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「りょーお」
恵那が甘えて来る。
「だから、ね? ちゃんと謝ったんだから、赦して?」
「はあ? 知らない。ね、僕たち別れるんでしょ? じゃあね!」
「も、涼ー、ごめんってば」
甲斐悠平とのホームラン勝負。
一本差で恵那が負けた。
という事実に。
二年C組のソフトボール優勝が決まった瞬間、涼が茫然とした。
「え? どゆこと?」
「えっとー。だから、俺じゃなくてさ、最後野球部の内村が逆転ホームランで勝負決めたじゃん? あれのせいで俺、最後の打席立てなかったわけよ。だから、一本差で負けたの、悠平に」
恵那が言って、優勝に沸いているクラス全員の中で涼に向かって頭を下げていて。
「でも、優勝、した」
「うん、でも勝ち負け関係なかったし。だから、ごめんけど俺と一緒に悠平に謝って?」
と、茫然としている涼の手を引いて一年のソフトチームに連れて行き。
「悠平、わりい。負けたけど、俺涼とは別れらんねーわ」とさらっと言い放った。
決勝戦で一年はとっとと敗退が決まっていたけれど、恵那たち二年が三年に勝ったという事実にはやっぱり下級生としては“下剋上達成!”なんてゆって盛り上がっていたわけで。
「だからさ。ほら、涼もゆってやって」
悠平の前に立たされ、「ね、涼と俺が付き合ってんのは全然無理矢理じゃなくてさ。涼が俺のこと好きなのね」と、何故からぶらぶ証明をさせられて。
「あ……えっと。ごめん、甲斐くん。振り回してほんとにごめんだけど、でも。僕、えなの傍離れる気ないから」
仕方なく、そんな発言をして。
「いや……まあ、それはわかってるっつーか。なんか……自分イキってました。すみませんでした」
何故か悠平も頭を下げた。
恵那に向かって、というよりは涼に向かって。
「ごめんね、甲斐くん。えな、こんなヤツだけど、でも頑張って僕もちゃんと躾するから、赦してね」
「いや、あの。佐竹先輩に謝ってもらうことじゃ、ないっス。全然。気にしないで下さい」
「じゃああの……僕たち、行くね」
頭を下げている悠平に手を振り、へらへら笑っている恵那を引っ張ってその場を離れたけれど。
ここで冒頭に戻る。
「りょーお、怒んないでー」
校内あちこちで勝った負けたと盛り上がっているけれど、二学年棟の裏に行き二人きりになる。
「ね、涼。ほんとにごめんなさい」
「負けたら別れるんでしょ?」
「いや、だからそれは」
「そういう約束、したんでしょ?」
完全に膨れっ面の涼に、恵那としてはもう謝ることしかできない。
「もお、ほんとに信じらんない。えなが勝てるって自信満々に言うからほっといたのに、負けるってどーゆーこと? しかも、負けたのに僕まで一緒に謝りに行って賭け自体ナシにしてもらうなんて、も、さいてー!」
腕を組んでそっぽを向いている涼の前で、とにかく手を併せて。
「だから、ごめんってば。打順が変わったんだから、しょーがないじゃん」
当初の打順ならば野球部の内村より先に打席に立っていたし、そこでホームランを打って華々しく試合を終わらせるつもりだったのだが。対三年生ということで、試合前に打順を変更したのだ。
「……ほんとに、別れようか?」
涼の冷ややかな声に。
「やだってば。こんなに涼のこと愛してんのに、なんでそんなこと」
「えな、口先だけじゃん。結局楽しくなっちゃって、僕なんてどーでも良くなってたじゃん!」
「そんなことねーって。俺、涼が一番大事だってば」
「信じらんないもん。勝手に僕のこと賭けて、勝手に負けたの、えなじゃん。僕、いなくなってもいんでしょ!」
涼が言った瞬間、恵那がぐっと涼を引き寄せた。
そして「涼がいなくなったら、俺、なんもできなくなる」と、それまでのふざけた声色を完全に消し去って。
「え……」
「俺、やだよ。涼のいない人生なんて考えられない。おまえが傍にいないと、生きていけない」
背後から抱きしめて、耳元に恵那が囁く。
「ふざけてたの、謝るから。俺の傍に、いてよ」
ぎゅ、と抱きしめて。吐息混じりに掛け値なしの本音を涼に囁いて。
「えな……」
「涼が、大事だよ。一番、大切」
自分を抱きしめる腕に、涼がそっと手を添える。
「悠平に。調子こいたのはほんと、俺が悪い。でも、涼がいたら俺は絶対になんでもできるんだ。おまえが俺のだって、そう思ってたらもう、俺は何も怖いモノなくなるから。だから、お願いだから別れるなんて言わないでくれ」
恵那の言葉は、この人にしては有り得ないくらい重くて。
少し掠れた声は普段のそれじゃないから余計に真実が込もっていて。
「涼、ほんとに。ごめん」
心の底からの謝罪の言葉に、涼は小さく頷いた。
「えな……ちゃんと、僕を、好き?」
「好きだよ、当たり前じゃん」
「ほんとに、もう二度とこんなふざけたこと、しない?」
少し体を離し、くるりと涼を反転させて向き合う。
そして正面から目を見つめて。
「しない。涼のこと、もっとちゃんと大事にする」
宣誓した恵那に。
だから、もう何もかも赦すしかないから。
涼は“しょーがないな”といつもの天使の笑顔を見せると。
「僕も。えな、大好き。別れるなんて、軽々しく言うのはもう、ナシにしようね」
