コレは誰の姫ですか?

月那

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「涼ちゃんさん、もしかしてお茶の先生はかのう先生だったりしませんか?」
 キリエの隣でお茶を飲んでいた櫻子が、涼に話しかけてきた。
「うん、叶先生。僕のお師匠は息子さんの方の梅之助先生だよー」
「やっぱり。私も叶先生に師事してますの。先生の“楽しまなくちゃお茶じゃない”っておっしゃってるのが、伝わって来ますわ」
 お嬢様な櫻子も、当然のようにお茶を習っているらしく。

「そうそう、楽しい先生だよねー。でも、ちゃんとした正式の場で恥をかかない為にも、きちんとしたお作法はしっかり覚えなさいっていつも言われてたよお。まあ、僕は高校入ってやめちゃったから、完全に忘れちゃってるんだけど」
 習い事としては中学を卒業した時点で辞めたけれど、普通に付き合いのある茶道家なので、連絡は取れるし道具もすぐに用意して貰えた。
 むしろ、お茶に興味を持ってくれて嬉しいと喜んでいたから、レッスンで使用している安価なお茶碗もごっそり貸してくれたのだ。

「サク、習いごとで毎日大変そうだよな。ただでさえ部活忙しいのに、お茶にお花、ピアノに英会話と中国語会話だろ。休みなんかないもんなー」
 いかにもお嬢様な雰囲気でゆったりとした空気を纏っている櫻子と、相反するボーイッシュな星羅。
 星羅は「自分抹茶苦手なんで」とほうじ茶を注文。選んだフルーツ大福とお茶を持って現れたのは涼の友人である橋本だが、この床几台のハイレベル女子たちに完全にビビってしまって、お盆を手渡したらとっとと逃げて行った。

「そんなに習ってるの? そりゃ大変だねえ。僕なんて、部活やるからって高校入った瞬間に全部辞めちゃった」
 部活の為だけじゃなく、“後継者”の肩書も捨てたいと思っていたから。
それでもこれだけはどこにおいても必要だからと英会話だけは密かにオンラインで受講していたりはする。
「生活のルーティンだと思ってしまえば、特に何の問題もありませんよ。楽器の練習だって同じだもの」
 ふふふ、なんて品よく微笑んで。櫻子の一つ一つの所作が丁寧でとても綺麗だから、きっと自分なんて足元にも及ばないお嬢様なんだろうな、なんて想像する。

「りょおー、そろそろチェンジ」
 恵那が言って、涼の腕を掴んで無理矢理“タッチ”。
「俺がやると他の奴らがやっかむからさ。点てるのはプロに任す」
 そりゃ恵那が一番カッコいいなんて涼だって思っているけれど。

「僕だってプロじゃないし……あ、きーちゃん、この後土岐たちのトコ行く?」
 涼が立ち上がる。キリエたちの接客は恵那と交代して。
「うん、行くよー」
「多目的ルーム、一階の一番広いお部屋だよ」
「教室じゃないんだ?」
「行ってみて。きーちゃんなら楽しめるんじゃないかな?」
 女の子グループにもちゃんと対応すると響が言っていたから、涼が笑ってススめておく。ちょっとだけ試しにやってみたら、恵那が「いい加減にせえ」と響に止められるまで延々楽しんでいた。涼としては、怖すぎてすぐにリタイアしたけれど。

「何なにー? 面白いコト、やってんの?」
「サバゲー。キリ、ハマったら今度一緒に遊びに行こうぜ」
 恵那がくふくふ嗤う。

「じゃあゆっくりしてって。僕、お茶頑張るから」
 恵那が“高嶺の花”な女の子対応に当たったことで、とりあえず教室のその一角だけはもはや別世界となっていた。

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