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杏輔たちのテーブルを尻目に、朋樹は座敷の卓を黙々と片付けていた。
金曜日という忙しさもあるが、朔が一人ではないということで自分に対していつものような態度を見せないことに、ほんの少しだけ、寂しさを感じていて。
いや、そんなものを感じる方がおかしいのはわかっているわけだけれど。
櫂斗に「絶対あいつに連絡先教えるなよ!」とひたすら釘を刺され、実際何のタイミングが合うのか、朔が一人で来店する時は必ず櫂斗がいるので、いつだって自分を口説く朔とそれを邪魔する櫂斗の図というのがパッケージになっているから。
朔がいるのに、そんなイベントが発生しないということが。
変に寂しさを感じさせるわけで。
と。
「朋樹。店終わった後、時間作れる?」
最初にナンパされた時のように、トイレの前で朔が話しかけてきた。
「え?」
「ちょっとでいいからさ。エッグの前で待ってる」
朋樹の返事を待つことなく、朔はテーブルへと戻って行った。
エッグ……駅前の巨大オブジェ。
卵を象ったわけではないらしいのだが、どこからどう見ても卵にしか見えないせいで、この辺の住民は皆、駅前の“エッグ”と言えば待ち合わせの場所が通じるという。
朔に言われて、櫂斗とほのかのハグを思い出した。
あんなところを目撃してしまった以上、恐らく二人は恋人同士になったのだろうと思っていたものの、木曜日は元々店休日で二人と接触することもないし、今日は今日で仕事がとにかく忙しいわけで。
夕方の賄いの時は、二人共無口だった。
櫂斗がいつものように「トモさん、トモさん」なんて甘えてくることもなく、何やらほのかと二人して押し黙っていて。
バイト仲間三人の中の二人が恋人同士になったら、残り一人なんて寂しいもんだよなー、なんて朋樹は思ってしまう。
だからといってそんな些細なことは“おがた”を辞める理由にはならないし、たとえこの場で二人がイチャイチャし始めたところで、辞めたいなんて思うわけがないのだが。
とりあえず、二人の口からはっきり言われるまでは、どうもしようがないな、と。
朋樹は軽く頭を振ると、再び仕事に戻った。
金曜日という忙しさもあるが、朔が一人ではないということで自分に対していつものような態度を見せないことに、ほんの少しだけ、寂しさを感じていて。
いや、そんなものを感じる方がおかしいのはわかっているわけだけれど。
櫂斗に「絶対あいつに連絡先教えるなよ!」とひたすら釘を刺され、実際何のタイミングが合うのか、朔が一人で来店する時は必ず櫂斗がいるので、いつだって自分を口説く朔とそれを邪魔する櫂斗の図というのがパッケージになっているから。
朔がいるのに、そんなイベントが発生しないということが。
変に寂しさを感じさせるわけで。
と。
「朋樹。店終わった後、時間作れる?」
最初にナンパされた時のように、トイレの前で朔が話しかけてきた。
「え?」
「ちょっとでいいからさ。エッグの前で待ってる」
朋樹の返事を待つことなく、朔はテーブルへと戻って行った。
エッグ……駅前の巨大オブジェ。
卵を象ったわけではないらしいのだが、どこからどう見ても卵にしか見えないせいで、この辺の住民は皆、駅前の“エッグ”と言えば待ち合わせの場所が通じるという。
朔に言われて、櫂斗とほのかのハグを思い出した。
あんなところを目撃してしまった以上、恐らく二人は恋人同士になったのだろうと思っていたものの、木曜日は元々店休日で二人と接触することもないし、今日は今日で仕事がとにかく忙しいわけで。
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だからといってそんな些細なことは“おがた”を辞める理由にはならないし、たとえこの場で二人がイチャイチャし始めたところで、辞めたいなんて思うわけがないのだが。
とりあえず、二人の口からはっきり言われるまでは、どうもしようがないな、と。
朋樹は軽く頭を振ると、再び仕事に戻った。
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