コレは誰の姫ですか?

月那

文字の大きさ
上 下
231 / 231
<6>

☆☆☆

しおりを挟む
☆☆☆

「もー、いい加減諦めなって」
 悠平が呆れながら言う。
「やだ。絶対、やだ」と恵那が完全に目を座らせて首を振る。

「だってもう、無理じゃん。あんただってわかってんじゃん」
 往生際の悪いヤツだな、と眉を寄せると恵那は「うっせー、ばーか」なんていつものように毒づいて。

「俺はオトコだ。中途半端に諦めるなんてのは、男じゃねえ」
「でも実際、半分折れてるだろーがよ」
「はあ? 何ゆってくれちゃってんの? 折れてるわけねーじゃん、俺全然バリバリだし!」
「腰、引けてんじゃん」
 悠平が半笑いで近寄るから「寄るな、あほ」と睨みつける。

「もういいから。これ以上は時間のムダじゃん」
「無駄じゃ、ねえ! 来んな、ばか」
 必死の目力で悠平をその場に留めさせると、恵那は「ふう」と深呼吸した。

「まだだ。俺は、諦めない」と視線を正面へと向ける。

 と、ごん、と大きな音がして。
「……やっぱあんた、バスケは向いてないって」
 スリーポイントのラインから投げたボールはボードにぶち当たって転がり落ちた。
 がっくりと膝をついて項垂れた恵那に、腕組みした悠平が言って大きくため息を吐く。

「ううううう!」
「何呻ってんのさ?」
「まだ、やる!」
「もう、いいって」
 転がっていたボールを追いかけようとした恵那の腕を、悠平が掴んだ。

「さ、デートだデートだ」
「…………」
「約束、だからな」
 にやにやしている悠平を睨む。
 けれど、そんなもの何も気にしないで悠平はボールを体育館倉庫に片付けると、
「お邪魔しましたー」と練習をしていたハンドボール部に軽く会釈して第二体育館を後にした。

 仕方がないからそんな悠平の後を、不貞腐れた表情のままついて行くけれど。
 ムカついてしょうがない。
 まさか、あんなにシュートが決まらないとは思ってもいなかった。

 だいたい、授業でやっているバスケに関しては全然得意だったし、フリースローにしろレイアップにしろ、何やったってバスケ部が眉を寄せるくらいうまくこなしていた恵那である。
 スリーポイントシュートだって、全く決まったことがないなんてわけでもなく。

 なのに。
 今日、どれだけ打っても一本も入らなかったのは、なんでだろうか。
 焦れば焦るほど、自分の意志とはかけ離れた弧を描いてボールはあらぬ方向へしか飛んでいかないし、どれだけ集中しても全然うまく入らなくて。

 スポーツでこんなにも不調だったのは生まれて初めての経験。
 自分にとってあまりにも有り得ない状況に、もう茫然自失な恵那で。

 ブスくれた表情のまま悠平の後ろにいると。
「球技大会でバスケ勝負してたらあっさり俺が勝ってたし、そしたら恵那はもっと早く佐竹先輩と別れてたんだろうな」と振り返って言われた。

「え?」
「そしたらあんた、泣くこともなかったのに」
「うっせーな。俺は涼が掛かった勝負には絶対負けねーんだよ」
「……まだ言ってんの?」
「一生言い続けるよ。俺にとっては、涼はそういう存在だ」

 完全に、拗ねている。
 という、自覚はある。
 だってまた悠平に負けた。
 ソフトで負けた時は、それでも言い訳ができたけれど。
 今回の勝負なんてもう、何も言えない。
 悔しいにも程がある。

 もう誰もいない自転車置き場で、ポケットに手を入れたまま立ちすくんでいると。
「俺もチャリ、取って来るから。ここで待ってて」
「へ?」
「だから、これからデートだ、つったろ?」
「ええー、まじで?」
「あんたが言ったんだからな。俺が勝ったら好きなだけ付き合ってくれるって」
 嬉しそうに言ってくるから、ムっとして睨む。

「約束、したんだから逃げるなよ?」
「……わかったよ。でも、おまえの奢りだからな」
「あんたねえ。後輩に奢らすって、どうなん?」
「てめえが誘って来たんだから、当たり前だろーが」
「ったくもー、ああ言えばこう言う。ほんっと、可愛くねえ」
「俺が可愛いわけがない!」
 顔をわざと歪めて言ってやると、「はいはい」と指で鼻筋を撫でられた。

「まあいいや。それならそれで」
「は?」
「あんたにとって、佐竹先輩が“そういう存在”なんだってのは、俺だって全然わかってるし」

 動き出そうとしない恵那の様子を見て、「あーもう、めんどくさいな」と恵那の手から自転車の鍵を奪い取り、悠平がそれを使って自転車のロックを解除する。
 恵那の自転車を押して歩きながら、今度は一年生の自転車小屋へと向かう。
「それを無理に変えさせるつもりはないよ」真剣な声で言った。

 とん、と恵那の腰に触れて前に進ませる。
 負けた悔しさと、悠平が何を言っているのか理解できないのと。
 いろんなことが頭を混乱させている恵那は、まるで人形のように悠平に押し出されないと動かなくて。

「そんなトコ全部ひっくるめて、俺があんたのことを“そういう存在”として扱ってやるから」
 言った瞬間、また恵那が立ち止まる。
「もう。ちゃんと歩けよ。いつまで経っても着かねーだろが」

「わけわかんねーこと言ってんなよ」
「わかんねーことなんか全然言ってねーじゃん。ほら、歩いて。俺二台もチャリ押せねーから、俺のチャリんトコ行ったらあんたちゃんと乗ってくれよ」
 世話焼かせるなよ、なんてぶちぶち言いながら、恵那を促す。

「あんたが佐竹先輩にしてやりたいって思ったこと、俺が全部あんたに対してやってやんだよ」
「はあ?」
「やり残してること、全部言ってみな? 全部叶えてやるから」
「ふざけてろっつの。俺が涼にしたいと思ったことは、全部相手が涼だからだ。なんだっておまえなんか護ってやんねーといけねんだ。俺の庇護欲は涼にしか向いてない」
「だから言ってんじゃん。それ、俺が全部やってやるから。あんたは俺に護られてりゃいいんだってば」
「まじめんどくせーな。おまえ、日本語通じねーのかよ?」
 この平行線を辿るだけのいつもの口喧嘩が。
 でももう、回を重ねるごとにガードが緩んでいるのも確かで。

「ま、なんだかんだ言ったってさ。あんたはもう俺に惚れてんだから。素直じゃないトコも全部、俺が愛してやるよ」
「うっせー、ばーか」
「あんたは俺の最愛のお姫様だからな」
「んなわけねーだろ。いいか、俺は“姫”じゃねえし、そういう扱いするってことは確実に喧嘩売ってるってことだからな!」
「はいはい」
「聞いてんのか、人の話をよ!」
 激おこモードで喚き始めた恵那を。

 悠平はキスで黙らせた。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

すずしろ
2022.03.13 すずしろ

恵那、、、可哀想過ぎる

解除
アルファ
2022.03.13 アルファ

何されてもいい…うわぁー
何されてもいい うわぁー‼︎?
甘い毒-_-!!

解除

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。