コレは誰の姫ですか?

月那

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 卒業式の数日後、一二年生は学年末考査となる。
 定期考査のテスト勉強は瑞浪家のリビングで四人集まって行われるのがもう、デフォとなっていて。
 部活のない試験期間は当たり前に学校終わりに集合する。
 基本的にそれぞれが自分のやりたい教科と向き合うけれど、なんたって学年トップクラスの土岐がいるわけだから、そんなの頼りにしまくるのは当然。
 この四人勉強のおかげで、今では涼も響も上位に名前が載るようになっていた。

 土岐の淹れたカフェオレと、響の母が差し入れするお菓子もいつものことなら、八時になると夕飯が用意されるのもお約束。この試験期間を誰よりも楽しんでいるのは、双子の母だったりする。

 そして、いつものように四人でカリカリとシャーペンを走らせていると、恵那が響に目で合図した。
「ん?」「ちょい」「ん」
 というやり取りで、二階の恵那の部屋へと響を呼び出した。

「わ。俺、この部屋入るん初めてやわ」
「あれ? だっけ?」
「土岐の部屋と間取り一緒?」
「にゃ、なんか俺の部屋には配管があるから変に出っ張りがあるし、微妙に狭い」
「そおなん? あ、これか?」
「そそ」
「お、噂のカレンダー。この下か、ボコっとんのは?」
「んなもんめくってまで見なくていいから」

 響がもの珍しげにキョロキョロするからとりあえず一発はたいて黙らせる。

「基本的に、友達は棲み分けしてるからな、土岐とは。あいつのツレは俺の部屋には入らないし、俺のツレはあいつの部屋には入らない」
「それってわざとそないしとん?」
「んー……や、何となく、かな」
 恵那が言ってベッドに座ると、響が椅子に座った。

「土岐の友達ってバスケ関係だろ? 俺、基本的にバスケ部とは関わんねえし。逆に俺のツレで家までくるヤツってのは大抵吹部だったからさ。おまえくらいだろ、どっちとも仲イイのって」
 土岐の交友関係は基本的に狭いから、部屋に遊びに来た人間なんて中学時代のバスケ部の数人のみ。
 一方恵那は、それこそ誰でも家に招く人間だから、吹部は勿論だけれどそれ以外にもクラスの友人や先輩、後輩などもいて。

 だからと言って、恵那の友人が土岐と関わることは殆どないから、自然と二人の交友関係は別れる。故意にそうしているわけではないけれど、双子の得意分野が違う以上当然の流れ。
 更に言えば小学生時代なんてそもそも二人の仲が悪いのだから、友人が絡むわけがない。
 二人が同時に親しくしているという響という存在は、だからかなり珍しい。

「だからさ、ちょい相談したくてさ」
 恵那にとって、土岐に近い人間で自分が関わっているのは響しかいない。
「へ?」
「あいつ、涼のこと好きだよな?」
 あまりにもストレートな恵那の問に、響が瞠目した。

「おまえから見て、どう思う?」
「どうって……」
「俺はさ、もう結構前からずっと、あいつが涼のことを好きなんだろうってことには気付いてたんだけどさ」
 気付いていたけれど、それを明確にちゃんと言語化したくなくて。
 ずっとずっと誤魔化していたその事実に、でもきっと土岐の友人である響だって気付いているだろうから。

「……そやから、別れたんか?」
 涼のことは好きだし傍にいたいけれど、自分を見ていないから別れたのだと。恵那が前に話した理由の中で、涼がじゃあ誰を見ているのか、ということには触れていなかった。響としてはそこに突っ込むことのできる空気でもなかったし。

「土岐と涼っちが両想いやって思たから?」
「やっぱ、おまえが見てもそう思う?」
「いつから気付いとったん?」
「……わかんねえ」

 そう、いつからなんてわからない。
 涼が土岐を好き、なんて本当にいつからなんて全然わからないのだ。
 そりゃ、最初にバスケやってる土岐を見た時に「かっこいい」と言っていたのは事実だけれど、頬を染めて自分に“好きだ”と告白してくれた時は、それが間違いだなんて思えなかったし。
 でも……一緒にいるうちに何となく気付いた。
 キスを受け入れる時も、それ以上の関係を拒む時も、きっと涼の中に本来の相手が別にいること。
 本当にキスをしたい相手は自分ではないこと。
 本当に抱きしめられたいと思っているのは……土岐だということ。

 いつの間にか、気付いてしまっていた。
 おまけに。
 土岐が涼を好きだなんて。

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