167 / 231
<5>
☆☆☆
しおりを挟む
「涼ちゃんさん、もしかしてお茶の先生は叶先生だったりしませんか?」
キリエの隣でお茶を飲んでいた櫻子が、涼に話しかけてきた。
「うん、叶先生。僕のお師匠は息子さんの方の梅之助先生だよー」
「やっぱり。私も叶先生に師事してますの。先生の“楽しまなくちゃお茶じゃない”っておっしゃってるのが、伝わって来ますわ」
お嬢様な櫻子も、当然のようにお茶を習っているらしく。
「そうそう、楽しい先生だよねー。でも、ちゃんとした正式の場で恥をかかない為にも、きちんとしたお作法はしっかり覚えなさいっていつも言われてたよお。まあ、僕は高校入ってやめちゃったから、完全に忘れちゃってるんだけど」
習い事としては中学を卒業した時点で辞めたけれど、普通に付き合いのある茶道家なので、連絡は取れるし道具もすぐに用意して貰えた。
むしろ、お茶に興味を持ってくれて嬉しいと喜んでいたから、レッスンで使用している安価なお茶碗もごっそり貸してくれたのだ。
「サク、習いごとで毎日大変そうだよな。ただでさえ部活忙しいのに、お茶にお花、ピアノに英会話と中国語会話だろ。休みなんかないもんなー」
いかにもお嬢様な雰囲気でゆったりとした空気を纏っている櫻子と、相反するボーイッシュな星羅。
星羅は「自分抹茶苦手なんで」とほうじ茶を注文。選んだフルーツ大福とお茶を持って現れたのは涼の友人である橋本だが、この床几台のハイレベル女子たちに完全にビビってしまって、お盆を手渡したらとっとと逃げて行った。
「そんなに習ってるの? そりゃ大変だねえ。僕なんて、部活やるからって高校入った瞬間に全部辞めちゃった」
部活の為だけじゃなく、“後継者”の肩書も捨てたいと思っていたから。
それでもこれだけはどこにおいても必要だからと英会話だけは密かにオンラインで受講していたりはする。
「生活のルーティンだと思ってしまえば、特に何の問題もありませんよ。楽器の練習だって同じだもの」
ふふふ、なんて品よく微笑んで。櫻子の一つ一つの所作が丁寧でとても綺麗だから、きっと自分なんて足元にも及ばないお嬢様なんだろうな、なんて想像する。
「りょおー、そろそろチェンジ」
恵那が言って、涼の腕を掴んで無理矢理“タッチ”。
「俺がやると他の奴らがやっかむからさ。点てるのはプロに任す」
そりゃ恵那が一番カッコいいなんて涼だって思っているけれど。
「僕だってプロじゃないし……あ、きーちゃん、この後土岐たちのトコ行く?」
涼が立ち上がる。キリエたちの接客は恵那と交代して。
「うん、行くよー」
「多目的ルーム、一階の一番広いお部屋だよ」
「教室じゃないんだ?」
「行ってみて。きーちゃんなら楽しめるんじゃないかな?」
女の子グループにもちゃんと対応すると響が言っていたから、涼が笑ってススめておく。ちょっとだけ試しにやってみたら、恵那が「いい加減にせえ」と響に止められるまで延々楽しんでいた。涼としては、怖すぎてすぐにリタイアしたけれど。
「何なにー? 面白いコト、やってんの?」
「サバゲー。キリ、ハマったら今度一緒に遊びに行こうぜ」
恵那がくふくふ嗤う。
「じゃあゆっくりしてって。僕、お茶頑張るから」
恵那が“高嶺の花”な女の子対応に当たったことで、とりあえず教室のその一角だけはもはや別世界となっていた。
キリエの隣でお茶を飲んでいた櫻子が、涼に話しかけてきた。
「うん、叶先生。僕のお師匠は息子さんの方の梅之助先生だよー」
「やっぱり。私も叶先生に師事してますの。先生の“楽しまなくちゃお茶じゃない”っておっしゃってるのが、伝わって来ますわ」
お嬢様な櫻子も、当然のようにお茶を習っているらしく。
「そうそう、楽しい先生だよねー。でも、ちゃんとした正式の場で恥をかかない為にも、きちんとしたお作法はしっかり覚えなさいっていつも言われてたよお。まあ、僕は高校入ってやめちゃったから、完全に忘れちゃってるんだけど」
習い事としては中学を卒業した時点で辞めたけれど、普通に付き合いのある茶道家なので、連絡は取れるし道具もすぐに用意して貰えた。
むしろ、お茶に興味を持ってくれて嬉しいと喜んでいたから、レッスンで使用している安価なお茶碗もごっそり貸してくれたのだ。
「サク、習いごとで毎日大変そうだよな。ただでさえ部活忙しいのに、お茶にお花、ピアノに英会話と中国語会話だろ。休みなんかないもんなー」
いかにもお嬢様な雰囲気でゆったりとした空気を纏っている櫻子と、相反するボーイッシュな星羅。
星羅は「自分抹茶苦手なんで」とほうじ茶を注文。選んだフルーツ大福とお茶を持って現れたのは涼の友人である橋本だが、この床几台のハイレベル女子たちに完全にビビってしまって、お盆を手渡したらとっとと逃げて行った。
「そんなに習ってるの? そりゃ大変だねえ。僕なんて、部活やるからって高校入った瞬間に全部辞めちゃった」
部活の為だけじゃなく、“後継者”の肩書も捨てたいと思っていたから。
それでもこれだけはどこにおいても必要だからと英会話だけは密かにオンラインで受講していたりはする。
「生活のルーティンだと思ってしまえば、特に何の問題もありませんよ。楽器の練習だって同じだもの」
ふふふ、なんて品よく微笑んで。櫻子の一つ一つの所作が丁寧でとても綺麗だから、きっと自分なんて足元にも及ばないお嬢様なんだろうな、なんて想像する。
「りょおー、そろそろチェンジ」
恵那が言って、涼の腕を掴んで無理矢理“タッチ”。
「俺がやると他の奴らがやっかむからさ。点てるのはプロに任す」
そりゃ恵那が一番カッコいいなんて涼だって思っているけれど。
「僕だってプロじゃないし……あ、きーちゃん、この後土岐たちのトコ行く?」
涼が立ち上がる。キリエたちの接客は恵那と交代して。
「うん、行くよー」
「多目的ルーム、一階の一番広いお部屋だよ」
「教室じゃないんだ?」
「行ってみて。きーちゃんなら楽しめるんじゃないかな?」
女の子グループにもちゃんと対応すると響が言っていたから、涼が笑ってススめておく。ちょっとだけ試しにやってみたら、恵那が「いい加減にせえ」と響に止められるまで延々楽しんでいた。涼としては、怖すぎてすぐにリタイアしたけれど。
「何なにー? 面白いコト、やってんの?」
「サバゲー。キリ、ハマったら今度一緒に遊びに行こうぜ」
恵那がくふくふ嗤う。
「じゃあゆっくりしてって。僕、お茶頑張るから」
恵那が“高嶺の花”な女の子対応に当たったことで、とりあえず教室のその一角だけはもはや別世界となっていた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる