コレは誰の姫ですか?

月那

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 柄杓を使い、お湯をそっと抹茶茶碗に入れる。少し待って茶碗を温めて、頃合いを見てお湯を用意しておいた桶にそっと流し、温まった茶碗をそっと手ぬぐいで拭いて。
 茶杓に抹茶を掬い取って茶碗に入れ、再び柄杓でお湯を注ぐと茶筅でゆっくりと掻き混ぜる。
 最終的に手早く綺麗にキメ細かい泡を作ったら、静かに茶筅を戻し立てる。

 総ての所作、音を立てずに指先まで集中しているのは、もったいぶって綺麗に見せる為。
 完全素人なので、こんなのハッタリをかましたモン勝ちである。

 涼が一連の動きを静かに行っている間、キリエはそれをじっと見つめていて。
「はい、きーちゃん。どうぞ」
 ふわりと笑顔を添えてお茶碗を手渡してきた涼に、
「涼ちゃん、かあっこいい」と羨望の眼差しと称賛の言葉を伝える。

 和装の男の子たちが接客してくれて、一人ずつちゃんとお茶を点ててくれる和菓子屋さん、という二年C組の“和菓子カフェ”は見事に当たり、女子が廊下で列をなしている。

 教室内にいくつか設置されている野点傘と紅い毛氈をかけた床几台。
 まず、好きな和菓子とお茶を選ぶと、空いている床几台で待つ。抹茶を選んだお客様には、教室の片隅にある御園棚――ホンモノは高価過ぎたのでDIYで作ったなんちゃって御園棚だけど――でお茶を点ててそれとお菓子をお盆に乗せて和服男子が運んでくれる。
 煎茶、もしくはほうじ茶を選んだお客様には、別の卓で丁寧に淹れたお茶を、同様に選んだお菓子と併せて和服男子がサーブするのである。

 クラス全員が和服を着用するということが決まった際、自分でちゃんと和服を持っている者が涼以外にもいた、という事実に恵那はまず驚いた。何気に私立名門校と傍目には言われるだけあって、意外とおぼっちゃまな者もいるらしい。
 そうは言っても、やっぱり涼の自前の和服は正絹のお着物だから、誰の物より高級感に溢れていて。なのにそれをさらっと着こなしているのは、生まれながらのお坊ちゃまクンだろう。

 和服はあっても着付けができる者なんて皆無。涼だって着られるわけがなく。そこは涼が抜かりなく着付け要員を複数確保していて、その中には涼の家の家政婦さんである馬場さんもいたから。
「馬場さん、こんなこともできるんだ?」と着付けてもらいながら恵那が感心すると。
「基本的に、涼様に関わる総ての衣食住は私が管理してますから」とさらっと返された。

「いーなあ、涼ちゃんの学校。キリの学校はね、家族以外観に来れないの。涼ちゃんなんて、イトコなのにダメなんだよお。つまんない」
 さすがはお嬢様女子高。男子禁制、に近い。
 身内の特権でキリエのお茶を涼が点てて、そのまま一緒に床几台に座って少し話す。キリエの横には星羅と櫻子もいる。
 抹茶希望のお客様は後を絶たないから、恵那が涼の代わりに御園棚でお茶を点てているのだが、自他共に認めるイケメンなので、それを見つめる女子の目がキュンキュンしているのがわかる。

 そんなにカタっ苦しい作法は気にしないで、とにかく静かにゆっくり丁寧に、ということだけ指導した。それさえ守れば、誰が点てても殆ど変わらない。だって全員素人なんだから。
 ただ、じっとしていられない性質-タチ-の恵那が、一つ一つの動作を“ゆっくり丁寧に”するのは至難の業のようで、何度か練習で点てていると「ムキーっ」とイラついて茶筅を超高速で掻きまわしたり、茶杓を真っ二つにしそうになったり。
 なのに本番ではそんな素振り一つ見せることなく、丁寧で綺麗な所作ができているのが恵那の凄いところだろう。

 そんな恵那だけでなく、男の和装なんて百難隠してくれるから三割増しでカッコ良くなっているクラス全員、あちらこちらで「写真一緒にお願いします」なんて言われているようで、誰もがニヤついている。
 この分だと全員一丸、とまではいかないものの、彼女をゲットできる者は少なくないだろう。
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