「りょーお」
恵那が甘えて来る。
「だから、ね? ちゃんと謝ったんだから、赦して?」
「はあ? 知らない。ね、僕たち別れるんでしょ? じゃあね!」
「も、涼ー、ごめんってば」
甲斐悠平とのホームラン勝負。
一本差で恵那が負けた。
という事実に。
二年C組のソフトボール優勝が決まった瞬間、涼が茫然とした。
「え? どゆこと?」
「えっとー。だから、俺じゃなくてさ、最後野球部の内村が逆転ホームランで勝負決めたじゃん? あれのせいで俺、最後の打席立てなかったわけよ。だから、一本差で負けたの、悠平に」
恵那が言って、優勝に沸いているクラス全員の中で涼に向かって頭を下げていて。
「でも、優勝、した」
「うん、でも勝ち負け関係なかったし。だから、ごめんけど俺と一緒に悠平に謝って?」
と、茫然としている涼の手を引いて一年のソフトチームに連れて行き。
「悠平、わりい。負けたけど、俺涼とは別れらんねーわ」とさらっと言い放った。
決勝戦で一年はとっとと敗退が決まっていたけれど、恵那たち二年が三年に勝ったという事実にはやっぱり下級生としては“下剋上達成!”なんてゆって盛り上がっていたわけで。
「だからさ。ほら、涼もゆってやって」
悠平の前に立たされ、「ね、涼と俺が付き合ってんのは全然無理矢理じゃなくてさ。涼が俺のこと好きなのね」と、何故からぶらぶ証明をさせられて。
「あ……えっと。ごめん、甲斐くん。振り回してほんとにごめんだけど、でも。僕、えなの傍離れる気ないから」
仕方なく、そんな発言をして。
「いや……まあ、それはわかってるっつーか。なんか……自分イキってました。すみませんでした」
何故か悠平も頭を下げた。
恵那に向かって、というよりは涼に向かって。
「ごめんね、甲斐くん。えな、こんなヤツだけど、でも頑張って僕もちゃんと躾するから、赦してね」
「いや、あの。佐竹先輩に謝ってもらうことじゃ、ないっス。全然。気にしないで下さい」
「じゃああの……僕たち、行くね」
頭を下げている悠平に手を振り、へらへら笑っている恵那を引っ張ってその場を離れたけれど。
ここで冒頭に戻る。
「りょーお、怒んないでー」
校内あちこちで勝った負けたと盛り上がっているけれど、二学年棟の裏に行き二人きりになる。
「ね、涼。ほんとにごめんなさい」
「負けたら別れるんでしょ?」
「いや、だからそれは」
「そういう約束、したんでしょ?」
完全に膨れっ面の涼に、恵那としてはもう謝ることしかできない。
「もお、ほんとに信じらんない。えなが勝てるって自信満々に言うからほっといたのに、負けるってどーゆーこと? しかも、負けたのに僕まで一緒に謝りに行って賭け自体ナシにしてもらうなんて、も、さいてー!」
腕を組んでそっぽを向いている涼の前で、とにかく手を併せて。
「だから、ごめんってば。打順が変わったんだから、しょーがないじゃん」
当初の打順ならば野球部の内村より先に打席に立っていたし、そこでホームランを打って華々しく試合を終わらせるつもりだったのだが。対三年生ということで、試合前に打順を変更したのだ。
「……ほんとに、別れようか?」
涼の冷ややかな声に。
「やだってば。こんなに涼のこと愛してんのに、なんでそんなこと」
「えな、口先だけじゃん。結局楽しくなっちゃって、僕なんてどーでも良くなってたじゃん!」
「そんなことねーって。俺、涼が一番大事だってば」
「信じらんないもん。勝手に僕のこと賭けて、勝手に負けたの、えなじゃん。僕、いなくなってもいんでしょ!」
涼が言った瞬間、恵那がぐっと涼を引き寄せた。
そして「涼がいなくなったら、俺、なんもできなくなる」と、それまでのふざけた声色を完全に消し去って。
「え……」
「俺、やだよ。涼のいない人生なんて考えられない。おまえが傍にいないと、生きていけない」
背後から抱きしめて、耳元に恵那が囁く。
「ふざけてたの、謝るから。俺の傍に、いてよ」
ぎゅ、と抱きしめて。吐息混じりに掛け値なしの本音を涼に囁いて。
「えな……」
「涼が、大事だよ。一番、大切」
自分を抱きしめる腕に、涼がそっと手を添える。
「悠平に。調子こいたのはほんと、俺が悪い。でも、涼がいたら俺は絶対になんでもできるんだ。おまえが俺のだって、そう思ってたらもう、俺は何も怖いモノなくなるから。だから、お願いだから別れるなんて言わないでくれ」
恵那の言葉は、この人にしては有り得ないくらい重くて。
少し掠れた声は普段のそれじゃないから余計に真実が込もっていて。
「涼、ほんとに。ごめん」
心の底からの謝罪の言葉に、涼は小さく頷いた。
「えな……ちゃんと、僕を、好き?」
「好きだよ、当たり前じゃん」
「ほんとに、もう二度とこんなふざけたこと、しない?」
少し体を離し、くるりと涼を反転させて向き合う。
そして正面から目を見つめて。
「しない。涼のこと、もっとちゃんと大事にする」
宣誓した恵那に。
だから、もう何もかも赦すしかないから。
涼は“しょーがないな”といつもの天使の笑顔を見せると。
「僕も。えな、大好き。別れるなんて、軽々しく言うのはもう、ナシにしようね」
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