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厨房と自宅を繋ぐ扉の奥に更衣室がある。
和服の女将さん以外が着ている制服は、黒いTシャツと赤いエプロン。ズボンは指定なし。
Tシャツには背中に「OGATA」の文字、そして赤いエプロンの胸元には同じく店のロゴが入っている。
家族経営の小さい店だから、それを着用する、というルール以外にバイトに対する規則なんて何もない。
女の子がネイルしていようと、男の子が茶髪にピアスをしていようと、そんなことは全く店の仕事には関係ないから――まあとんでもなく長い付け爪は有り得ないが――。
ほのかは着替えると、黒く長い髪をクリップで止め、手を洗って消毒すると店に出た。
既に店内に朋樹の姿はない。
「何か、相談?」
ほのかが、キャベツの千切りをしている櫂斗に声をかけた。
「イイ感じのランチができるおすすめのお店、教えて」
櫂斗の目は手元から離れない。
慣れているからリズムよく刻んでいるが、さすがにノールックで包丁が扱えるわけではない。
「イイ感じって……何、女の子とデートでもすんの?」
昼の定食屋で使っていたメニューをバックヤードに下げ、夜の居酒屋メニューを各卓に配る。
厨房の手伝いは櫂斗一人で大丈夫そうだと踏んだほのかは、店内の転換作業を始めた。
「うん、トモさんとデート。気合入れて口説きたい。あいつに先越されんのヤだし」
「あー……そ。んじゃ、ちょっと薄暗い系で、エスニックとか?」
「いいじゃん」
櫂斗は一瞬手を止めてほのかを見ると、唇の端を上げてニヤリと嗤った。
「……櫂斗ってさ、芳賀のこと押し倒したいの? 倒されたいの?」
ほのかが表情一つ変えず、問う。
大きな黒い瞳、猫のように丸くて少し吊り目なほのかのそれは、単純に好奇心を湛えていたから。
「どっちもしたい」
一言答えて、再びキャベ千作業。
「節操無いのね」
今日は宴会の予定がないので、テーブルと座敷の卓はそれぞれ個別にセット。
座敷には座布団を綺麗に並べ、テーブルとカウンターには椅子を並べる。これが、初期値。
客の人数に合わせて多少増減させる為に、予備の椅子や座布団も用意してある。
「いいでしょ。同性って、便利だよね」
くふくふ笑いながら櫂斗が言うが、ほのかはチラリと大将を見た。
全く無表情のまま、鍋を見つめている。
「あ」
「何よ?」
「ここへ来てほのかがトモさん狙いとか、無いよね?」
「無いわよ。あんなポンコツ、どこがいんだか」
「ほのかは甘ちゃんだなー。あのポンコツなのが可愛いんじゃん」
一日に、最低一個は何かしらやらかす朋樹である。
最近は食器を割ることも週に一度くらいの頻度にはなったが、今でもまだオーダーミスはするしオススメ料理を噛むなんて当たり前。
さっき、外から「あ!」という声が聞こえたから、恐らく何かしらやらかしているのだろう。
「櫂斗はオトナねー。子供のお世話が好きなんて」
「何もできないトモさん、俺が手取り足取り、イロイロ教えんのがいいんじゃん」
「やだ、セクハラで訴えるわよ」
「俺のがほのかより立場下だから、セクハラにはなりません」
「どの口が言ってんのよ」
「だって俺、ただのお手伝いだもん。バイトですら、ない」
「じゃあお小遣い貰ってないの?」
「貰ってるよ、あったりまえじゃん、誰がタダ働きなんかすんだよ」
しれっと言い放ち、「とーちゃん、終わったー」と山盛りのキャベ千が入ったボウルをドヤ顔で大将に示した。
和服の女将さん以外が着ている制服は、黒いTシャツと赤いエプロン。ズボンは指定なし。
Tシャツには背中に「OGATA」の文字、そして赤いエプロンの胸元には同じく店のロゴが入っている。
家族経営の小さい店だから、それを着用する、というルール以外にバイトに対する規則なんて何もない。
女の子がネイルしていようと、男の子が茶髪にピアスをしていようと、そんなことは全く店の仕事には関係ないから――まあとんでもなく長い付け爪は有り得ないが――。
ほのかは着替えると、黒く長い髪をクリップで止め、手を洗って消毒すると店に出た。
既に店内に朋樹の姿はない。
「何か、相談?」
ほのかが、キャベツの千切りをしている櫂斗に声をかけた。
「イイ感じのランチができるおすすめのお店、教えて」
櫂斗の目は手元から離れない。
慣れているからリズムよく刻んでいるが、さすがにノールックで包丁が扱えるわけではない。
「イイ感じって……何、女の子とデートでもすんの?」
昼の定食屋で使っていたメニューをバックヤードに下げ、夜の居酒屋メニューを各卓に配る。
厨房の手伝いは櫂斗一人で大丈夫そうだと踏んだほのかは、店内の転換作業を始めた。
「うん、トモさんとデート。気合入れて口説きたい。あいつに先越されんのヤだし」
「あー……そ。んじゃ、ちょっと薄暗い系で、エスニックとか?」
「いいじゃん」
櫂斗は一瞬手を止めてほのかを見ると、唇の端を上げてニヤリと嗤った。
「……櫂斗ってさ、芳賀のこと押し倒したいの? 倒されたいの?」
ほのかが表情一つ変えず、問う。
大きな黒い瞳、猫のように丸くて少し吊り目なほのかのそれは、単純に好奇心を湛えていたから。
「どっちもしたい」
一言答えて、再びキャベ千作業。
「節操無いのね」
今日は宴会の予定がないので、テーブルと座敷の卓はそれぞれ個別にセット。
座敷には座布団を綺麗に並べ、テーブルとカウンターには椅子を並べる。これが、初期値。
客の人数に合わせて多少増減させる為に、予備の椅子や座布団も用意してある。
「いいでしょ。同性って、便利だよね」
くふくふ笑いながら櫂斗が言うが、ほのかはチラリと大将を見た。
全く無表情のまま、鍋を見つめている。
「あ」
「何よ?」
「ここへ来てほのかがトモさん狙いとか、無いよね?」
「無いわよ。あんなポンコツ、どこがいんだか」
「ほのかは甘ちゃんだなー。あのポンコツなのが可愛いんじゃん」
一日に、最低一個は何かしらやらかす朋樹である。
最近は食器を割ることも週に一度くらいの頻度にはなったが、今でもまだオーダーミスはするしオススメ料理を噛むなんて当たり前。
さっき、外から「あ!」という声が聞こえたから、恐らく何かしらやらかしているのだろう。
「櫂斗はオトナねー。子供のお世話が好きなんて」
「何もできないトモさん、俺が手取り足取り、イロイロ教えんのがいいんじゃん」
「やだ、セクハラで訴えるわよ」
「俺のがほのかより立場下だから、セクハラにはなりません」
「どの口が言ってんのよ」
「だって俺、ただのお手伝いだもん。バイトですら、ない」
「じゃあお小遣い貰ってないの?」
「貰ってるよ、あったりまえじゃん、誰がタダ働きなんかすんだよ」
しれっと言い放ち、「とーちゃん、終わったー」と山盛りのキャベ千が入ったボウルをドヤ顔で大将に示した。
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