コレは誰の姫ですか?

月那

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 来ると予想がついていただけに、恵那としては余裕で「あー、まあね」と軽く流す。
「ちょい、いろいろあってさ」
 傷ついてんだから突っ込んでくるな、というニュアンスで目を逸らした。

「そのいろいろを話せ、つってんだよ。あんたが佐竹先輩とちゃんと付き合ってたのは知ってる。女の子ナンパしてたのも、それ誤魔化す為だろ? 本気のトコで佐竹先輩とちゃんと両想いなんだって俺は思ってた」
 徹たちから聞かされた二人の関係だったけれど、二人を見ているうちに悠平にはそれが本気なのだとわかってきた。恵那が誰よりも涼を大切にしているのが伝わって来たから。

 だからこそ。
 ちょっと前から見かける二人の、まるで上辺だけ取り繕って仲良くしているような姿が気になって仕方がなかったし、それこそが恵那のこのおかしな表情の原因だと気付いた。

「訊くなよ、それをよ。何? フられた理由話せって? 結構キツイんだけど?」恵那がへらへら笑って流そうとするが。
「普通にフられただけなら、佐竹先輩はあんたの横にくっついてなんかいないだろ? あんただって、佐竹先輩のことまだ一番大事にしてる」
「そりゃそーだよ。あいつは俺のだからな」
「だから、それが何でだ、つってんだよ。別れたんなら、一緒にいなきゃいいじゃん。そんな辛そうな顔して、横で佐竹先輩護ってるとか、おかしいだろ!」
「るせーな。一緒にいたいんだからしょーがねーだろうがよ! フられたって俺があいつを好きなのは変わんねーんだよ! 誰にもあいつの隣、譲りたくねーんだ!」
 思わず、本音をぶつけてしまって。
 ヤバイと慌てて口を噤んだ。

「あー、悪い。今の、忘れて。これ、あんま誰にも知られたくねーからさ」
 涼が自分以外の人間を見ていること。まだ、誰にも知られるわけにはいかないのだ。
 涼本人がちゃんとそれに向き合うまでは。

「じゃあちゃんと佐竹先輩に言えよ。自分の傍にいろって言えばいいじゃん」
「うるさい。ほっとけ。あいつの気持ち、縛るのは俺のポリシーに反する」
「イミわかんねーよ! だったら、フられちまった以上とっとと忘れろよ!」
「んなこと簡単にできねーっつの。おまえ、バカじゃねーの?」
 ああ、ダメだ。これ以上言ったら喧嘩になる。
 ふるふると頭を振って気持ちを切り替え、恵那は大きく深呼吸した。

「しょーがねーだろーがよ。あいつが別のヤツ好きだってんだから、俺はあいつの友達に戻るしかできねーんだから」
 声のトーンを下げて、言う。
 もう、いい。
 これ以上悠平に対して何も隠してなんていられない。

「なんで? 今のあんたはその“友達”って立ち位置でめちゃくちゃ泣いてるじゃん。その立場が辛いなら、そんなの止めてしまえよ」
「だめだよ。俺がいなけりゃ、あいつが泣く」
「はあ?」
「俺の友達でいたいってのは、あいつの希望だ。だから、絶対にあいつの傍を離れるわけにはいかない」
 こっちの痛みなんか、どうでもいい。ただ、涼の泣く顔だけは見たくない。
 涼が“友達のえな”を求めている以上、笑って隣にいる自分は絶対に必要なのだから。

「じゃあ、俺が佐竹先輩のこと忘れさせるよ」
「まーたわけわかんねーことを。何を言ってんのさ?」
「恋人だった佐竹先輩のこと、俺が忘れさせてやる、つってんの」
 恋愛感情だけかっさらってやる。と、悠平が睨むように言った。

「ただのトモダチとして佐竹先輩の横にいられるようになればいいんだろ? だったら、あんたのその恋愛感情は俺が引き受けてやる」
「ばっかじゃねーの? おまえなんかが涼に敵うわけねーだろが。涼は世界一可愛いんだ!」
「そんなん知ってるよ、俺だって。ガッコ中であの人可愛くねーなんて言うヤツ誰もいねーし」
「だったらわかるだろ! あの涼が俺の傍から離れてくなんて、そんなのイヤだって思う気持ち。俺があいつの一番近くにいたんだから。放したくねーっての、わかるだろ!」

「でももう、違うだろ。佐竹先輩は、もうあんたのモンじゃない」
 それはあまりにも重い言葉だった。
 悠平の、いつもの低く優しい声だったにもかかわらず、あまりにも強い言葉で。

 その瞭然としたセリフに、恵那は心臓を鷲掴みにされた。
 わかっていたこと。いつも“俺のだ”と呪文のように唱えていたのは全部、それがもう真実ではないから。
 でもその呪文さえあれば、涼の隣で笑っていられた。
 俺の涼。俺だけの涼。
 …………でも。
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