コレは誰の姫ですか?

月那

文字の大きさ
上 下
208 / 231
<6>

-7-

しおりを挟む
7

「あんたさ、今自分がどんな顔してるかわかってる?」
 パート練習の合間、ぼーっとしていた恵那に悠平が話しかけてきた。
「へ?」
「いや、まあいっけど。あのさ、ダンスメドレーの練習いつやんのさ?」
 定期演奏会でもダンス部とコラボ曲がある。充樹が演奏は任せていいと言ってくれたので、恵那もダンスに加わることにした。そして恵那が踊る以上、悠平だってそっちに参加するわけで。
 ようやく受験を終えた徹と辰巳も一緒に踊るのは決まっていた。

「あ。やべ、スケジュール組むの忘れてた」
「おいおい、しっかりしろよ。俺らもうヒマ持て余してんだからさ」
 パート練習に参加していた辰巳が突っ込んでくる。
「あんたらは演奏の練習してろよな。二部から載るんだろ?」
「田丸っちの仕切りだから、あんなんノリで行けるっつの。恵那も真面目に練習してんの一部の曲ばっかだろがよ」
 第二部の指揮者である田丸教諭は、結構ナめられている感は否めない。
 実際、地元のゆるキャラみたいな雰囲気の先生だから、指揮はしているけれど曲の流れは基本的にパーカッションが引っ張っていて。ただの“お飾り指揮者”である。

「奏がドラムやってる曲は、俺ら完璧だからね」
 メインのジャズは毎年恒例の曲もあるから、定演練習期間が短い三年生も余裕。むしろ第三部の曲の方が、最新曲が多いので練習は必要なのだ。指揮も河野先生だから気を抜けないし。

「一年で踊るのは悠平だけ?」
 徹が訊くと「あー、サックスは。でも日向も踊るし、他にも何人かいますよ」とちゃんと敬語で喋る。
 悠平はちょっとだけこの徹先輩に対してビビっていたりする。どうしても“部長”という肩書が光って見えるらしい。恵那はいつもそれを鼻で嗤っているけれど。

「一曲まるっと完コピすんだろ? 大丈夫なのか?」徹が眉を寄せるから「自信ねーなら演奏しとけよ」と恵那がニヤニヤと嗤う。
「おまえなあ。どっからどう見ても先輩に対する態度じゃねーだろ!」さすがに徹がキれると。
「えー、ちゃんと敬意払ってんじゃん。俺、徹先輩のことはちゃんと先輩呼びしてっし」
「呼び方だけだろがよ。ったく。しょーがねーからスケジュール管理、俺らがやってやるよ。おまえ、ステージ演出で忙しいんだろ?」
 去年部長として定演の演出で駆け回っていた徹である。肩書こそ“部長”ではないが、恵那こそが裏の部長ということはわかっているから。芝崎を立てながら陰で駆け回っているのは見えている。

「それなら悠平、おまえ徹先輩に付いとけ」
「え?」
「あー、いらんいらん。来年の勉強なら恵那のフォローのが大事」
 さすがに恵那が悠平に何をさせたいのかは徹にもわかる。
 いわば自分の後継者として悠平を選んだのだろう。企画の話をする時には悠平を立ち会わせているし、時には悠平にも発言させる。

「俺がやることなんて大したことじゃねーからな。あと一か月ちょいだから、悠平は恵那にくっついとけ」
 それに。
 恵那にフォローが必要なのは、きっとプライベートに関しても。

 涼との関係が上手く行っていないことは、徹も気付いていた。かと言って、それを表に出すこともしなければ自分たちを頼ることもしないだろうことも、わかっていて。
 受験で忙しい時に一度だけ見せた弱音を自分たちは見ないふりをしたから。
 代わりに悠平に託した。
 だから、今恵那に必要なのは自分達三年じゃなく、恵那を慕っているこの番犬みたいな存在だろう。

「これからしばらく、死ぬほど忙しいからな、恵那は。おまえがフォローしてやれよ。来年定演のメインで動くのはおまえらの代なんだから」
 徹が言うと辰巳も横で頷いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...