コレは誰の姫ですか?

月那

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「キリからの誕プレは、これだよお」
 馬場さんの手料理を五人で存分に堪能して、ケーキの前にキリエがまず切り出した。
 久々の五人集合だから、それぞれの近況を話すだけでも楽しくて。

 涼の家に集合してすぐ、誕生日会前に、男子四人でまずは馬場にホワイトデーとして手渡したのは花束だった。
 涼だけならそんなこと考えもしなかったけれど、土岐が「ケーキのお返しもだけど、さすがにいつもいつもお世話になっているから」なんて言い出した時には、三人で脱帽した。
 恵那としては半分“涼の母”的な存在なだけに、バレンタインのお返しなんて考えもしなくて。
 でもそんな気遣いをしている土岐は、やっぱり目の付け所が自分とは違うんだと感心した。
 頭にくるけれど、女子にモテるのはこういうトコなのだろうと思うと、やっぱり敵わない。

「あのねー、こないだ響と一緒に涼ちゃんに似合いそうなの探してたんだよね。ほら、涼ちゃんって何でも持ってるし、お洋服だってちゃんと似合うのわかって着てるし。めっちゃ悩んだんだよお」
「待って待って。僕としてはきーちゃんが響とデートしてた話の方が気になるんだけど?」
「デートくらいするっちゅーねん」
「だって響、いっつも部活忙しそうでしょ? なんか大会があるってゆってなかった?」
「だからその合間で逢ってただけやし。バスケ部にも休みはあんで?」
 そりゃそうだろうけど、と涼が呟いてふと土岐を見た。
 その瞬間、恵那は察してしまう。

 きっと涼が何かしら行動を起こしたのだろう。土岐に何か誘いをかけたけれど、部活を言い訳にして逃げたってことだろうから。
 ちょっと悲し気な表情をしたのが何よりの証拠で。

 こんのバカ野郎、と土岐を睨む。
「おまえな、土岐。もう、いい加減はっきりしろ」
 つい、声に出してしまう。

「何だよ、急に」土岐が眉を顰めた。

「涼。俺からおまえにやる誕生日プレゼントは、土岐だ」
 ぐい、と土岐の腕を掴むと涼に向かって押しやる。
「いいか、涼。俺はもうおまえのことは吹っ切れてる。ちゃんと彼女もいるし、今日はこの後そのコとデートもする。だから、もう俺のことは気にしなくていいし、俺はこいつをおまえにプレゼントしてやる」
 きっぱり言い切った。

「えな……?」
「土岐。おまえはちゃんと男、見せろ。それが何よりも涼が喜ぶモンなんだから。いい加減、逃げてんじゃねえ」
「何言ってんだよ、恵那。涼はおまえの」
「だから言っただろ。俺には彼女がいるって。涼はもう、俺のモノじゃない」
 土岐の言い訳を赦さず、恵那がきっぱりと言い切った。
 
 既に涼は精一杯の行動を起こしているのだ。少しずつ土岐に近付こうと、涼なりに必死で頑張っているのが恵那にもわかった以上、もう黙って見ているわけにはいかない。
 土岐には男としてちゃんとはっきり言わせたいと恵那は思った。
 もう、遠慮なんてしないでいいと。

 二人を向かい合わせようとして土岐を睨みつけた恵那に。
 けれども涼が、「誰?」と訝しげな顔で訊いてきた。

「は?」
 まさか突っ込まれるとは思っていなかったから、一瞬口ごもる。

「えな、彼女って、誰? いつの間にそんなの、できたの? だって、定演の準備でずっと忙しいってゆってたじゃん?」
 実際、定演を理由に涼の傍にいることを極力避けていた恵那だったから、そこを突かれると痛いわけで。

「何それ?」
 ちょっとしたやましい気持ちがあったから目を逸らしてしまった瞬間、涼が泣きそうな顔を見せた。
「ねえ、何なの? みんなして寄ってたかって僕のこと、無視して」
 くしゃ、とその可愛い顔が哀しみに歪む。

「部活、忙しいのわかるし、それは僕だってそうだけど。でも……今まではそんなくなかったじゃん? 部活もあるけど、合間とか、時間合わせることってできたじゃん」
 ちょっと早く部活終わったからえなんち集まろう、なんて。
 恵那と付き合っている頃は当たり前にしてたことが。
 ここのところいつだって三人から「あー今忙しいんだよねー。また今度」なんて言われて。
 いつの間にかみんなが部活を言い訳にしてまるで自分を避けているみたいで。

「僕のこと……部活を理由にして避けてたってわけ? 何それ……僕、そんなに邪魔なの?」
 恵那と別れて。
 土岐のことが好きだってことはもうちゃんと自覚していて。
 でも土岐は自分なんて相手にしてくれるわけがなくて。
 当たり前に“部活があるから”と、隙間時間さえもあしらわれた。
 響はキリエと、なんてのは仕方がないことだけど、でもこんなにもバラバラになるなんて。
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