10 / 167
<1>
☆☆☆
しおりを挟む
まだ若いせいもあって、会社の方針に横やりを入れたら上司に説教されて、頭にきて辞めてやるなんて思ってイライラしていたのに、それを上手く言葉にできなくて鬱屈していた杏輔が、何の気なしに入ったここで。
一人ちびちび日本酒を飲んでいたら、坊主頭の中学生がカウンターの中で駄々をこねていて。
土曜日の試合で自分がピッチャーやるから、父親に観に来て欲しいけれど、昼間は店があるから「あたしは広香ちゃんにお願いして応援に行ったげる。でもとーちゃんはダメ。とーちゃんの代わりはいないの」と女将にこんこんと言われていて。
中坊だってそんなの、絶対わかってるわけで。
だから母親の言葉に納得してるけど、でもそれを素直に頷ける程まだオトナじゃなくて。
杏輔には、そんな中学生の気持ちがわかるから。
「俺、応援に行こうか?」
思わず、言ってしまっていた。
「大将に来て欲しいのはわかっけどさ、枯れ木も山の賑わいって知ってるか? 俺が枯れ木になってやっからさ、かーちゃん困らせてんなよ」
そこからもう、ほっとけなくなった。
だって、自分も同じだったから。
多分、会社の方針なんてわかってるし、それわかって入社したのは自分で。
わかってるけど素直にわかってるなんて言いたくなくて、ちょっとイキってしまっただけで。
なんか、中坊と自分は重なるし、女将さんの絶対に怒鳴りつけるわけじゃない、ただただ諭すように言う声なんてのがとにかく耳心地いいし。
会社で何かある度に“おがた”に来た。
いや、何もなくても“おがた”に来た。
女将さんに癒されたくて。
まあ当然だけど料理が旨いのはもう、大前提なわけだけど。
そして、時々店に現れる中坊が、実は結構な美少年なのがわかったから。
野球の応援もたまに、行った。
野球なんて全然杏輔の趣味じゃないけれど、でも、行った。
だって中坊――櫂斗は可愛くて。
そして店の外で見ることのできる女将がまた、やたらとキュートだったから。
やましい気持ちなんて全然ないけれど――大将尊敬してるしさ――、普段和装でおしとやかな女将さんが、櫂斗の応援の時だけは保護者お揃いのTシャツにデニム姿で、親ばか丸出しで息子の応援してる姿なんて、そんなの知ってる客は俺だけだ、なんて思うとなんだか優越感で。
本当のことを言うと、この店に朔たちを連れて来るつもりは、最初はなかった。
自分だけの癒しの場所だし、なんて、ちょっと秘密にしておきたかったのもあって。
でも。
何も考えずに突っ走る朔という先輩のせいで純也がちょっとクサってるような気がしたから、ああこれは何かしらのきっかけがいるだろう、と。
二人の仲を取り持つというのも、恐らく上司の役目だろう。
そう思ったら、もうココしか思い浮かばなくて。
女将の笑顔と大将の料理。
高校生になってまた可愛さを増した櫂斗だって、客を癒す看板息子だ。
だから杏輔にとって“おがた”は、パワースポットなのである。
一人ちびちび日本酒を飲んでいたら、坊主頭の中学生がカウンターの中で駄々をこねていて。
土曜日の試合で自分がピッチャーやるから、父親に観に来て欲しいけれど、昼間は店があるから「あたしは広香ちゃんにお願いして応援に行ったげる。でもとーちゃんはダメ。とーちゃんの代わりはいないの」と女将にこんこんと言われていて。
中坊だってそんなの、絶対わかってるわけで。
だから母親の言葉に納得してるけど、でもそれを素直に頷ける程まだオトナじゃなくて。
杏輔には、そんな中学生の気持ちがわかるから。
「俺、応援に行こうか?」
思わず、言ってしまっていた。
「大将に来て欲しいのはわかっけどさ、枯れ木も山の賑わいって知ってるか? 俺が枯れ木になってやっからさ、かーちゃん困らせてんなよ」
そこからもう、ほっとけなくなった。
だって、自分も同じだったから。
多分、会社の方針なんてわかってるし、それわかって入社したのは自分で。
わかってるけど素直にわかってるなんて言いたくなくて、ちょっとイキってしまっただけで。
なんか、中坊と自分は重なるし、女将さんの絶対に怒鳴りつけるわけじゃない、ただただ諭すように言う声なんてのがとにかく耳心地いいし。
会社で何かある度に“おがた”に来た。
いや、何もなくても“おがた”に来た。
女将さんに癒されたくて。
まあ当然だけど料理が旨いのはもう、大前提なわけだけど。
そして、時々店に現れる中坊が、実は結構な美少年なのがわかったから。
野球の応援もたまに、行った。
野球なんて全然杏輔の趣味じゃないけれど、でも、行った。
だって中坊――櫂斗は可愛くて。
そして店の外で見ることのできる女将がまた、やたらとキュートだったから。
やましい気持ちなんて全然ないけれど――大将尊敬してるしさ――、普段和装でおしとやかな女将さんが、櫂斗の応援の時だけは保護者お揃いのTシャツにデニム姿で、親ばか丸出しで息子の応援してる姿なんて、そんなの知ってる客は俺だけだ、なんて思うとなんだか優越感で。
本当のことを言うと、この店に朔たちを連れて来るつもりは、最初はなかった。
自分だけの癒しの場所だし、なんて、ちょっと秘密にしておきたかったのもあって。
でも。
何も考えずに突っ走る朔という先輩のせいで純也がちょっとクサってるような気がしたから、ああこれは何かしらのきっかけがいるだろう、と。
二人の仲を取り持つというのも、恐らく上司の役目だろう。
そう思ったら、もうココしか思い浮かばなくて。
女将の笑顔と大将の料理。
高校生になってまた可愛さを増した櫂斗だって、客を癒す看板息子だ。
だから杏輔にとって“おがた”は、パワースポットなのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
32
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる