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一方涼は。
コンサートの片付けを終え、帰ろうとしたけれど恵那を見つけられないでいて。
もしかしたら芝崎らと打ち上げでもあるのかと踏んで、仕方なく三宅と一緒に帰路についた。
三宅も自転車通学だから、いつものように自転車小屋経由でバス停に着く。
恵那の自転車がまだそこにあることに気付いて、ちょっとだけ引っかかってしまったけれど。
でもそんなこと、もう気にしてはいけないこと。
だってえなはもう僕のえなじゃない。
誰とどんな行動をしていようと、それは彼の自由。
それが今の自分達の関係だから。
「佐竹。俺はさ、多分ずっとこの感情と付き合ってくつもりなんだ」
バスの姿が見えた瞬間、ふと三宅が真面目な顔をした。
「え?」
「だから、もし聞いて欲しい話があればいつでも聞くし、その時は必ず佐竹の味方になるから」
それまではコンサートでアンサンブルが上手く行って良かったとか、一年ももう大丈夫だな、だとか。そんな当り障りのない話をしていただけに、急にわけのわからないことを言い出すから涼が首を傾げる。
「冬休み中、基本的にいつでも空いてるから。音楽室で練習するなら付き合うし」
優しい微笑みを見せた三宅は、でも涼がその意味を理解するより前に。
「じゃあね」
ぽん、と背中を押して涼をバスに乗せた。
「え?」とバスの中で戸惑っている涼に、軽く手を振って自転車で走り去って行く。
「何、今の」
バスの扉が閉まると、茫然と呟いた。
三宅の言葉の意味がわからなくて、頭の中で反芻する。
ずっと付き合ってくこの感情って、何?
聞いて欲しい話、って何?
僕の味方、ってどーゆーこと?
空いていた座席に座って。落ち着いて考えて。
おそらく。
三宅が、今自分が恵那とうまく行っていないことに気付いているのだろう、と思い至った。
別れた、という事実は恐らく知らないだろうけれど、自分と恵那の間にある今までとは違った距離感に、きっと気付いていて。今日、という日に一緒にいないということで、何かしらの悩みを抱えていると確信したのだろう。
イブだよ、イブ。
そりゃ、恋人、って関係じゃなくなった以上、別々に過ごすのは当然かもしれない。でも、“友達”だってクリスマスイブに一緒にいたっていいじゃないか。
と。
涼は思う。
あの日。自分の気持ちに向き合えって言われて。
置き去りにされた一人の部屋で。
後から後から溢れてくる涙と一緒に、自分の感情を一つ一つ吐き出して。
好きなのは、えなだ、と思った。
傍にいたい、横で笑っていたい、それは他の誰でもなく、えなだと思った。
でも。
違うということにも、気付いていて。
キリエの“涼ちゃんは土岐くんに恋してる”というセリフが浮かんだ。
違うよ、恋人はえなだ。
と、思っていた。
いや、今でもそう思いたくて。
けれど、同時に。
得心が行っていたのも、確かで。
ずっと、もやもやしていたキリエと土岐と、自分の関係。
キリエの告白も、土岐がそれ受け入れなかった事実も。
そんなの関係ない、なんて思えなくて。
涼の知らないうちに、抱えた想いをとっとと告げていたキリエ。
あの可愛い可愛いキリエという女の子さえも受け入れることのなかった土岐。
その二人が、自分の心の中を搔き乱して。
恵那との関係に、亀裂を入れたのはそれらの事実。
関係ないはずなのに。
自分が恵那と一緒にいることに、あの二人なんて何も関係ないハズだったのに。
でも、こんなにも自分の心はグズグズに乱された。
土岐と一緒にいるキリエ。
それを想像した瞬間から、胸が苦しくなった。
それに……。
二人きりでいる時に、温かい瞳で包み込むように微笑みかけてくれる土岐に、胸が苦しくなった。
その理由が。
真正面からその事実に向き合った瞬間に、答えが現れる。
“涼ちゃんは、土岐くんに恋してるんだよ。”
悪魔のささやき。
その一言で、恵那と自分の関係はこんなにも崩れた。
