コレは誰の姫ですか?

月那

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「おい土岐。あれ、涼っちやないか?」
 部活帰り、校門へと続く道を土岐と響が歩いていると、涼の姿があった。
 同じく部活帰りだと思われるが、それならば必ずいるハズの恵那がいない。
 しかも。

「あれ、なんか変なのに絡まれてへんか?」
 数人の生徒に囲まれて、何やら眉を顰めていて。
 涼が小さいからか、言い寄っているのはかなり大柄な男たちのように見えて、土岐と響が慌てて駆け寄った。

「おい、涼! 大丈夫か?」
 と、ちょっと大きめの声で土岐の言葉が声をかけると、涼がくるんと目を向けて「あ、土岐。に、響も。部活帰り?」なんて普通に問いかけて来て。
 思っていた以上に平常な様子に拍子抜けしてしまう。

「そりゃまあ……てか、涼っち、こいつら何やのん?」
「あー、なんか、写真部の皆さん、だそーです」
 さらっと答えてくれた。
「あ……そ。てっきりカツアゲでもされとるんか思て慌てたんやけど」
「んー、ある意味脅されてるっちゃー、脅されてるかも?」
 と苦笑いして涼が写真部だという男を見上げた。

「とんでもないです! 脅すなんてそんな! 俺ら、佐竹先輩にお願いしたいだけです!」

 遠目に大柄だと思っていたけれど、何のことはないただ身長が高いだけの大人しそうなヤツで。しかも“先輩”ということは。
「一年か?」
 よく見てみればネクタイの色は一年生。

「なんかねー、僕に、写真のモデルになってって」
「そうなんです! もう、とにかくこの、美しい先輩の姿を、俺らは今度の写真展に出品したいんです!」
「美しいって……」
「だって! 先輩方も見てください! この……こんなに可愛い女子高生なんて、普通いますか?」

 話が全く見えなくて、あっけに取られていた響と土岐だったが、写真部の一年――川島と言った――が自分のスマホを開いて見せてきて。
「この、世にも珍しいうちの学校の女子用制服なんてのを着て、天使の微笑みを見せている美少女! これの正体が佐竹先輩だと知った我々の衝撃が、わかって頂けますか!」
 興奮して鼻息も荒く、まるで印籠でも見せつけるかのようにその写真を掲げた。

 何だ? と二人が目を凝らして見てみるとそこには。
 明らかにうちの校章の入ったうちの制服らしいのに、ちょっとだけデザインが違う、うちの制服だとしか思えないのに、絶対にうちの制服じゃない、スカート姿の美少女が写っていて。
 川島が“天使の微笑み”とはよく言ったもので、何のタイミングかはわからないが、幸せそうにふわりと花の咲いたような笑顔の涼が、見事にその制服を着こなしている。

 はっきりと、それは涼である。
 が、その恰好のせいでその姿はどこからどう見てもただの……いや、ちょっとしたアイドルにでもいそうなレベルの女の子でしかなくて。

「これ……涼っち、だよな?」と響が茫然としながら言って。
「うー……まさか、写真が外部に出るなんて思ってなかったよお」涼が完全に困り顔で腕を組む。

「これは、何だ? 制服……作ったってことか?」土岐も“何のコスプレだよ”と眉根を寄せて涼を見て来て。
「あのね……えっと。それ、吹部のなんだよね。なんか、昔共学化の話が一瞬だけ出たらしくて、そん時の名残? みたいな?」
 なんでそんなものが吹部にあるのか、なんて。説明するのもめんどくさい。

「そんでー、なんか毎年恒例行事として一年のヤツがそのカッコすんだけど。なぜか僕、二年連続それ着させられちゃったの」
 開き直ってしまえばどうってことのない恰好だったから、涼としても“その場限りの宴会芸”として着替えたけれど。まさかその写真が外部に流出してるなんて想定外で。
 一応、部長からは「門外不出」ってお約束、だったハズなんだけど。

「めっっっちゃくちゃ、可愛いやんか」タメにタメて響が言う。
「でしょう? めっっっちゃくちゃ、可愛いでしょう?」川島が、リピる。
「うん、もうほんま、めっっっちゃくちゃ、可愛い」
「しつこい!」涼がツッコんだ。恵那のせいでツッコミ役も慣れたモノである。
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