168 / 231
<5>
☆☆☆
しおりを挟む
☆☆☆
今年の吹部のステージは。
メインは第二部のスタート。舞台にプロジェクションマッピングを投影し、更にレーザーや紙吹雪を使った演出でホール内を神秘的な空間にする。
三年生でプログラミングを趣味でやっている者がいたから、徹たちが早くから発注をかけて緻密な映像を作成して貰っていて。
曲もそれに併せている。ウッドベース担当がエレキベースに持ち替えて、ついでにちょっと軽音楽部にも声をかけてギターやキーボードなどの電子音を吹奏楽に混ぜている。近藤が軽音楽部でギターとトランペットをやっているから、彼の人脈である。
普段の吹部とは雰囲気が全然違うから、第一部の王道吹奏楽曲の舞台とは同じ人間が演奏しているなんて思えないくらいで。
そこから洋楽の耳なじみのある曲をいくつか演奏すると、今度はノリノリダンスブロックに入る。
もはや、踊るのが定番になってきたようで、恵那を始めとする数人が踊りまくっていた。
そんなステージが終わると、だから三年生だけじゃなく恵那もぐったりしていて。
やりきった感満載の三年生は、片付けと共に音楽室で死んでいたし、同じように恵那もグダるつもりでいたけれど、涼から「後夜祭、一緒にいたい」なんて言われたらそんなの、疲れも吹っ飛ぶわけで。
「あれ、かっこよかったよ」
グランドの片隅で二人並んで座って。一緒にジュースを飲みながら、涼が言う。
「あれって? 俺全部カッコいいじゃん」いつもの恵那らしいセリフに、
「えっと、BTS、だっけ? メドレーの中で踊ってたヤツ。僕あれ、ずっと裏打ちだからリズムだけ刻んどいてあとはダンス見てた」ちょっとフリをマネて見せるから。
「涼も一緒に踊れば良かったじゃん」
「やだよお。僕えなみたく、人前で踊るなんて恥ずかしいコトできない」
「なんでそれが恥ずかしいコトなんだよ、シツレーなヤツだな」
ここでもっと恥ずかしいコトしてやろうか、なんて言って涼の顎を摘まむ。
「もお、ばか。てゆーか、なんかうちの吹部って踊るのが当たり前みたくなってない? 僕ダンス部入ったつもりないんだけどなー」
「楽しいだろ?」
「楽しいよお。けど、なんか違くない?」
「いんだよ、楽しければそれで」
二人してくすくす笑う。
もうすっかり陽が落ちて、メインステージの灯りがやたらと明るい。
今年も“ミスコン”の発表はしているけれど、自分の名前が呼ばれても涼は完全放置していて。
ファンクラブの方々が異様なくらい盛り上がっていたから、そちらに任せた。
あそこで祀り上げられているのは“アイドル佐竹涼”であって、自分じゃない。
「やっぱ、涼がクイーンってのが自然だよな」
「みんなが思ってる僕の虚像が、でしょ。そんなの実在なんかしないんだよ。だって僕はもう、こんなにも男らしくなっちゃったからね」
恵那のマネをして、力こぶなんて全然出ないけれどマッチョポーズをしてドヤってみせた。
「何? また背、伸びた?」
「伸びた! 三センチ!」
「お、凄いじゃん。今何センチだっけ?」
「百六十五! 来年の春にはえな、越してるかもねー」
鼻息荒いけれど、恵那はくふと笑って流す。
「あでも。僕が可愛くなくなったら、えな、僕のこと好きじゃなくなるかなあ?」
ちょっとだけ、不安な顔をして。
「そーだなー。涼がマッチョんなったら俺、潰されるかもしれんからなー」
「大丈夫だよ! 僕がでっかくなったらえなのこと抱いてあげるから!」
「はいはい、可愛い可愛い」
有り得んから、と涼の小さな頭をぎゅっと抱き寄せる。
今年の吹部のステージは。
メインは第二部のスタート。舞台にプロジェクションマッピングを投影し、更にレーザーや紙吹雪を使った演出でホール内を神秘的な空間にする。
三年生でプログラミングを趣味でやっている者がいたから、徹たちが早くから発注をかけて緻密な映像を作成して貰っていて。
曲もそれに併せている。ウッドベース担当がエレキベースに持ち替えて、ついでにちょっと軽音楽部にも声をかけてギターやキーボードなどの電子音を吹奏楽に混ぜている。近藤が軽音楽部でギターとトランペットをやっているから、彼の人脈である。
普段の吹部とは雰囲気が全然違うから、第一部の王道吹奏楽曲の舞台とは同じ人間が演奏しているなんて思えないくらいで。
そこから洋楽の耳なじみのある曲をいくつか演奏すると、今度はノリノリダンスブロックに入る。
もはや、踊るのが定番になってきたようで、恵那を始めとする数人が踊りまくっていた。
そんなステージが終わると、だから三年生だけじゃなく恵那もぐったりしていて。
やりきった感満載の三年生は、片付けと共に音楽室で死んでいたし、同じように恵那もグダるつもりでいたけれど、涼から「後夜祭、一緒にいたい」なんて言われたらそんなの、疲れも吹っ飛ぶわけで。
「あれ、かっこよかったよ」
グランドの片隅で二人並んで座って。一緒にジュースを飲みながら、涼が言う。
「あれって? 俺全部カッコいいじゃん」いつもの恵那らしいセリフに、
「えっと、BTS、だっけ? メドレーの中で踊ってたヤツ。僕あれ、ずっと裏打ちだからリズムだけ刻んどいてあとはダンス見てた」ちょっとフリをマネて見せるから。
「涼も一緒に踊れば良かったじゃん」
「やだよお。僕えなみたく、人前で踊るなんて恥ずかしいコトできない」
「なんでそれが恥ずかしいコトなんだよ、シツレーなヤツだな」
ここでもっと恥ずかしいコトしてやろうか、なんて言って涼の顎を摘まむ。
「もお、ばか。てゆーか、なんかうちの吹部って踊るのが当たり前みたくなってない? 僕ダンス部入ったつもりないんだけどなー」
「楽しいだろ?」
「楽しいよお。けど、なんか違くない?」
「いんだよ、楽しければそれで」
二人してくすくす笑う。
もうすっかり陽が落ちて、メインステージの灯りがやたらと明るい。
今年も“ミスコン”の発表はしているけれど、自分の名前が呼ばれても涼は完全放置していて。
ファンクラブの方々が異様なくらい盛り上がっていたから、そちらに任せた。
あそこで祀り上げられているのは“アイドル佐竹涼”であって、自分じゃない。
「やっぱ、涼がクイーンってのが自然だよな」
「みんなが思ってる僕の虚像が、でしょ。そんなの実在なんかしないんだよ。だって僕はもう、こんなにも男らしくなっちゃったからね」
恵那のマネをして、力こぶなんて全然出ないけれどマッチョポーズをしてドヤってみせた。
「何? また背、伸びた?」
「伸びた! 三センチ!」
「お、凄いじゃん。今何センチだっけ?」
「百六十五! 来年の春にはえな、越してるかもねー」
鼻息荒いけれど、恵那はくふと笑って流す。
「あでも。僕が可愛くなくなったら、えな、僕のこと好きじゃなくなるかなあ?」
ちょっとだけ、不安な顔をして。
「そーだなー。涼がマッチョんなったら俺、潰されるかもしれんからなー」
「大丈夫だよ! 僕がでっかくなったらえなのこと抱いてあげるから!」
「はいはい、可愛い可愛い」
有り得んから、と涼の小さな頭をぎゅっと抱き寄せる。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる