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ゴボウをささがきにしている櫂斗が、
「トモさん、次の日曜日って空いてる?」
カウンターで箸箱に箸をセットしている朋樹に訊いてきた。
女将さんが地域の集まりで不在になるということで、急遽午後から空いていた朋樹がヘルプで呼び出されており。
櫂斗の高校も試験期間に入り、早めの帰宅をこれ幸いと、大将に小鉢の材料を下ごしらえさせられているわけで。
「んー。そだね、バイトまでの時間は空いてるよ」
休みの度に一緒にいるようなツレがいるわけでもないから、朋樹としては基本的にバイト以外に予定はない。
「じゃあさ、デートしよーよ」
「…………」
耳を疑った。
厨房には、大将がいる。当然だ。
豚の角煮や魚の煮付けなど、時間のかかる料理の仕込みを黙々とやっている。
「……えっと。デート?」
「ん。一緒に買い物したりー、ランチしたりー、あと映画見たりとか」
「……デート?」
「映画よか、体動かす方がいい? ボウリングとか?」
「……櫂斗」
「カラオケでもいいよー。あ、スポッチャならなんでもできるかー」
手を動かしながら櫂斗が言う。
朋樹の問いたいトコはソコじゃないんだが。
器用な櫂斗はみるみるうちにゴボウのささがきを終え、
「とーちゃん、次は?」当たり前に大将に指示を仰ぐ。
あ、ちゃんと見えてるんだ、大将のこと。
「レンコン」
「乱切り?」
「スライス」
「おけ」
短い会話で、大将が何を作るための材料なのかを察した櫂斗が、手早くレンコンの皮を剥いていく。
朋樹が凄いな、と思うのは櫂斗の手つきで。
両親の仕事のせいもあるのか、料理だけでなくとにかく手際がいい。
聞けば朝食は簡単な和食を自分で用意しているという。しかも両親の分と合わせて三人分。
だってとーちゃん仕入れ行くし、かーちゃん寝てるし、とさらっと答えられ、朝食なんてトースト焼くくらいしかしたことのない自分が恥ずかしくなった。
いや。違う。
それだけじゃない。
父親が見ている前で堂々と自分を“デートに誘う”という神経も、凄いと思うわけで。
「朝早いの、辛い? だったら、十一時くらいに迎えに行こっか?」
「迎えにって」
「駅で待ち合わせのが、デートっぽいかな?」
「……だからさ、櫂斗。さっきから思ってんだけど」
「あ、箸箱済んだら、醤油確認しといてね。昼にバタバタしててかーちゃん補充できてないかもしんない」
茫然と櫂斗を見つめていた自分に、しっかりと作業指示。
慌てて手を動かす。
が。
「櫂斗」
「ん? あ、他に何かやりたいこと、ある? 俺、全然トモさんに合わせるよ?」
「や、だから、デートって?」
「うん、トモさんとデートしたい。ほら、いっつも店でしかトモさんのこと口説けないじゃん? たまには二人きりで出かけて、ちゃんと口説かせてよ」
櫂斗が顔を上げ、しっかりと目を見て真剣な声で言うから。
「えっと……何で大将、止めないんスか?」
鍋とにらめっこしていた大将を縋るように見た。
「好きにすればいい」低い、めっちゃイイ声で短い返答。
「ねー。とーちゃんも、トモさんが嫁に来てくれたら嬉しいよね?」
くふくふ笑って櫂斗が言うと、大将が朋樹に向かってにっこりと笑った。
えっと………え? 何、その笑いは?
「おっつかれーっす。ヘルプに来ましたー」
親子の嬉しそうな笑顔に朋樹が固まった直後、店の扉が開いてほのかが入って来た。
「おつー。ほのか、着替えたらトモさんとチェンジ。トモさん、店の前の掃除ね」
櫂斗は何事もなかったように、レンコンのスライスを酢水に浸しながらほのかに指示した。
「トモさん、次の日曜日って空いてる?」
カウンターで箸箱に箸をセットしている朋樹に訊いてきた。
女将さんが地域の集まりで不在になるということで、急遽午後から空いていた朋樹がヘルプで呼び出されており。
櫂斗の高校も試験期間に入り、早めの帰宅をこれ幸いと、大将に小鉢の材料を下ごしらえさせられているわけで。
「んー。そだね、バイトまでの時間は空いてるよ」
休みの度に一緒にいるようなツレがいるわけでもないから、朋樹としては基本的にバイト以外に予定はない。
「じゃあさ、デートしよーよ」
「…………」
耳を疑った。
厨房には、大将がいる。当然だ。
豚の角煮や魚の煮付けなど、時間のかかる料理の仕込みを黙々とやっている。
「……えっと。デート?」
「ん。一緒に買い物したりー、ランチしたりー、あと映画見たりとか」
「……デート?」
「映画よか、体動かす方がいい? ボウリングとか?」
「……櫂斗」
「カラオケでもいいよー。あ、スポッチャならなんでもできるかー」
手を動かしながら櫂斗が言う。
朋樹の問いたいトコはソコじゃないんだが。
器用な櫂斗はみるみるうちにゴボウのささがきを終え、
「とーちゃん、次は?」当たり前に大将に指示を仰ぐ。
あ、ちゃんと見えてるんだ、大将のこと。
「レンコン」
「乱切り?」
「スライス」
「おけ」
短い会話で、大将が何を作るための材料なのかを察した櫂斗が、手早くレンコンの皮を剥いていく。
朋樹が凄いな、と思うのは櫂斗の手つきで。
両親の仕事のせいもあるのか、料理だけでなくとにかく手際がいい。
聞けば朝食は簡単な和食を自分で用意しているという。しかも両親の分と合わせて三人分。
だってとーちゃん仕入れ行くし、かーちゃん寝てるし、とさらっと答えられ、朝食なんてトースト焼くくらいしかしたことのない自分が恥ずかしくなった。
いや。違う。
それだけじゃない。
父親が見ている前で堂々と自分を“デートに誘う”という神経も、凄いと思うわけで。
「朝早いの、辛い? だったら、十一時くらいに迎えに行こっか?」
「迎えにって」
「駅で待ち合わせのが、デートっぽいかな?」
「……だからさ、櫂斗。さっきから思ってんだけど」
「あ、箸箱済んだら、醤油確認しといてね。昼にバタバタしててかーちゃん補充できてないかもしんない」
茫然と櫂斗を見つめていた自分に、しっかりと作業指示。
慌てて手を動かす。
が。
「櫂斗」
「ん? あ、他に何かやりたいこと、ある? 俺、全然トモさんに合わせるよ?」
「や、だから、デートって?」
「うん、トモさんとデートしたい。ほら、いっつも店でしかトモさんのこと口説けないじゃん? たまには二人きりで出かけて、ちゃんと口説かせてよ」
櫂斗が顔を上げ、しっかりと目を見て真剣な声で言うから。
「えっと……何で大将、止めないんスか?」
鍋とにらめっこしていた大将を縋るように見た。
「好きにすればいい」低い、めっちゃイイ声で短い返答。
「ねー。とーちゃんも、トモさんが嫁に来てくれたら嬉しいよね?」
くふくふ笑って櫂斗が言うと、大将が朋樹に向かってにっこりと笑った。
えっと………え? 何、その笑いは?
「おっつかれーっす。ヘルプに来ましたー」
親子の嬉しそうな笑顔に朋樹が固まった直後、店の扉が開いてほのかが入って来た。
「おつー。ほのか、着替えたらトモさんとチェンジ。トモさん、店の前の掃除ね」
櫂斗は何事もなかったように、レンコンのスライスを酢水に浸しながらほのかに指示した。
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