一方涼は。
コンサートの片付けを終え、帰ろうとしたけれど恵那を見つけられないでいて。
もしかしたら芝崎らと打ち上げでもあるのかと踏んで、仕方なく三宅と一緒に帰路についた。
三宅も自転車通学だから、いつものように自転車小屋経由でバス停に着く。
恵那の自転車がまだそこにあることに気付いて、ちょっとだけ引っかかってしまったけれど。
でもそんなこと、もう気にしてはいけないこと。
だってえなはもう僕のえなじゃない。
誰とどんな行動をしていようと、それは彼の自由。
それが今の自分達の関係だから。
「佐竹。俺はさ、多分ずっとこの感情と付き合ってくつもりなんだ」
バスの姿が見えた瞬間、ふと三宅が真面目な顔をした。
「え?」
「だから、もし聞いて欲しい話があればいつでも聞くし、その時は必ず佐竹の味方になるから」
それまではコンサートでアンサンブルが上手く行って良かったとか、一年ももう大丈夫だな、だとか。そんな当り障りのない話をしていただけに、急にわけのわからないことを言い出すから涼が首を傾げる。
「冬休み中、基本的にいつでも空いてるから。音楽室で練習するなら付き合うし」
優しい微笑みを見せた三宅は、でも涼がその意味を理解するより前に。
「じゃあね」
ぽん、と背中を押して涼をバスに乗せた。
「え?」とバスの中で戸惑っている涼に、軽く手を振って自転車で走り去って行く。
「何、今の」
バスの扉が閉まると、茫然と呟いた。
三宅の言葉の意味がわからなくて、頭の中で反芻する。
ずっと付き合ってくこの感情って、何?
聞いて欲しい話、って何?
僕の味方、ってどーゆーこと?
空いていた座席に座って。落ち着いて考えて。
おそらく。
三宅が、今自分が恵那とうまく行っていないことに気付いているのだろう、と思い至った。
別れた、という事実は恐らく知らないだろうけれど、自分と恵那の間にある今までとは違った距離感に、きっと気付いていて。今日、という日に一緒にいないということで、何かしらの悩みを抱えていると確信したのだろう。
イブだよ、イブ。
そりゃ、恋人、って関係じゃなくなった以上、別々に過ごすのは当然かもしれない。でも、“友達”だってクリスマスイブに一緒にいたっていいじゃないか。
と。
涼は思う。
あの日。自分の気持ちに向き合えって言われて。
置き去りにされた一人の部屋で。
後から後から溢れてくる涙と一緒に、自分の感情を一つ一つ吐き出して。
好きなのは、えなだ、と思った。
傍にいたい、横で笑っていたい、それは他の誰でもなく、えなだと思った。
でも。
違うということにも、気付いていて。
キリエの“涼ちゃんは土岐くんに恋してる”というセリフが浮かんだ。
違うよ、恋人はえなだ。
と、思っていた。
いや、今でもそう思いたくて。
けれど、同時に。
得心が行っていたのも、確かで。
ずっと、もやもやしていたキリエと土岐と、自分の関係。
キリエの告白も、土岐がそれ受け入れなかった事実も。
そんなの関係ない、なんて思えなくて。
涼の知らないうちに、抱えた想いをとっとと告げていたキリエ。
あの可愛い可愛いキリエという女の子さえも受け入れることのなかった土岐。
その二人が、自分の心の中を搔き乱して。
恵那との関係に、亀裂を入れたのはそれらの事実。
関係ないはずなのに。
自分が恵那と一緒にいることに、あの二人なんて何も関係ないハズだったのに。
でも、こんなにも自分の心はグズグズに乱された。
土岐と一緒にいるキリエ。
それを想像した瞬間から、胸が苦しくなった。
それに……。
二人きりでいる時に、温かい瞳で包み込むように微笑みかけてくれる土岐に、胸が苦しくなった。
その理由が。
真正面からその事実に向き合った瞬間に、答えが現れる。
“涼ちゃんは、土岐くんに恋してるんだよ。”
悪魔のささやき。
その一言で、恵那と自分の関係はこんなにも崩れた。
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