コレは誰の姫ですか?

月那

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「いやまあ、実際のトコさ、おばちゃんのこのオイシイ御飯っちゅーのんが、俺には最高の誕プレやと思うねんかー」
 四人の前で滔々と恵那たちの母を口説いているのは響である。
「まいんちまいんち、冷蔵庫にあるもんでちゃちゃっと美味しいモン作ってくれたりさ、時にはこうやって手の込んだ大ご馳走作ってくれたりするやん? そーゆーのん全部ひっくるめてさ、おばちゃんはほんま、最高のイイ女やねん」
 うん、うん、と頷いて。

 本日響の誕生日会。とにかく「土岐んちでメシ食いたいねん」という響たってのリクエストに応え、双子と涼とキリエが瑞浪家に集合しているわけだが。

 吹奏楽コンクールの支部大会、そしてバスケ部の夏合宿の最終日が昨日の日曜日で、しかも夏休み最終日に当たるこの日、丁度いいからと響の誕生日会を開催することになった。
 実際の誕生日は数日前ではあったが、誰もがそんなことに構っていられる状況ではなく。
 当日はそれぞれがラインでメッセージだけを伝えていた。

「おまえは、かーちゃん口説いてどーするつもりだ?」
 本日のメインディッシュであるところのミートローフを刺したフォークを高々と掲げていた響に、恵那がツッコんでやる。
「もおさ、ウチの合宿はメシがイマイチやねん。なんか、学校給食なら文句ないやろ感があるっつーか。栄養バランスだけはちゃんと考えとんでー、ってのはわかんねんけど、とにかくつまんねーっちゅーか」
 いかにも冷凍食品です、的なハンバーグ定食や、とにかくカレーなら文句ないだろ、というメニューしかなかったバスケ部の合宿で。
 量こそがっつりあったものの、瑞浪家の美味しい食事で舌の肥えている響たちには残念な食事でしかなかったらしい。

「そやからさ、俺の誕生日会してくれんねんやったら、そりゃあぜひともおばちゃんのご馳走がええ、って思うやん?」
「ありがとうねえ、響くん。そんなこと言ってくれんの、キミだけだよ。うちのクソガキどもは黙って腹ん中掻っ込むし、ダンナは冷めたのをチンして食べるだけだし」
 響くんには食べさせ甲斐があるわー、と恵那母がニコニコしている。

「由美ちゃんも、さすがに息子の誕生日なんだからって誘ったんだけど、やだやだってケーキだけ置いて帰ったのよ。響くん、おばちゃんのこと褒めてくれるのは嬉しいけど、ちゃんと由美ちゃんにもお礼言っときなさいよ」
「あー、ダメダメ。オカン、メシはあかんねん。あの人お菓子作りやらパン作りやらはイッパシのモンやけど、メシはからっきしや。手え抜くことしか考えてへん」
 目の前で掌をひらひら振って。
「やけん、俺は土岐の嫁んなったる、ゆーてんねん」
「なんで俺がおまえを嫁に貰わないといけないんだっつの」
 さすがに土岐が眉を寄せて。
「ココん家に嫁に来ておばちゃんの旨いメシ、まいんち食いたい」
「あらー。嫁に来たらあたしは嫁にご飯作らせるわよ?」
 恵那母に返されて「んな殺生なあー」と響が項垂れた。

 一しきり笑った後、母は「じゃああたしは部屋に籠って海外ドラマ観て来るから、後はよろしくねー」とキッチンを出て行った。
「あー、あの人親父の夏ボーナスでプロジェクターのいいヤツ買ったらしくてさ。ここんトコずっと部屋で海外ドラマ、ネットでイッキ見してんの」
「わかる。キリのママも時々なんか観てる。あれってめっちゃハマるらしいねー」
 響たちのやりとりを黙って見ているしかできなかったキリエが、やっと口を開いた。

「そいえば、一時期韓国ドラマにハマってた時、おかあさんと一緒に韓国旅行してたよね」
「最近はアメリカのなんとかってドラマらしいよ。キリは興味ないからわかんないけど」
「じゃあきっと、今度は一緒にアメリカ行こって言い出すんだろうねー」
「かもしんない。でもまだ新婚旅行してないから、英恵さんじゃなくてパパと行っちゃうよ、先に」
 キリエの発言に、「パパって……普通に?」と恐る恐る恵那が問う。
「え? うん、ふっつーにパパだよお。カレシ時代は浦田さんって呼んでたけど」
「仲、いいんだ?」
「あったりまえじゃん。じゃなきゃ、ママ再婚なんかしないよお」

 こんな話は珍しいことじゃないのは、恵那だってわかっているけれど。
 たまたま、自分の周囲にはいなかったから。
 まるでドラマの中の世界のようで、ちょっと戸惑う。
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