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「結局さ、佐竹先輩と恵那先輩ってのは、ちゃんと両想いだってことだろ?」
日向がサンドイッチを齧りながら言う。
一年F組の教室内。悠平、充樹、日向という三人組は当たり前にお弁当持参組として一つのグループになっていて。
学食は特に三年生が幅を利かせているというわけでもなく、一年生も普通に利用しているのだが。なんとなくそれぞれの家庭事情がイイ感じに合うらしく、悠平たちは揃ってお弁当や購買で売っているパンなどを教室の片隅で食べるのが習慣になっていた。
「ん……ん。みたいな、感じ。わかんねーけど、佐竹先輩にもはっきり、言われた」
びっくりするくらい、可愛くて。ちょっとはにかんで「えなの傍離れる気ないから」なんて言っていたその表情は、どこから見てもただただ恵那を好きだと語っていたから。
「てかもー、恵那先輩は凄い、としか言いようがないよね」という充樹の言葉には、恵那に対する尊敬の念が含まれていた。
「ソフト、二年が優勝なんて今までほぼないって話じゃん。野球部とかサッカー部とか、強化部のガチ勢で本気出してるってのに、何であの人吹部で全打席ホームランとかやっちゃうわけ?」
充樹も、最初は悠平たち一年生を応援していたけれど、途中からは完全に恵那に声援を送っていて。
一年生敗退後、一年生の応援団は全員二年生を応援していたのは確実に恵那のせいだろう。
「もはやバケモノだよ、あの人」
悠平が呟いた。
「体幹がさ、すげーしっかりしてんのね。見てたらわかる。ほっそいくせに体のバネ使って全身でバット振るだろ? しかも、球筋ちゃんと見極めるだけの動体視力も備わってるからジャストミートさせてかっ飛ばす。野球やってないのが不思議だもん」
一年生チームでピッチャーをやっていた野球部の友人がアホ面晒すしかなかったらしく。
どこに投げても打たれるから、もう手も足も出ないと悠平にグチっていた。
「あの分だと、バスケのシュート勝負してても俺、負けてたかもしんねー」
弱気な悠平のセリフには、けれども日向が「いや、おまえホームラン勝負恵那先輩に勝ったじゃん」と突っ込む。
「なんか、勝負には勝ったけど恵那先輩ってゆー人間には負けたっつーか」
「なん、それ?」
「ムカつくけどさ。ちゃんと負け、認めてさ。でも、それでも自分が佐竹先輩大事だからちゃんとごめんって俺に謝ったんだよ、あの人」
負けを認める代わりに、ちゃんと佐竹先輩と一緒に頭を下げて。そんなの、自分なんてただの後輩だし、こっちから喧嘩ふっかけたようなモノなんだから、開き直ってしまえばいいのに。
「まあ、実際あんなん見せられたらさ、佐竹先輩が恵那先輩に惚れてんのわかるよ。男から見ても、かっけーもん」
日向も完全に白旗を揚げていて。
「三宅先輩は、ちゃんとそゆの知ってんだろうね」
三宅先輩を尊敬する気持ちは、勿論消えないけれど。でも、恵那先輩の存在がどういうものなのか、なんとなくわかった気がして。
「でも……でもなんか、ムカつく」
まるで駄々っ子のような悠平の言葉に充樹が「子供かよ」と鼻で笑う。
「だって、だってさ。あの人、結局でも絶対、チャラいんだよ!」
そう、ムカつく理由を思い出した。
「だってさ。こないだの交流会ん時さ、あの人辰巳先輩たちと一緒にM女のコ、ナンパしてたんだぜ? 自分、佐竹先輩が大事とか言ってるくせにさ!」
演奏を聴かないでサボってロビーでM女の生徒をナンパしていた恵那の姿。たまたま演奏の合間にトイレに行っていた悠平が見かけて。M女の先生らしき人に注意されて逃げて行く様子を見て、幻滅したのだ。
せっかく尊敬しようとしてたのに。あんなにチャラいとは思わなかった。
実際辰巳先輩でも奏先輩でもなく、その場にいて一番女の子と喋っていたのが恵那だったし。
「結局さ、佐竹先輩と恵那先輩ってのは、ちゃんと両想いだってことだろ?」
日向がサンドイッチを齧りながら言う。
一年F組の教室内。悠平、充樹、日向という三人組は当たり前にお弁当持参組として一つのグループになっていて。
学食は特に三年生が幅を利かせているというわけでもなく、一年生も普通に利用しているのだが。なんとなくそれぞれの家庭事情がイイ感じに合うらしく、悠平たちは揃ってお弁当や購買で売っているパンなどを教室の片隅で食べるのが習慣になっていた。
「ん……ん。みたいな、感じ。わかんねーけど、佐竹先輩にもはっきり、言われた」
びっくりするくらい、可愛くて。ちょっとはにかんで「えなの傍離れる気ないから」なんて言っていたその表情は、どこから見てもただただ恵那を好きだと語っていたから。
「てかもー、恵那先輩は凄い、としか言いようがないよね」という充樹の言葉には、恵那に対する尊敬の念が含まれていた。
「ソフト、二年が優勝なんて今までほぼないって話じゃん。野球部とかサッカー部とか、強化部のガチ勢で本気出してるってのに、何であの人吹部で全打席ホームランとかやっちゃうわけ?」
充樹も、最初は悠平たち一年生を応援していたけれど、途中からは完全に恵那に声援を送っていて。
一年生敗退後、一年生の応援団は全員二年生を応援していたのは確実に恵那のせいだろう。
「もはやバケモノだよ、あの人」
悠平が呟いた。
「体幹がさ、すげーしっかりしてんのね。見てたらわかる。ほっそいくせに体のバネ使って全身でバット振るだろ? しかも、球筋ちゃんと見極めるだけの動体視力も備わってるからジャストミートさせてかっ飛ばす。野球やってないのが不思議だもん」
一年生チームでピッチャーをやっていた野球部の友人がアホ面晒すしかなかったらしく。
どこに投げても打たれるから、もう手も足も出ないと悠平にグチっていた。
「あの分だと、バスケのシュート勝負してても俺、負けてたかもしんねー」
弱気な悠平のセリフには、けれども日向が「いや、おまえホームラン勝負恵那先輩に勝ったじゃん」と突っ込む。
「なんか、勝負には勝ったけど恵那先輩ってゆー人間には負けたっつーか」
「なん、それ?」
「ムカつくけどさ。ちゃんと負け、認めてさ。でも、それでも自分が佐竹先輩大事だからちゃんとごめんって俺に謝ったんだよ、あの人」
負けを認める代わりに、ちゃんと佐竹先輩と一緒に頭を下げて。そんなの、自分なんてただの後輩だし、こっちから喧嘩ふっかけたようなモノなんだから、開き直ってしまえばいいのに。
「まあ、実際あんなん見せられたらさ、佐竹先輩が恵那先輩に惚れてんのわかるよ。男から見ても、かっけーもん」
日向も完全に白旗を揚げていて。
「三宅先輩は、ちゃんとそゆの知ってんだろうね」
三宅先輩を尊敬する気持ちは、勿論消えないけれど。でも、恵那先輩の存在がどういうものなのか、なんとなくわかった気がして。
「でも……でもなんか、ムカつく」
まるで駄々っ子のような悠平の言葉に充樹が「子供かよ」と鼻で笑う。
「だって、だってさ。あの人、結局でも絶対、チャラいんだよ!」
そう、ムカつく理由を思い出した。
「だってさ。こないだの交流会ん時さ、あの人辰巳先輩たちと一緒にM女のコ、ナンパしてたんだぜ? 自分、佐竹先輩が大事とか言ってるくせにさ!」
演奏を聴かないでサボってロビーでM女の生徒をナンパしていた恵那の姿。たまたま演奏の合間にトイレに行っていた悠平が見かけて。M女の先生らしき人に注意されて逃げて行く様子を見て、幻滅したのだ。
せっかく尊敬しようとしてたのに。あんなにチャラいとは思わなかった。
実際辰巳先輩でも奏先輩でもなく、その場にいて一番女の子と喋っていたのが恵那だったし。
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