんな風に何もなく、ただ包み込まれるようにされるハグって、悪くない、と思う。
と。
「てめえ! こんなトコでどさくさに紛れて俺のトモさんに抱き付いてんじゃねえ! 離れろ!!」
櫂斗の怒鳴り声と共に、朔の腕が引き剥がされた。
「あ、櫂斗」
「トモさん! こんなヤツに簡単に触らせんなよ! トモさんは俺のって、ゆってんじゃん」
「うるせーな、櫂斗。急にしゃしゃってきて邪魔してんじゃねえぞ。朋樹はおまえのモンじゃねえだろ」
「俺のだ! こないだデートしたし! 大好きってゆったら頷いてくれたし!」
「ガキが口でグダグダゆったところで、そんなん関係ねーんだよ。こんなん、食ったモン勝ちなんだ、朋樹は俺が今から頂くから、おまえはすっこんでろ」
「ふざけんな! 誰がおまえなんかに!」
「朋樹は俺の」
「ちっがう! 俺のだ!」
二人がギャンギャン喚き始め、朋樹がどうしていいかわからなくておろおろしていると。
「とりあえず、二人共黙りな。時間と場所、考えろ、いい大人なんだから」
ほのかの声が、響いた。
それは怒鳴り声ではなく、普通に冷静な言葉で。
でも、少し高めの綺麗に響く声は二人を黙らせるのには十分だった。
夜賄いの後、という時間。
店が閉まってから三十分以上経っているわけで。
閉店まで飲んでいたようだが、まさか本当にいるとは思っていなかった朋樹は、自分を見てタバコを消して近付いてきた朔に驚いていた。
「何か、用があった?」
わざわざこうやって呼び出されるのは、初めてだから。
朋樹が首を傾げる。
「今日、話せなかったから」
朔は微笑んで、オブジェの近くにあるベンチへと誘った。
「何か今日、朋樹元気がない気がしたけど、何かあったかなーって」
言われて、驚く。
自分でもそんな自覚なんて全然なくて。
でも、実際櫂斗とほのかの関係が気になっていたのは確かで。
「いや、別に、何もない、けど」
「なんもない、ってのは嘘でしょ? ま、言えないんだったら無理して言う必要もないけど」
言われて、ふ、と肩の力が抜けた。
「……さっくん、優しいねえ」
肩の力が抜けたせいか、えらく腑抜けた声で言ってしまう。
すると、朔が眉根を寄せ、両手の掌をわきわきさせていて。
「さっくん?」奇妙な動きに首を傾げると。
「…………抱きたい」
「へ?」
「朋樹、おまえそりゃないぜえ? 俺、これでも結構いろいろ自制してんだけど?」
朔は、わきわきしていた手をぐっと組み合わせると、自分の額をトストス叩きながら言った。
「さっくんが何言ってんのかわかんないけど。とりあえず、さっくんの優しさは、魅力的だねえ。俺、結構いろいろ考えたらすぐ頭、いっぱいいっぱいになるしさ。考えてもしょーがないこと、ぐるぐる考えるし」
朔の横で、朋樹は自嘲した。
櫂斗とほのかのこと。
勿論プライバシーに関わることだし、確証を得ているわけではないからここで朔に話すことはできないけれど、自分がはっきりと“おめでとう”と喜べていない、という事実に直面して、そんな自分がちょっと嫌になっていたから。
自分のそんなもやもやに気付いてくれて、しかもその内容だって気になってるハズなのに、はっきりと言葉にしなくてもいいから、と笑ってくれる包容力に。
朋樹は朔が“オトナ”だなーと、思ってしまう。
「朋樹……」
朔の腕が自分を包み込んだ。
「え?」
驚いた。けど。
なんだか、あったかくて。
あー、グダグダやってる自分のことを、朔がハグしてくれてんだな、と気付いて。
その温かさに、また、肩の力が抜ける。
たまには、こういうのって、いいもんだな、と思う。
ハグ、なんてもう長いことしていないし。
彼女がいる頃は、まあ当然そういうコトもしていたから、ハグもしたりされたりなんてあったけれど。
こんな風に何もなく、ただ包み込まれるようにされるハグって、悪くない、と思う。
と。
「てめえ! こんなトコでどさくさに紛れて俺のトモさんに抱き付いてんじゃねえ! 離れろ!!」
櫂斗の怒鳴り声と共に、朔の腕が引き剥がされた。
「あ、櫂斗」
「トモさん! こんなヤツに簡単に触らせんなよ! トモさんは俺のって、ゆってんじゃん」
「うるせーな、櫂斗。急にしゃしゃってきて邪魔してんじゃねえぞ。朋樹はおまえのモンじゃねえだろ」
「俺のだ! こないだデートしたし! 大好きってゆったら頷いてくれたし!」
「ガキが口でグダグダゆったところで、そんなん関係ねーんだよ。こんなん、食ったモン勝ちなんだ、朋樹は俺が今から頂くから、おまえはすっこんでろ」
「ふざけんな! 誰がおまえなんかに!」
「朋樹は俺の」
「ちっがう! 俺のだ!」
二人がギャンギャン喚き始め、朋樹がどうしていいかわからなくておろおろしていると。
「とりあえず、二人共黙りな。時間と場所、考えろ、いい大人なんだから」
ほのかの声が、響いた。
それは怒鳴り声ではなく、普通に冷静な言葉で。
でも、少し高めの綺麗に響く声は二人を黙らせるのには十分だった。
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