コレは誰の姫ですか?

月那

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 今年の吹部のステージは。
 メインは第二部のスタート。舞台にプロジェクションマッピングを投影し、更にレーザーや紙吹雪を使った演出でホール内を神秘的な空間にする。
 三年生でプログラミングを趣味でやっている者がいたから、徹たちが早くから発注をかけて緻密な映像を作成して貰っていて。
 曲もそれに併せている。ウッドベース担当がエレキベースに持ち替えて、ついでにちょっと軽音楽部にも声をかけてギターやキーボードなどの電子音を吹奏楽に混ぜている。近藤が軽音楽部でギターとトランペットをやっているから、彼の人脈である。

 普段の吹部とは雰囲気が全然違うから、第一部の王道吹奏楽曲の舞台とは同じ人間が演奏しているなんて思えないくらいで。
 そこから洋楽の耳なじみのある曲をいくつか演奏すると、今度はノリノリダンスブロックに入る。
 もはや、踊るのが定番になってきたようで、恵那を始めとする数人が踊りまくっていた。

 そんなステージが終わると、だから三年生だけじゃなく恵那もぐったりしていて。
 やりきった感満載の三年生は、片付けと共に音楽室で死んでいたし、同じように恵那もグダるつもりでいたけれど、涼から「後夜祭、一緒にいたい」なんて言われたらそんなの、疲れも吹っ飛ぶわけで。

「あれ、かっこよかったよ」
 グランドの片隅で二人並んで座って。一緒にジュースを飲みながら、涼が言う。
「あれって? 俺全部カッコいいじゃん」いつもの恵那らしいセリフに、
「えっと、BTS、だっけ? メドレーの中で踊ってたヤツ。僕あれ、ずっと裏打ちだからリズムだけ刻んどいてあとはダンス見てた」ちょっとフリをマネて見せるから。
「涼も一緒に踊れば良かったじゃん」
「やだよお。僕えなみたく、人前で踊るなんて恥ずかしいコトできない」
「なんでそれが恥ずかしいコトなんだよ、シツレーなヤツだな」
 ここでもっと恥ずかしいコトしてやろうか、なんて言って涼の顎を摘まむ。

「もお、ばか。てゆーか、なんかうちの吹部って踊るのが当たり前みたくなってない? 僕ダンス部入ったつもりないんだけどなー」
「楽しいだろ?」
「楽しいよお。けど、なんか違くない?」
「いんだよ、楽しければそれで」
 二人してくすくす笑う。

 もうすっかり陽が落ちて、メインステージの灯りがやたらと明るい。
 今年も“ミスコン”の発表はしているけれど、自分の名前が呼ばれても涼は完全放置していて。
 ファンクラブの方々が異様なくらい盛り上がっていたから、そちらに任せた。
 あそこで祀り上げられているのは“アイドル佐竹涼”であって、自分じゃない。

「やっぱ、涼がクイーンってのが自然だよな」
「みんなが思ってる僕の虚像が、でしょ。そんなの実在なんかしないんだよ。だって僕はもう、こんなにも男らしくなっちゃったからね」
 恵那のマネをして、力こぶなんて全然出ないけれどマッチョポーズをしてドヤってみせた。

「何? また背、伸びた?」
「伸びた! 三センチ!」
「お、凄いじゃん。今何センチだっけ?」
「百六十五! 来年の春にはえな、越してるかもねー」
 鼻息荒いけれど、恵那はくふと笑って流す。

「あでも。僕が可愛くなくなったら、えな、僕のこと好きじゃなくなるかなあ?」
 ちょっとだけ、不安な顔をして。
「そーだなー。涼がマッチョんなったら俺、潰されるかもしれんからなー」
「大丈夫だよ! 僕がでっかくなったらえなのこと抱いてあげるから!」
「はいはい、可愛い可愛い」
 有り得んから、と涼の小さな頭をぎゅっと抱き寄せる。

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