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「お姫様、完成したよお」どおだ、と言わんばかりのキリエのふんぞり返った態度だけれど、そんなの恵那の視界には全く入っていなかった。
「えなあ、おかしくない?」さすがにここまでゴリゴリの女装なんて、見せたことがないから。
白雪姫だった恵那が美人だったのを覚えているだけに、そんなのに敵うとは思えなくて。
「恵那ー、黙ってちゃダメだよお。涼ちゃん、不安になっちゃう」
「……涼……」茫然と名前を呼んで近付く。
隣にいた香は「りょーちゃん、おひめさまだあ」と舌ったらずな声でびっくりした様子を見せているが、さすがは身内、ちゃんと“兄”だとわかるらしい。
「涼」名前を呼んで、でも、あと一歩近づけなくて。
「えな?」
首を傾げた涼が、代わりにキリエから手を放して恵那に近付く。
「わ、ヤバイ、まじヤバイ。ダメだ、これはダメなヤツだ」
「ええー」恵那がバグって小さく首を振ると、頬を染めてしゃがみ込んだ。
「ヤバイ。誰にも見せたくねー……」
今まで言ったことのないことを言い出す。
「なん、それ?」涼が眉を寄せる。
「やっぱ写真部呼ぶのやめよ。ダメだこれ。まじ俺、これ独占したい」
「何言ってんのよ? 恵那が言い出したことでしょ!」キリエが面白そうに笑っているけれど、実際こんなに涼を他の男に見せたくないなんて思ったのは初めてだから。
「だって、ねえ。まじどーなん? キリ、おまえ魔法でも使ったのか? コレ、どっから見ても普通にアイドルじゃん。このままテレビとか出てても全然違和感ねーじゃん」
言っているけれど、涼に手も触れないでいるから。
「えな」と涼が手を伸ばして恵那の腕に触れると「わ、わ、ダメ。近付くな」と逃げてって。
「はあ? 何言ってんのさ? しつれーだなー。そんなにおかしい?」
「ダメだ、俺が触ると穢れる」
そんなバカ丸出しのセリフにキリエが爆笑する。
「恵那、ダメだよお。これはお友達の涼ちゃんだよお。手は出しちゃ、ダメ」
「キリ、やり過ぎだっつの。こんな、どっからどう見ても天使みたいなの、作り上げてどーすんだよ? おまえ、俺コロス気かよ?」
「もお。コレはキリからの誕プレだよ? 写真撮影終わった後、このまんまの涼ちゃんとデートなんて最高でしょ?」
キリエの発言に、恵那と涼二人で「あ」と声を上げて。
「涼ちゃんのお部屋には、メイク落としとか除光液とか全部セットで準備してる。お洋服も、返すの全然いつでも構わないし。せっかくだから可愛い涼ちゃんのこと、しっかりタンノーしてね」
恵那と涼の関係を、把握しているのかしていないのか。微妙なニュアンスでキリエが笑う。
「じゃあ、キリはもういっぱい楽しんだし、可愛い涼ちゃんのお写真もいっぱい撮ったからもう帰るね」
「え? きーちゃん撮影、見て行かないの?」
「キリがいたらお邪魔でしょ? ホンモノのJKなめんな、ってヤツだよ」
実際、女装した涼に負けずとも劣らないキリエだから。写真部が見ればもしかしたらこっちがいいと言い出すかもしれないけれど。
「ふふふ。ま、天使な涼ちゃんには敵わないけどね。それと、写真部さんのプロっぽいお写真、出来上がったらキリにも見せてねー」
くすくす笑いながらキリエはそう言って手を振り、とっとと帰って行った。
二人共茫然と見送るしかできなくて。ぼーっと突っ立っていると。
香が涼の足元に近付いてきた。
「りょーちゃん、だっこ」と手を伸ばしてきたから、
「おっと。香。これはお姫様だからダメだよー。代わりに俺が抱っこしてやっから」と慌てて横から攫う。
「りょーちゃんはおひめさまなの?」
「そーだよ。このお姫様は俺のだからね。今日は香、ごめんけど涼は渡せねーんだわ」
「香ちゃんに何言ってんの?」誰に対してマウント取ってんだよ、と涼が突っ込む。
「りょーちゃんは、えなのおひめさま?」
「そーだよ。今からこのお姫様はねー、ちょっとだけお仕事あるから香は馬場さんとイイコにしててね」
「えなは?」「俺? 俺はこのお姫様、護ってやんなきゃね。俺、王子様だからさ」
「えな、おうじさま?」
「そ。見えない?」
「みえるー。じゃあ、おうじさまだから、えなはりょーちゃんとけっこんしてー、すえながくしあわせになりました、になるの?」
何の絵本を読んだのか、香がそんな可愛いことを言い出す。
「そだね。俺が涼を末永く幸せにしてやるよ」
「いいなー、おひめさま。かおるは?」
「香にはちゃんと、他に王子様が現れるからね。おっきくなって、王子様と出逢ったらそいつに幸せにして貰いな?」
自分の王子様が恵那じゃないことを知って、香がちょっとだけ拗ねた顔をして見せた。齢六歳にして、既に女である。
「えなあ、おかしくない?」さすがにここまでゴリゴリの女装なんて、見せたことがないから。
白雪姫だった恵那が美人だったのを覚えているだけに、そんなのに敵うとは思えなくて。
「恵那ー、黙ってちゃダメだよお。涼ちゃん、不安になっちゃう」
「……涼……」茫然と名前を呼んで近付く。
隣にいた香は「りょーちゃん、おひめさまだあ」と舌ったらずな声でびっくりした様子を見せているが、さすがは身内、ちゃんと“兄”だとわかるらしい。
「涼」名前を呼んで、でも、あと一歩近づけなくて。
「えな?」
首を傾げた涼が、代わりにキリエから手を放して恵那に近付く。
「わ、ヤバイ、まじヤバイ。ダメだ、これはダメなヤツだ」
「ええー」恵那がバグって小さく首を振ると、頬を染めてしゃがみ込んだ。
「ヤバイ。誰にも見せたくねー……」
今まで言ったことのないことを言い出す。
「なん、それ?」涼が眉を寄せる。
「やっぱ写真部呼ぶのやめよ。ダメだこれ。まじ俺、これ独占したい」
「何言ってんのよ? 恵那が言い出したことでしょ!」キリエが面白そうに笑っているけれど、実際こんなに涼を他の男に見せたくないなんて思ったのは初めてだから。
「だって、ねえ。まじどーなん? キリ、おまえ魔法でも使ったのか? コレ、どっから見ても普通にアイドルじゃん。このままテレビとか出てても全然違和感ねーじゃん」
言っているけれど、涼に手も触れないでいるから。
「えな」と涼が手を伸ばして恵那の腕に触れると「わ、わ、ダメ。近付くな」と逃げてって。
「はあ? 何言ってんのさ? しつれーだなー。そんなにおかしい?」
「ダメだ、俺が触ると穢れる」
そんなバカ丸出しのセリフにキリエが爆笑する。
「恵那、ダメだよお。これはお友達の涼ちゃんだよお。手は出しちゃ、ダメ」
「キリ、やり過ぎだっつの。こんな、どっからどう見ても天使みたいなの、作り上げてどーすんだよ? おまえ、俺コロス気かよ?」
「もお。コレはキリからの誕プレだよ? 写真撮影終わった後、このまんまの涼ちゃんとデートなんて最高でしょ?」
キリエの発言に、恵那と涼二人で「あ」と声を上げて。
「涼ちゃんのお部屋には、メイク落としとか除光液とか全部セットで準備してる。お洋服も、返すの全然いつでも構わないし。せっかくだから可愛い涼ちゃんのこと、しっかりタンノーしてね」
恵那と涼の関係を、把握しているのかしていないのか。微妙なニュアンスでキリエが笑う。
「じゃあ、キリはもういっぱい楽しんだし、可愛い涼ちゃんのお写真もいっぱい撮ったからもう帰るね」
「え? きーちゃん撮影、見て行かないの?」
「キリがいたらお邪魔でしょ? ホンモノのJKなめんな、ってヤツだよ」
実際、女装した涼に負けずとも劣らないキリエだから。写真部が見ればもしかしたらこっちがいいと言い出すかもしれないけれど。
「ふふふ。ま、天使な涼ちゃんには敵わないけどね。それと、写真部さんのプロっぽいお写真、出来上がったらキリにも見せてねー」
くすくす笑いながらキリエはそう言って手を振り、とっとと帰って行った。
二人共茫然と見送るしかできなくて。ぼーっと突っ立っていると。
香が涼の足元に近付いてきた。
「りょーちゃん、だっこ」と手を伸ばしてきたから、
「おっと。香。これはお姫様だからダメだよー。代わりに俺が抱っこしてやっから」と慌てて横から攫う。
「りょーちゃんはおひめさまなの?」
「そーだよ。このお姫様は俺のだからね。今日は香、ごめんけど涼は渡せねーんだわ」
「香ちゃんに何言ってんの?」誰に対してマウント取ってんだよ、と涼が突っ込む。
「りょーちゃんは、えなのおひめさま?」
「そーだよ。今からこのお姫様はねー、ちょっとだけお仕事あるから香は馬場さんとイイコにしててね」
「えなは?」「俺? 俺はこのお姫様、護ってやんなきゃね。俺、王子様だからさ」
「えな、おうじさま?」
「そ。見えない?」
「みえるー。じゃあ、おうじさまだから、えなはりょーちゃんとけっこんしてー、すえながくしあわせになりました、になるの?」
何の絵本を読んだのか、香がそんな可愛いことを言い出す。
「そだね。俺が涼を末永く幸せにしてやるよ」
「いいなー、おひめさま。かおるは?」
「香にはちゃんと、他に王子様が現れるからね。おっきくなって、王子様と出逢ったらそいつに幸せにして貰いな?」
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